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インタビュー 2018年1月3日(水)19:00

新春アニメプロデューサー放談(3)バンダイビジュアル杉山潔氏 「肝心なのは、作品そのものを面白いと思ってもらえるかどうか」 (2)

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――最初に、ビデオグラムで回収するビジネスモデルではない新しいかたちがでてきたとの話がありましたが、今まさに杉山さんがやられている関連イベントや劇場での興行、海外向けの配信など、さまざまな試みがなされています。そうした変化について、どのように感じてらっしゃいますか。

杉山:映像作品の公開方法は、配信もふくめ、いろいろなやり方が増えてきましたが、いちばん肝心なのは、作品そのものが面白いと思ってもらえるかどうか、そこに尽きると思います。どれだけ観ていただける環境がふえても、作品そのものが面白くなければ成功しないでしょうし、そうした意味で本質的な部分は変わっていないと感じていますし、そうあってほしいと思います。
 業界全体の変遷についていえば、海外市場がすごくよくなって、ドンと落ち込んで、またちょっとよくなってという波はありましたが、自分としては日本のファンに喜んでもらえるものを作ろうと、ずっとやってきました。もちろん、海外のニーズにあわせて作る方法もあるでしょうし、いろんな考え方があっていいと思います。私は、自分が手がけた作品はすべて気に入っていて面白いと思っていますが、当然そのすべてがビジネス的にうまくいったわけではありません。ただ、面白い作品を作るためにあがけば、きっといつかいいことがあるんじゃないかなと思いながらやってきて、プロデューサーのキャリアとしてはそろそろ店じまいになる頃に、「ガルパン」でそのことを確認できたのはすごく幸せな体験で、今もそれが続いている感じです。なので、どんなにインフラが整っても、やっぱりその根幹となる作品そのものが面白くなければいけない。それは間違いないのではないかと思っています。

――他のインタビューで、趣味と仕事を分けられていると話されてましたが、これまで手がけられてきた作品は、「ガルパン」を筆頭に、潜水艦ものの「タイドライン・ブルー」や、航空救難団の活躍を描いた「よみがえる空 -RESCUE WINGS-」など、ミリタリーの要素をふくんだものがほとんどですよね。

杉山:「趣味と仕事の話」は半分ジョークです(笑)。私は、引き出しがたくさんあるほうではないんですよ(苦笑)。メカやミリタリー系のものであれば、自分の範疇(はんちゅう)で「こうすればこうなるな」と、ある程度思い描けるのですが、例えば萌え系のものを作れといわれても、たぶんまったくトンチンカンなものを作ってしまうと思います。いろいろなジャンルを器用にやれるほうではなくて、これしかできないからやっているようなところがあるんですよね。ただ、そのなかで伝えられることはあるのかなと思いながらやっています。ミリタリー好きというと、戦争が好きな危ない人に見られがちなところもありますが、私はどちらかというとメカや兵器そのものより、それを扱う人の生き様や心理状態に興味があって、戦争映画が好きなのも、極限状態におかれたときの人間が、どう考え、どう行動するかにドラマを感じるからなんです。ですから、兵器をただ礼賛するような作品を作ってきたわけではないと思っています。また、ミリタリーを意識して推してきたつもりも実はなくて、たまたま子どもの頃からずっと接してきたので知識がそれなりにあり、人のつながりやネットワークも、そちらに太いものがあるので活用してきたら、自然とそうなったという感じですかね。

――ご自身のお仕事とは別に、印象的だった作品やアニメ関連のトピックはありましたか。

杉山:自分の仕事で手いっぱいなのと、どちらかというと実写映画を見るのが好きなので、恥ずかしながら他のアニメ作品はあまり見られていないのですが、そのなかで「心底いい作品を観させてもらった」と思ったのが、「この世界の片隅に」でした。映画の公開は16年ですけれど。

――17年も各地で上映され続けていましたし、去年のトピックといっていいと思います。

杉山:クラウドファンディングを実施していたのが、ちょうど私が「ガルパン」で忙殺されていた頃で、そのことを知らなかったんですよね。劇場で見たら、エンドクレジットに大学時代の仲間の名前があるのを見て、ものすごく嫉妬しました。「この世界の片隅に」は、クラウドファンディングでパイロット版を作り、それをきっかけに映画本編が成立するという、ファンと一緒に作りあげた新しいアニメ制作のかたちだったと思います。内容的にも本当に素晴らしい作品で、私としては戦争映画――と言ったら怒られるかもしれませんが、戦争の只中(ただなか)にあった時代を描いた映画として画期的だったと思いますし、それがアニメーションで成立したということが、自分のことのように誇らしかったです。

「この世界の片隅に」ポスター

この世界の片隅に」ポスター

(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

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――戦争映画やミリタリーに造詣の深い杉山さんにとって、「この世界の片隅に」は、どんなところが画期的だと思われたのでしょうか。

杉山:日本が作ってきた戦争映画は、「男は戦い、女は黙って待った」というストイックなものが多く、時代のせいもあるのでしょうが、最近は特に反戦の旗印がないとなかなか作れないところがあったと思います。まあ、「この世界の片隅に」を見て、最終的に「戦争いいよね」と感じる人はいないはずですけれど。
 「この世界の片隅に」では、戦争をしていた時代の市井(しせい)の人たちの生活を淡々と描き、わざとらしい反戦メッセージを前面にださずに作品を成立させたのは、本当に画期的なことだと思います。官憲の目におびえ、隣組に監視されていたというような、我々がもつ暗いイメージではない戦時中を描いているのも素晴らしくて。原作の、こうの(史代)さんもインタビューで話されていましたが、自分たちの祖父母がそんなに愚かだったはずがないというところから、取材をはじめられたそうですよね。不幸な時代ではあったけれど、生活のなかに笑いやユーモアはあったし、憲兵がきてビクビクしながらも、出ていったらみんなで馬鹿にするような反骨精神もあった。そこには人間の感情があって、配給物資がとぼしくなれば、工夫しながら生き延びるために頑張った人たちがいた。「この世界の片隅に」は、私が今まで見てきたなかで、間違いなく5本の指に入る映画だったと思います。

――最後に、2018年の抱負を聞かせてください。昨年12月に「最終章 第1話」が公開され、ファンの方は第2話以降を楽しみに待っていると思います。

杉山:「最終章」は、だいぶお待たせしてしまって申し訳なく思っています。お待たせするのは、ファンの皆様にはもちろん、我々にとってもいいことではないですし、とくに今回は全6話とうたっているわけですから。ただ、制作をしていくうえで乗り越えなければいけない課題がいろいろとあって、そのなかには時間がかかることがあるといいますか……。その部分は言い訳してもしょうがないのですが、誰もサボってはいませんし、みんなが最大限に頑張って「こういう状況に今あります」というのが、包みかくさず本当のところです。第2話をお待ちいただいている間、「ガルパン」のファンでいてよかったなと思ってもらえるような催しを、今年もやっていきたいと思っています。作品をここまで大きく育て、大事にしてくれたファンの方々の期待を裏切らないよう、我々も大事に作品を作っていきます。引き続き、お付きあいいただけるとうれしいです。

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