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インタビュー 2019年11月28日(木)20:00

劇場版「Gレコ l」富野由悠季が語る“アニメの力”と新たな“革命論” (2)

(C) 創通・サンライズ

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――「G-レコ」では、そうした未来への問題点を洗い出した、というのですね?

富野:“洗い出した”というより“並べ立てた”、というほうが正確です。光子を圧縮したフォトン・バッテリーのような技術も、リアルに考えればバカバカしいのですが、宇宙開発の目的地を考えれば、その逆算として必要になってきます。フォトン・バッテリーを生み出す集団が月の向こう側にいる、ということにしたのにも意味があります。エネルギーというのは、地球が内包しているものを除けば、太陽光しかありません。20世紀までの人類は炭と薪、そして太陽光だけですべてをまかなってきましたが、今は電力という摩訶不思議なエネルギーで日々の暮らしを運営しています。そうして経済は拡大、ではなく肥大してしまい、地球の容量に見合わなくなってきているのかもしれない……。本来、自然から生み出されるエネルギーを利用するくらいが適当なのに、我々は原発で作られたエネルギーですら自然のものだと思い込んでいるフシがあります。これはヤバい。20世紀まではどうにかやりくりしてきたのに、どうしてこうなってしまったかというと、要するに消費団体――人口が多くなりすぎてしまったんです。ところが、こんなことをやっていては、地球はもたないんだということを言っても、21世紀までの知識と教養でがんじがらめになった大人たちは、次のステージには行けない。いま世界の舵をとっている政治家、経済人たちは、ガンダムファンよりも、はるかに想像力が欠如していると思えます。

こうした現実に対してカウンターを打とうとするとき、「G-レコ」があるととても説明がしやすい。「G-レコ」があるから、こんな難しい話がスムーズにできるんですよ。「G-レコ」に出てくるメカや景色は、すべて現実の喩えになるようにして、簡単に環境問題にまで触れられるという構造にしましたから。リアルから発した絵空事の物語を、初めて手に入れることができたのではないかと思っています。映画を編集しながら「初期の狙いは基本的に間違っていなかった」と確信できたので、ダイジェストとかリメイクを作っている気分ではなくなってしまいました。「G-レコ」で言いたいことは、先に示したような凝り固まった大人たちに訴えても詮無いことなので、ぜひ20代前半以下の若い世代に見てもらいたいのです。ガンダムを見たことがない子どもたちがターゲットなので、「ガンダム」というタイトルは外せと言っています。若者たちにとって「ガンダム」は、なんだか小難しくて面倒くさそうだというイメージがあるようで、今や客引きにもならないのです。

――うーん……ガンダムファンとしては複雑なお話です。

富野:だって、もう歳のいった君たちに解決策は見いだせないでしょう? だから、25歳以下の若い世代に期待しています。「∀」の頃からそうした意識はありましたが、ガンダムに縛られていると、ガンダムの檻から抜け出せないということがわかりました。「∀」は科学技術論まで話が及ばず、ディアナ様の物語で終始してしまいました。近未来の技術論に、憧れとしてなんとなく触るのだったら、それがどこまで正しいのか、それははたして真なのか、ということを考えさせるような作品でなければならない。「G-レコ」はそこを目指していた作品だったと、劇場版までやらせていただいた今になって、ようやく定義づけることができました。解決策を見いだせなかった年寄りとしては、若い世代に“預ける”ことをしたい。僕が気づいた問題点は「G-レコ」を見ていただければわかりますから、と。

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――「ディアナ様のお話で終われない」ということは、「∀」以後の15年間で、たくさんの新たな問題点が見えてきたということなんですね。

富野:そうです。いまの政治経済の主導者にニュータイプがいないということがわかってしまった。その最悪の事例が経営者、実業家です。そういう人たちを見ると、人類に絶望せざるを得ません。いわゆる“GAFA”……もともとの創業者はもう少し違う理想を抱いていたらしいのだけれども、事業として巨大企業を形成するにあたって、組織が生き延びることを優先するようになってしまいました。しかし、例えばAmazon、今はいいかもしれませんが、10年、20年後、配達員は歳をとって劣化していく。その結果、移民を受け入れるしかなくなってしまう。そこまでは、まだ予定していないでしょう。

――GAFAが世界を掌握しようとしているといわれることもあります。

富野:その言葉づかいは大間違いです。彼らは世界を支配しても幸せにはなれません。現世代のことしか見えておらず、そこから先の見通しがないのです。マーケットを永遠に維持できるはずがないからです。地球上のリソースは有限ですから、アフリカ大陸の4~5億人の人々が、そろって中産階級になってしまったら、その需要を満たすだけの商品は提供できません。我々一般市民が現在享受している生活環境は、すでに中世の王侯貴族のそれを凌駕(りょうが)しています。食品ロスなんてその最たるもので、今になってようやく期限ギリギリまで売れと言い出してきているけれど、時すでに遅し。中央官僚が今言っているということは、10年前には限界を迎えていたのです。包装紙にしたところで、新聞紙以外は使ってはいけない、というような政令を出すべきだった。自動販売機だって、マイカップ持参にするべきですよ。我々はそうしたことに対して、なんの疑いも持たずに過ごしてきました。今はまだ表面化していない問題ですが、この50年ほどの間に、ある程度まで意識を変革できなければ、破滅が待っているでしょう。

……というようなことも「G-レコ」をベースにすると、とても話がしやすい。「ロボットもの」というジャンルもここまで来ました、と僕自身はうぬぼれています。ただ、このくらいには話をしないと「絵空事だけどリアル」という言葉の意味をわかってもらうのが、ちょっと難しい。だから「ドラえもん」くらいまで、みんなが「G-レコ」の内容を理解してくれたらいいなと思って、いま劇場版を作っています。ところが、その「G-レコ」のフィルムにも問題があって、たとえば食事のシーンで、料理の下に紙が敷いてあったりする。設定上、再利用できるものなのですが、その説明をするタイミングがなかったんです。本当はそこまで言わなければいけないのに、それができずに悔しかったというのは山ほどあります。
 「G-レコ」では、根本的なところでエネルギー論やシステム論全般に触れ、キャピタル・タワーに代表される経済についても「今の経済は実態を伴わない、バーチャルなものではないか?」という問題点を提示しました。現実を見直す力を手に入れたいと願うのですが、それは僕より最低50歳は若い人でなければ実現できないのではないかと思っています。ですから、若いみなさんに期待します。それが「G-レコ」最大のテーマです。

――もっと地に足をつけた考え方をしよう、ということなのでしょうね。宇宙世紀の「ガンダム」作品の物語は、宇宙から地上を見下ろす構図でしたが、「∀」以降「G-レコ」も地上から宇宙を仰ぎ見る構図に逆転しています。なにか関連があるのでしょうか。

富野:あります。地球を起点に考えなければいけないと思ったし、地球に住んでいる子どもたちに見てもらいたい物語なのだから、そのほうがわかりやすいだろうということは、「G-レコ」の企画書の一番初めに書いたことでした。これには、自分でも驚いています。実のところ「ガンダム」には宇宙戦記ものという、ある種のわかりにくさがあったので、リアルな問題を語るのが困難だったのです。それが「G-レコ」ではできるかもしれない、ということで「間違っていなかった」と思っています。

――“脱ガンダム”を果たした「G-レコ」は、物語の構造でも「ガンダム」とは一線を画す作品になっているということですね。

富野:そうです。「ガンダム」は40年も続いている作品で、その歴史の積み重ねに押しつぶされて窒息してしまう。「ドラえもん」や「ポケットモンスター」などは、そうした構造を作品自体がもっていないので、これから先も末永く生き延びていくことでしょう。「ONE PIECE」ですらそうだと思っています。ただ「ガンダム」はそうではないという匂いがあるので、延命策として「G-レコ」のような作品が必要だろうと考えました。

もうひとつには、僕が歳をとったというのもあるでしょう。僕はリアリズムで考えるのが、とても大事なことだと思っていますが、「バーチャルな経済があるのではないか?」ということに気づくと、政治家や経済人は必ずしもリアリズムでものを考えていないのではないか、と時代が変わったことに考えが及びました。そうした逼塞(ひっそく)感があるから、新海アニメや京都アニメーション作品のような、“癒やし系”の作品が支持されるのでしょう。抑圧された一般大衆は想像以上に多く、それは中国で「君の名は。」や「天気の子」が大ヒットしたことからも、日本のみならず世界の先進国に共通する潮流であることがわかります。平成期に起こった変遷というのはかなりすさまじく、うつ病や引きこもり、神経症などを喚起する世界になってしまった。イギリスがEUから独立するのしないのというドタバタも、首脳陣だけが悪いとは言えません。一般大衆がそれを支持するというようなポピュリズムが根底にあるからです。ハタから見るとバカ騒ぎですが、当事者としては、そうしなければ救われないつらさがあるのでしょう。ガンダムで鍛えられた、別の言い方ではガンダムの呪縛にとらわれてしまった僕のような人間にとっては、こうしたバーチャルにリアリズムがとって代わられた時代への“世直し論”を唱える以外に、(新作への)モチベーションがなかった。そのために「G-レコ」になったのだとも言えます。

(C) 創通・サンライズ

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――世界的な病理を克服する“世直し”のカギは“元気”だというのですね?

富野:まったくそういうことです。次の世代の若い力が、この逼塞感を切り開いていくところを見つめていきたいし、「G-レコ」が、そうした子どもたちを生み育てる引き金になればいいなと思っています。こうして、考えていることを言葉にして伝えることができるのだから、我ながらすごい作品を作れました(笑)。ただ、もう少し力強い……子どもたちを奮い立たせるような作品にしたかったという思いは、なきにしもあらずです。

これは最近見つけた言葉なのですが、「“世直し”はひとりの人間にはできず、“賢者の疑惑”」つまり大勢の賢い人たちが「これはおかしいのではないか?」と感じることが必要なのではないかと思います。あくまで“疑惑”であって、「こうすべきだ」ではありません。右翼的にせよ左翼的にせよ、べき論で進めてしまうと、かのソビエト連邦ですら崩壊した共産党のような独裁的ルートに向かってしまう。そうではなく「おかしいんだよね」という声が1億も集まれば、世の中が正しくなる。これは東大、京大に行けということではないから、“賢者”という言い方のほかにない(笑)。幸いにも、大陸とつながっていない日本列島は、人々の意思統一や議論がしやすい“世直し”ができる土壌なのだと信じています。だから、今の僕は革命論を拒否することができるようになりました。明治維新の頃なら、革命派の志士たちがいてもいいし、それを阻止する新選組だっていてもいい。しかし、今のグローバル経済時代の革命は、そうではないでしょう。

――シャアがやろうとした革命は、今の時代にそぐわないということですね。

富野:シャアのそれは20世紀の革命論でしかなく、理念論に過ぎなかったのではないかと思います。今となっては、オールドタイプだと断定もできます。「G-レコ」の企画当初から10年間、ずっと突破口が見つからなくて、このことに気づけたのはごく最近なんです。しかし、賢い人にすぐ解決策が見いだせるかというと、そんなに簡単なことではないんです。賢いがゆえに、安直ではないから。例えば老人介護の問題にしてもそう。「老人介護を充実させましょう」という言葉だけでは解決できないことに気づき、“おかしいぞ”と言えるのが“賢さ”です。そんな人たちが集まって、頭を悩ませるなかで、必ず光明が見えてくるものだと思います。愛煙家の僕としては、世界的な人口増の問題に対して「みんなにタバコを吸わせろ!」なんて愚民らしいポピュリズムに走ってしまうのですが、「お前はそれで幸せかもしれないけど、そんな簡単じゃない」って言われれば「そうだよね」って返せるようになったのは、賢くなれたかなって思っています(笑)。

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