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特集・コラム 2018年7月2日(月)19:00

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第5回 追いかけてみる、心の視線

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「コア・ファイター、コンビネーションGo! ガンダム、イン!」
 1979年、「機動戦士ガンダム」のテレビ本放送中のクローバーCM「ガンダム合体セット」で流れたかけ声である。最近のSNSで、ガンダム発進部分に合わせた「ガンダム××××」が子役のせいか聞きとれないと話題になった。公式ではなくCM用キーワードだから書籍にも載っていない。だがこれは、「ガンダム、フォロー!」以外考えられない。カメラワーク用語から、理由も推定できる。
 筆者は高校生時代、「宇宙戦艦ヤマト」の現場で入手した絵コンテを熟読して演出の基礎を知った。アニメ雑誌もなく専門書も乏しい時期、自分で解析したことが後々良かった。中でも「Follow(フォロー)」は謎めいたカメラワークで印象的だった。被写体の位置が画面内で固定され、背景を引いて移動を表現することと、「→ 台」という指定が撮影台というのは見れば分かるのだが、問題は「フォロー」の意味である。そんな話を近年の知識を交えつつ、つなげてみよう。
 前回の安彦良和による談話では「戦いが激しくなって舞台から飛び出たら、カメラが追っかけるので紙(フレーム)を追加する」と語られていた。これが「フォロー」の本質である。徒競走を想定してほしい。「ヨーイ!」でランナーが緊張し、「ドン!」で駆け出す。緊張の間はカメラ位置は変わらず、静止した時が流れる(ズームであってもカメラは固定)。走り出しの動きの瞬発力を、周囲との対比で伝えるためだ。やがて走りが定速に近くと、カメラもランナーを追って同じ速度で走って被写体を画面にとらえる。これから始まる接戦の様子を伝えるためだ。背景は流れ、他のランナーと追いつ追われつの速度差も描かれるだろう。この「被写体固定でカメラが追う」が「Follow」なのだ。
 実写なら、カメラを移動車に乗せて追う。パワーアップ版の「DX合体セット」の商品構成なら、履帯がついて走るGアーマーの上にガンダムが立っているイメージだ。実写映画では撮影を「シューティング」、編集前素材を「ショット(shootの過去分詞で“撃たれたもの”)」と呼ぶ。撮影現場は「狩猟の場」であり、カメラは銃なのだ。もし日没までにOKテイクのノルマがあれば、生の獲物(ライブ)をいくつ狩ることができるか、緊張が伝わって現場をひとつにまとめる。
……という諸々を考えれば、ガンダムが獲物を追跡(フォロー)してメインカメラで敵機をとらえ、射撃して狩る行動は「フォロー」以外考えられない。商品周りに富野由悠季総監督が深く関与していることは近年判明しているから、なおのことである。日本大学芸術学部時代、走る人に台車で併走して撮影し、画面内の移動方向によって主観時間に差が生まれる「フォロー実験」をした談話もあるのだから、監督にとっては常識のはずだ。

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(c)創通・サンライズ

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この話を補強する事例も思い出した。大地丙太郎監督、水島精二監督と「アナログ撮影時代」の話題を展開するトークショーで聞いた話である。「未来少年コナン」(78)を撮影したとき、宮崎駿監督の演出要求がいかに厳しく撮影に負担だったか、という話題だ。高畑勲・宮崎駿コンビの後世への影響のうち、特に大きなものに「引きの微速度化」がある。撮影台には丸いハンドルがあり、これを回転させて素材を平行移動させる。設定としては永らく1コマあたり0.25ミリが最も遅い移動とされてきたが、これを変えたのが「アルプスの少女ハイジ」(74)だった。「日常に流れるゆったりした時間」を表現するため、1コマあたり0.125ミリまで下げて雲の移動などを表現したのである。これが業界全体に拡がって、日本製アニメはジワジワした速度感を獲得し、何かとチャカチャカ移動するカートゥーン系との差ができたのだった。
 撮影台の移動にはX軸とY軸としかないという機械的制約があった。両方同時に使うとナナメに動かせるが、1軸だけである。移動に対して軸の異なる移動は撮影素材を台に固定できないので、補助のための治具を作って引く。これは容易にガタつくので「クロス引き禁止」と呼ばれて避けられていた。ところが第24話「ギガント」ではこれを使いまくったため、労力が大変だったという。
 ギガントとは、かつて世界を破滅に導いた巨大空中要塞だ。その最後の1機を独裁志向の悪役レプカが起動した。それをコナンたちが阻止できるか、というクライマックスである。科学都市インダストリアの地表が家々ごと巨大なブロックとしてスライドし、ギガントが驚くべき微速度でジワジワと姿を現す。その機体は背景とセルを混合した手法「ハーモニー処理」が施され、絶妙なテクスチャやディテールが描きこんである。その周囲に小型機ファルコが旋回する際に、「クロス引き」が多用されているのだった。
 筆者は最初間違えて、空中で一定速度となったギガントにファルコが突入するシークエンスを選んで上映してしまった。なぜそこではないのか? 飛びたってしまったギガントは、主にカメラの「フォロー」でとらえられているからだ。仮にシナリオがあるなら「柱」で表現されるシーン(舞台)は出撃時は「インダストリア」である。その舞台に出入りする被写体としてギガントに注目を集めるために微速度で移動させ、さらに対比物として比較的高速のファルコがギガントの方向性と食い違う方向性で入りこむ。
 一方、安定飛行に入った後は、第25話「インダストリアの最期」がギガントを落とす話だから、ギガント自体がコナンたちの大暴れする新しい舞台になる。シナリオの柱も「ギガント(翼上)」などとなるだろう。ということは舞台を固定させるためにも「フォロー」が必要となる。それは先ほどの徒競走のアナロジーからも明らかではないか。
 ちなみにこの時、空の背景、雲のBOOK1、雲のBOOK2を「密着マルチフォロー」で引いて、速度差を1コマあたり0.25、0.5、1.0など倍数にして立体感を出す。それは宮崎アニメの常道だったりするが、ポイントは「フォローされる被写体はトメ(静止)」である。飛行しているものを見つめるカメラの目線が、観客が見つめる心の目線と結ばれるためにも、それは必要だ。
 カメラワークとはそうした心理の操作のために開発されたものだ。筆者の頭脳は、アニメを観てないときでも常にこうした「連鎖の発見」でフル回転だ。そんなふうにアニメをつなげてみるのも良いではないか(敬称略)。

氷川 竜介

氷川教授の「アニメに歴史あり」

[筆者紹介]
氷川 竜介(ヒカワ リュウスケ)
1958年生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院特任教授。アニメ専門月刊誌創刊前年にデビューして41年。東京工業大学を卒業後、電機系メーカーで通信装置のエンジニアを経て文筆専業に。メディア芸術祭、毎日映画コンクールなどのアニメーション部門で審査委員を歴任。

作品情報

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