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インタビュー 2018年7月23日(月)19:00

「未来のミライ」細田守監督に聞く “キャラ”ではない子どもと動物を描きたい (2)

――しかも、段差のある家の中を歩くのは、動かすのに大変なご苦労があると思います。

細田:そうなんですよね(笑)。今回は動かす時間も長くて、アニメーターの皆さんにはかなりの負担をかけています。「未来のミライ」は1時間38分で約900カットありますが、ほぼ同じ上映時間の「時かけ」は1260カットです。同じぐらいの尺なのに、350カットぐらい少なくて。

――なるほど。1カットあたりの時間が長いわけですね。

細田:そうしたなかで子どもや動物を描いていくのは非常にハードルが高い試みでしたが、作画を進めながら、この作品で描きたいテーマとぴったりきているなと感じることができました。子どもを描くにあたっては、子どもをスタジオに連れてきて、みんなでスケッチ会も開いたりしました。抱っこをして、子どもの重さや柔らかさ、髪の匂いなども体験してもらいました。本編にでてくる階段の上り下りを、実際に子どもにしてもらったこともあります。そうすることで、子どもを描く意義や喜びのようなものをアニメーターの方々に感じてもらい、「描いていて楽しい」と言っていただけたのはうれしかったです。

(C) 2018 スタジオ地図

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――瑣末な質問で恐縮ですが、おとうさんが赤ちゃんのミライちゃんを抱えながら、くんちゃんを幼稚園に送迎しているところで、かっこいい中学生の男の子とすれちがいますよね。1回しかでてきませんが妙に存在感があって、その後の展開に何か関係があるのではないかと思いました。

細田:たしかに気になりますよね。僕のまわりの女子の間でも、「この男の子は、次回作にでるキャラでしょう」なんて言われていたみたいで、そういうふうに見えるのだったら、そうしようかなと(笑)。

――(笑)。

細田:もともとは、中学生の女の子は恋に憧れるようなところがあって、そんな様子をミライちゃんが見て、未来のミライちゃんも将来の結婚相手のことを中学生のときから心配しているってことを表すようなシーンでした。そこにでてくる美少年としては、もったいないほどの男の子を描いてもらえました。

――終盤の東京駅のシーンはホラーっぽい雰囲気があるなと思いましたが、くんちゃんが幼い頃のおかあさんと出会って2人で部屋を散らかすところも、とても怖く感じました。

細田:たしかに、あのシーンは単に散らかして楽しいというだけではなく、嵐が迫ってきて暗くなるような画面にしていて、ある絵本を読んだときのイメージを思い出しながらつくったところがあります。映画「転校生」の原作者である山中恒さんが書かれた「なんでもぽい!」という絵本があって、それも兄妹の話なんですよ。気に入らないものを「消えろ!」と言って消してしまう女の子が、うるさいお兄ちゃんや、部屋を散らかすと文句を言ってくる親を消していく物語なのですが、その絵本を読んだときに、子どもの気持ちをリアルに表現しているなと感じました。好き放題に振る舞っているなかに、一種の罪悪感や怖さ、快楽のようなものがないまぜになった気持ちがあるといいますか。今読み返したら違う話かもしれませんが、そうした印象だけが強く残っていました。

――映画をつくり終えた心境はいかがですか。

細田:4歳児を主人公にした映画づくりは、とても面白かったです。家の庭から不思議な世界につながるとき、10歳の子だったら「なぜ庭が変わったんだろう?」と戸惑う描写に5分間ぐらい使ってしまいますが、くんちゃんは、その不思議さを不思議だと感じずにストレートに受け入れます。社会的な存在になった大人の僕らは、説明や理屈がないと前に進めないところがあって、その時点で不思議な世界からお呼びがかからない存在なわけですよ。

――そう思います。

細田:でも、子どもは違うんですよね。本編にもありますが、ちょっと前まで自転車に乗れなかった子が急に乗ることができるようになる間には、いったい何があるのだろうと、すごく不思議なんです。子どもたちが見ている世界には、僕ら大人には見ることのできない何かが作用しているのではないか。そんなふうに思いながら子どもを見ると、彼らが見ている世界のほうが広いのではないかと思うことがあります。4歳児の視点を借りることで子どもだった頃を生きなおして、これまでとは違った世界の見方を発見できるようなことが、この映画で実現できていたらうれしいです。

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作品情報

未来のミライ

未来のミライ 9

とある都会の片隅の、小さな庭に小さな木の生えた小さな家。ある日、甘えん坊のくんちゃん(4歳)に生まれたばかりの妹がやってきます。両親の愛情を奪われ、初めての経験の連続に戸惑うくんちゃん。そんな時...

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