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2017年10月11日 17:19

特集「映画監督 原恵一の世界」に寄せて

文:氷川竜介(東京国際映画祭プログラミング・アドバイザー/アニメ特撮研究家)

(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 1988
(C)藤子プロ/シンエイ
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(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2002
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第30回東京国際映画祭で、「映画監督 原恵一の世界」として、その代表作が上映される。第27回から始まったアニメーション特集も今年で4回目である。「庵野秀明の世界」「ガンダムとその世界」「映画監督 細田守の世界」と、過去3回も「日本におけるアニメーションの特異性」が浮き彫りになる題材であった。そして特に今回の「原恵一監督」の特集は、「アニメと映画」という関係性の中で、より深く「日本アニメの独自性」に迫れるようなラインナップとなっている。

このコラムでは日本のアニメが「映画を目指す」という営みを続けてきた経緯について述べ、上映作品の紹介を歴史を絡めながら、「国際映画祭で原恵一を特集する意味」について迫ってみたい。

●原恵一監督作品の特徴

原恵一監督の映画は、全方位的なサービス精神にあふれている。シリアスなテーマがあっても、喜怒哀楽と人間の多彩な感情が散りばめてあり、豊かな気持ちになれる。「絵に描けば何でもできる」というアニメの特性に寄りかからず、オーソドックスな演出法の集積であるのに、「忘れがたい」というズッシリとした重い印象を残すのも、比類なき大きな特徴だ。

地に足のついた視点で、誰にでも通じる描写を積み重ねつつ、画にさまざまな想いを託す。そのうえで、一瞬にして人の心奥深く突き刺さる主張を届けようと、まるで武道の達人のように斬りこむ。だから、国境や歳月を超えた普遍性が原恵一の作品に宿る。

一方で商業アニメの特性を考えると、こうした「映画として当たり前のこと」の実現こそが難しいことに、気づかざるをえない。このパラドックスは原恵一のキャリアにも絡んでいる。彼が演出家としてのキャリアを始めたシンエイ動画は、藤子・F・不二雄、藤子不二雄A作品など、マンガ原作の「キャラクターもの」を得意とする会社で、代表作は『ドラえもん』である。原恵一が最初に注目されたのも、同作の演出からであった。

そもそもの話をすれば、「アニメキャラクター」は「記号」なので、人が「こういうもの」という「思いこみ」で成立するものだ。そこにリアルはない。そしてすでに人気を獲得したマンガ原作のアニメ化に際して必要なのは、すでに確立した「お約束」、つまり定型の行動であって、そこに演出家の作家性や新規性が介在する余地はない。

しかし記号しか存在しないアニメであればこそ、「これを何とかしてホントと思わせなければ」と努力するタイプの演出家がいる。リアリティを獲得して世界観を醸成し、観客を「未知の体験」へと誘って心を解放しようとすると、自然と「作家性」がそこに宿ってくる。宮崎駿、出崎統、富野由悠季、押井守、細田守といった日本を代表するアニメ監督たちは、いずれも「原作もの」からにじみ出る作家性が評価され、やがてオリジナル作品をつくるチャンスを獲得していった。

原恵一監督も、その系譜に連なる作家として位置づけられる。前述の「作家性の発動」は、「アニメの特性を熟知したうえで映画にする」ということと、ストレートにつながっている。つまり、日本のアニメを発展させてきた作家の歴史とは「アニメを映画にする歴史」と重なり合うわけだ。そこに原恵一監督の存在感は、非常に大きい。

特に原恵一監督の場合、「日本」を舞台にした作品を中心に手がけている点も実にユニークだ。今回の上映作品すべて、その舞台は日本の現在または過去に設定されていて、その結果として「日本の実像」が照射されている。この点も「国際映画祭で取りあげる価値」として強調しておきたい。先のアニメ監督のほとんどが「ファンタジー世界」「夢の世界」「SF世界」「未来」「宇宙」など飛躍ある舞台設定を扱っているのに対し、原恵一作品は「ここではないどこか」を描きながらも必ず現実世界と接点があり、観客が「いまここ」を顧みる作用をもたらすのだ。これもまた「映画」の基本的な役割ではないか。

以上から、原恵一監督の作家性とは、何かにつけ見えないかたちで呪縛となる「アニメとはそういうもの」という思いこみから脱し、映画として自由になろうという気概に見いだせると言っていいだろう。

こうした前提を念頭におき、以下、上映作品群のポイントを紹介していこう。

●『エスパー魔美 星空のダンシングドール』(1988年)

(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 1988

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原恵一監督は「キャラクター主導のプログラム・ピクチャー」から頭角を現した作家である。日本映画に撮影所システムのあった1970年代までの黄金期には、週間単位で定期的に演目を入れ替える「プログラム・ピクチャー」という興行形態があった。その中から監督、俳優に大きなチャンスが生まれたのである。

アニメ映画では、実写映画と入れ替わるようにして、プログラム・ピクチャーに似た形式が登場している。1980年『映画ドラえもん のび太の恐竜』がヒットした結果、年1回公開の「定番興行」が確立したのである。原恵一の劇場映画デビュー作も、そこから誕生した。1988年3月の興行は『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』をメインに『ウルトラB ブラックホールからの独裁者B・B』と『エスパー魔美 星空のダンシングドール』と、三本立て興行になったのである。

原恵一が20代にしてチーフ・ディレクターとなったテレビアニメ『エスパー魔美』(原作:藤子・F・不二雄)の劇場版だ。「人形が泣いた!?」という原作をもとに大幅にアレンジを加え、挫折しそうになる人形一座の若者たち、人形を無くして泣いている女の子など、ゲストキャラクターの心情のほうにスポットを当てている。

今回は41分の本作に加え、原監督の自薦によるテレビアニメ2本も同時上映される。『たんぽぽのコーヒー』(第54話)は脚本家・桶谷顕(故人)の書き下ろし。『俺達TONBI』(第96話)は原恵一の初脚本作品で、いずれもオリジナル作品である。

3本とも、主人公・魔美の超能力が魔法のような万能性を示していないのが、大きなみどころだ。あくまでも希望や指針をあたえるに留め、事件の解決はあくまでも当事者としている。その抑制とリアリズムに、原恵一の作家性の発露をみることができる。

イベント情報・チケット情報

映画監督 原 恵一の世界 「エスパー魔美 星空のダンシングドール」 第30回東京国際映画祭 (TIFF) Check-in1
開催日
2017年10月29日(日)
時間
21:00開始
場所
TOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都)

フォトギャラリー

  • 原恵一
  • 『たんぽぽのコーヒー』(第54話)
  • 『俺達TONBI』(第96話)

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