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インタビュー 2018年7月23日(月)19:00

「未来のミライ」細田守監督に聞く “キャラ”ではない子どもと動物を描きたい

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細田守監督の最新作「未来のミライ」の主人公は、甘えん坊な4歳の男の子“くんちゃん”。生まれたばかりの妹に両親の愛情を奪われて戸惑う彼は、自分のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ未来からやってきた妹“ミライちゃん”と出会い、家族の過去や未来に触れる不思議な冒険にでる。細田監督に、4歳児を主人公に映画をつくることになったきっかけや各シーンの狙い、アニメーションで子どもや動物を描くことへの思いを聞いた。

取材・構成/五所光太郎(アニメハック編集部)

――映画を拝見して最初に驚いたのが冒頭の部分でした。まず山下達郎さんの音楽がかかって、家族の住む家が空撮のようなカットで映され、その後に、主人公のくんちゃんが生まれ、家を建て替えたときの家族の様子が写真で描かれていました。そして、さらに同じ空撮のようなカットで家を映し、最短でお話に入ろうという、シンプルながら、とてもチャレンジングな導入だと感じました。どうして、あのような導入になったのでしょうか。

細田:僕らは“小窓”と呼んでいますが、映画のエンドロールで、本編を振り返る止め絵を流すことを「時をかける少女」のときからずっとやっています。今回は、それを冒頭にもってくるのは面白いんじゃないかと思ったんですよ。

――“小窓”を使おうというのが先だったのですね。

細田:本編にいたるまでのプロセスを端的にあらわすには、どうすればいいだろうと思った結果、ああいう形になりました。空撮のカットも、「これだけたくさんの家があるなかの片隅にある、小さなおうちの話ですよ」と強調しかったというか、今回はとくに“片隅の話”というところからはじめたかった。最初にスケールの大きさをアピールすることが多い映画のセオリーからすれば逆かもしれなくて、そうした意味でもチャレンジングだったかもしれません。
 今回はもともと映画の本編尺を絶対に100分以内にしたいと思っていて、今作のモチーフからいっても、それがベストな時間だとイメージしていました。そのためにテンポよくスパスパといきたくて、セリフなども最少の説明でいきたいなというのがありました。

――本作の主人公は、4歳の男の子です。製作発表でも最大のチャレンジだと話されていましたが、どのあたりでいけそうだとの感触がえられたのでしょうか。

細田:ひとつ言えるのは、子どもという存在をどういうふうにとらえるかということだと思います。もしも、子どもとは未成熟な存在で、大人はそこから成長して成熟した立派な存在であるとの考えをするのならば、4歳児はなかなか映画の主人公にはならないはずです。だけど、僕は自分の子どもを見て、「4歳で、もうすでにひとりの人間だな」と感じました。具体的にいうと、下に妹が生まれたことで親の愛を奪われ、床を転げまわって泣き叫ぶ息子の姿をみたときに、愛について苦悶するいちばん最初の瞬間なのだろうなと。自分が愛されているのか、愛されていないのか。自分が愛を与えることができるのか、できないのか。かたちを変えながら、こうした愛をめぐる物語って大人になっても続いていきますよね。さすがに大人は、なかなか床を転がらないでしょうけど(笑)。そんな人生にずっとつきまとうであろう問題意識が芽生える、いちばん最初の瞬間なのだろうなと思い、「映画になる」と考えました。

――今回の映画で初めての試みとしては、やはり4歳児が主人公ということですよね。

細田:そうですね。4歳児を主人公としながらも嘘なく描こうというところだと自分では思っています。アニメーション映画で子どもが主人公になると、どうしてもジャンル化しやすくなるじゃないですか。そうではなくて、子どもも自分たち大人と共通する魂をもっていて、そんな子どもの視点から見た家族のありようを描こうと。そうしたモチーフ自体が挑戦的であるぶん、個々のディテールの描写については、今までやって上手くいったものを使っているところはあるかもしれません。

(C) 2018 スタジオ地図

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――「おおかみこどもの雨と雪」でも印象的だった、半分獣で半分人間の姿がでてくるところなど、これまでの細田作品ファンが見るとうれしくなる描写も多かったと思います。

細田:演出をしている人間は、上手くいったものを繰り返しやるところが必ずあると思います。「『おおかみこども』から、ずっと人と獣の中間を描いているのが細田監督らしい」というようなことを言われたこともありますが、たしかに今回も“ゆっこ”という犬がでていて、そうしたところに僕がエンタメ性を強く感じているからかもしれません。今の話に関連して、もうひとつ思っているのは、今のアニメーションでは動物をなかなか描かないですよね。動物型の“キャラ”はたくさん描かれていますけれど。

――なるほど。

細田:4本足で走ったり、ジャンプしたりするような動物を描けるアニメーターはそういないですし、描こうという志そのものが、日本のアニメーション界では、ほとんど失われてしまったようにも感じています。昔の東映長編では、動物をきちんと描いていて、さらにもとをたどればディズニーが、動物を描くことで子どもの心にアプローチしていた歴史があります。僕の映画に動物がでてくるのは、そうした原点を忘れずにいたいというのも大きいです。ただ、いざ動物を描こうとすると、どんなに上手いアニメーターの方でも、描いたことはないとか、昔は描いていたけど今は忘れてしまったとかいう人ばかりなんですよね。

――そうなのですか。

細田:子どもについても同じで、アニメーションで当たり前のように描かれているように見えて、実は描けていないのではないかと感じることが多いです。今描かれているのは子どもや動物そのものの本質を描くのではなく、「子どもや動物的なキャラ」を描いているにすぎないところがあって。実際に、子どもや動物を描くのはものすごく手間がかかって、上手いアニメーターをもってしても、とても難しいことです。それでも情熱を傾けて描いていくことで積みあげていきたいという思いがあります。

作品情報

未来のミライ

未来のミライ 9

とある都会の片隅の、小さな庭に小さな木の生えた小さな家。ある日、甘えん坊のくんちゃん(4歳)に生まれたばかりの妹がやってきます。両親の愛情を奪われ、初めての経験の連続に戸惑うくんちゃん。そんな時...

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