2015年6月12日（金）19:00

スタジオコロリド最新作「台風のノルダ」新井陽次郎＆石田祐康インタビュー！友情…つまり、ドラマを描きたいというところからスタートした企画 (2)

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――本作はタイトルにもある“台風”がテーマのひとつですね。“台風”という現象をアニメーションで表現するのは難しかったですか？
石田：常に物が動いているシチュエーションなので、本当に苦労しました（苦笑）。仮に身体が止めの絵でよくても、服や髪は絶えずなびいています。なびいているさなかにキャラクターを動かすとなると、さらに難易度が高い。原画と原画の間の中割（動画）で、うまく髪をなびかせるというのはとても難しいんです。安易な中割をすると、キャラクターが動いている間は髪がピタッと止まり、原画に戻った時にだけ髪が動くという不自然な絵になってしまう。身体が動いている時にも、髪は風によって別の動き方をしているのが本来あるべき形なんです。ところが、かなりの部分において、中割は失敗してしまいまいたね。予防のために、参考となる絵を事前にこちらで入れておくなどの工夫が必要でしたが、後からみんなで一気に直しました。

新井：冒頭、東がノルダを助けるシーンは、特に大変でしたね。光がバチバチしているので、光っている時のハイコントラストのものと、暗い時の絵と、ふたつの素材を用意しなければいけなかったんです。担当者には申し訳ないことをしました……。僕が、簡単に描けるシーンがない、という絵コンテにしてしまったんですよね（苦笑）。

でも、それは「アオシグレ」の時に石田くんもやっていたことなんです。「アオシグレ」の動き始めのころは、スタッフが僕と石田くんともうひとりだけでした。なのに、石田くんは、3人ではとうてい終わらない絵コンテを描くんです（笑）。石田くんは「ちょっと無理するくらいじゃないといい作品は作れない！」と言っていました。

石田：なんかそれ言い訳に使ってないか？そうは言っても「アオシグレ」ではちゃんと考えていたよ！　「アオシグレ」で自分が一番やりたかったことは、クライマックスの陽向が飛んでいるシーンだったから、それ以外のところでは止め絵を多くしたり、演出的にカロリーを抑えたからね。

新井：でも、あのクライマックスを実現するのには相当……。

石田：そうだね……。もともと人を集める前提だったからなあ。

新井：僕は今まで“スタッフができる範囲”を意識して絵コンテを切ってきたんですが、ちょうど「ノルダ」でも「アオシグレ」のときのような状況だったので、あえて想いを優先させてもらいました（笑）。

――ここは特に力を入れたというシーンはありますか？
石田：冒頭、ノルダが全裸で初登場するシーンは、繊細さに気をつけましたね。ノルダにバナナを食べさぜてあげるシーンも同様です。ほかには、ラストのシーンですね。順番的には最初に原画を描いたシーンで、丁寧に作業しました。時間にも体力にも余裕がある時期に初めたので、監督がラフ原画から描いて、自分が作監し、社内で割ってもらう（動画を作ってもらう）という最短ルートでできました。

いずれも共通点として「ノルダを女優としてキレイに見せる」ということを念頭に置いています。ノルダに力を入れたのは、これまでのコロリド作品に出たことがなかった“着物美人”的なキャラクターだったからですね。ノルダの表現が難しいということは、現場のみんなが言っていて、東と西条は原画マンも比較的簡単に描けていたのですが、ノルダに関しては、僕の方で直接修正することも多かったんです。

新井：僕はどちらかと言うと東と西条に心を砕きましたね。彼らがケンカをしているシーンや、渡り廊下で東が心情を吐露するシーンなどです。ほかには、ラストシーンにも力を入れました。

――「アオシグレ」はもちろん、石田さんの「フミコの告白」から、スタジオコロリド作品は“走る”演出にとても力を入れているように思います。今回の「ノルダ」でも東が走るシーンは、CGを使った迫力のあるものになっていますよね。
石田：走るシーンが好きなんです（笑）。アニメーションとしての見応えがありますからね。

――動画枚数も多くなり、大変なのでは？
石田：そういった大変さはありますが、走るシーンは“走る”という行動のメカニズムさえ押さえておけば、外すことがあまりないんです。もちろん、より魅力的な走り方というのはありますが「これはない」という絵にはなりにくい。一方、ノルダがバナナの皮をむくような繊細なお芝居が要求されるシーンは、ちょっとしたニュアンスの違いで「これは違う」というものになってしまうので、ずっと難しかったですね。

新井：僕がジブリで最初に手がけたのは「たからさがし」という短編作品でした。ゆうじという男の子が、うさぎのギックと一緒に丘の上まで競争する、という走るだけのアニメ。今にして思えば宮崎（駿）さんは“歩く”“走る”というアニメーションの基本的な要素を、僕たちに学ばせたかったんだと思います。今でも、僕のアニメーションの原点はそこにありますね。僕自身が描くキャラクターの丸っこい絵柄もそうですし、「ノルダ」で描きたかった東と西条の友情物語も、ゆうじとギックの関係性に重なるものがあります。

ふたりのキャラクターが競り合っている“走る”シチュエーションは、アニメーションとして純粋におもしろいと思いますし、僕の中でとても基本的なこととして刻み込まれているんでしょうね。

石田： “走る”ことは、とても奥深いのかもしれないね。

新井：突き詰めていけば、走り方ひとつでキャラクターのすべてを表現できるんじゃないかなと思っています。

左から新井陽次郎監督と石田祐康

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――ところで、本作には“脚本”としてのクレジットがありませんね。どなたが脚本を書いたのでしょうか？
新井：脚本はないんです。山本プロデューサーと僕、石田くんやフジテレビの方々で行った企画会議で、ストーリーの大筋を決めて、セリフは何稿か重ねた絵コンテの段階で何度もプロデューサーとやり取りをしつつ作っていきましたね。

石田：「アオシグレ」は、A4用紙2枚ほどの簡単なプロットこそありましたが、ほとんど同じ作り方でした。短編作品なので、あえて脚本として書き起こす必要性が感じられなかったんですよ。例外的に、YKKはCMディレクターの田中淳一さんによる企画のもとに制作された作品なので、しっかりとした脚本がありました。

新井：ほかにも、マルコメ（のCM）の2作目と3作目にも脚本がありましたが、それ以外のコロリド作品には脚本がないんです。

――では、ストーリーの細かいところについてお聞かせください。本作では宇宙からやってきたノルダという少女の背景が、ほとんど明かされないままエンディングを迎えますね。ノルダについては、劇中で語られていない設定があったんでしょうか？
新井：設定としては、いろいろと考えています。ただ、本作は「東と西条が関係を修復するお話」なので、あえてノルダに関するあれこれをカットしました。短編ということで、限られた時間内で主題をブレさせないようにバランスを考えた結果ですね。極力ノルダの背景説明をせず、東と西条の動きに注目してもらえるように配慮しています。

石田：ところで、ノルダは最初、別の名前だったんですが、あるとき急にノルダに変更されたんですよ。あれはどうしてだったの？

新井：エスペラント語の“ノルド”から来ているんです。北を意味する言葉なので、東、西条の東西コンビと釣り合いが取れるかなと。南さんはいませんが（笑）。

――では、最後に本作を楽しみにしている方々にメッセージをいただけますでしょうか？
石田：「ノルダ」は、今までのコロリド作品とは、多少毛色の異なる作品に仕上がっています。自分としても、キャラクターデザインや作画監督として本格的に携わるのは、ほとんど初めてで、学ぶことの多い作品でした。コロリドにとって、ひとつの節目になるであろう作品ですので、ぜひご覧ください。

また、「アオシグレ」も同時上映されるので、そちらもあわせて楽しんでいただきたいですね（笑）。「ポレットのイス」や「rain town」などが収録された「アオシグレ」のパッケージも劇場で販売されていますので、そちらもお手にとっていただければ（笑）!!

新井：「ノルダ」は友情……つまり、ドラマを描きたいというところからスタートした企画でした。東と西条のような人間関係は、誰もが一度は通った道なんじゃないかと思います。そこに共感していただけると、とても嬉しいですね。台風とともにやってきたノルダという女の子も、魅力的に描けていると思いますので、ぜひ劇場に足を運んでください。

――本日は、ありがとうございました！