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インタビュー 2020年8月24日(月)12:00

今敏監督をしのんで 平尾隆之監督が今監督に教わったこと (2)

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――制作進行とそういう話をして映像まで貸してくれるとは、すごく気さくな方ですね。

平尾:そうした面もある優しい方でした。仕事以外の部分では、少し毒のあるウィットにとんだジョークがお好きな方で、最初僕が話しかけたときの「殺すぞ」も、きっと今さん流の照れ隠しだったんでしょうね。今さんは終電間際の夜の11時か12時ぐらいまで仕事をして、仕事がひと段落して帰る前に、スタジオのなかでお酒を交えながらスタッフと歓談することが多かったんです。そのときが、いちばん今さんと会話できる時間でした。あと「真夜中のカーボーイ」の話もしましたね。当時、「バッファロー'66」が公開されて(※1999年7月日本公開)、今さんが「しゃらくせえ」って話をされていて(笑)

――(笑)

平尾:ああいう映画はニューシネマの影響をうけていて、どうにもならない映画なんだ、みたいなことを言われていて。でも、今さん自身はおそらく「バッファロー'66」がすごく好きなんですよ。その流れで、「真夜中のカーボーイ」の話もしてくれて、「お前も見ろ」と。「当時、田舎からでてきたやつが何もなせずに終わっていくような話がはやっていたんだ。田舎からでてきたお前は、見て『ああはなるまい』って思うのがいいんだけれど、きっと映画の主人公と自分を重ねてちょっと酔っちゃうんだろうな」みたいな話もされたりしました(笑)
 もうひとつ覚えているのが、「千年女優」が終わったあとに僕はカメラの勉強をしようと思い、大枚はたいてデジタルのハンディカメラを買ったんですよ。そのことを今さんに報告しにいったら、「よし、じゃあお前、その奥から歩いてこい」と言われて、台車にカメラをおいて今さんがバーッと引きながら、僕が歩いている姿を撮ってくれたんです。で、その映像を見せてくれたら、僕の歩き方がチンピラみたいだったんですよね(笑)。当時の僕は若かったから、ちょっと大またで靴をずりながらだらしなく歩いていて、「僕こんな歩き方してるんですね」と驚いたら、「そうだろう。恥ずかしいだろう。直せ」と(笑)。そういった仕事以外の立ち居振る舞いなども、さりげなく指摘してくれました。今の仕事場での人間関係ではあまりないことだと思いますけれど。
 高校を卒業し、専門学校をでてからマッドハウスに入った当時の自分からすると、今さんは“唯一の大人”のような存在でした。社会というものを知っていて、なおかつ作品づくりで素晴らしいものを残されている。そんな今さんに社会の厳しい面を教わったというか、「千年女優」のときでいうとそんな感じでしたね。

――すみません。ちょっとだけ話を巻き戻させてもらうと、「千年女優」の制作進行に誘われたとき、平尾さんは今監督が自身のサイトにアップしていた「『パーフェクトブルー』戦記」を読まれていたんでしょうか。

平尾:僕は存在自体知らなかったですね。まだみんながパソコンをもっている時代ではなかったですから、スタジオ内でも実は読んでない人のほうが多かったんじゃないでしょうか。制作進行として働きはじめて豊田さんから、「『パーフェクトブルー』のときにこういうことがあったらしいよ」と教えてもらって読んで「おお、怖いな」とは思いましたが、書いてあること自体は、今さんが普段言っていることとそう変わっていなかったんですよね。そこに差は感じませんでしたから、あまり気にはしなかったです。今さんって、恥ずかしがりやというか、普段からああいう感じの物言いをされる方ではあったんですよね。今さんがご自身のサイトに書かれた文章のように、普段からあえて自分を意地悪で皮肉屋のように演じられている部分があって、本来はとても繊細な方なんだと思います。
 「千年女優」では、もうひとつ思い出深いことがあります。制作が終わったあと内輪で打ち上げをすることになり、メンバーでいちばん若かった僕に今さんが「お前、打ち上げで何が食べたいんだ」と聞いてくれたので、僕は「スキヤキです」って答えたんです。そうしたら大笑いされて、「スキヤキって、お前、昭和の子どもか」みたいなこと言われて、でも当時の僕にとって、ごちそうといえば本当にスキヤキだったんですよね。今さんからは「お前、ほんとのごちそうっていうのは、お皿にちょんと肉がのっていて、それがウン万円するみたいなものだよ」と言われて、「そうなんですかねえ」みたいな話をして。で、打ち上げの日にここでやるからと行ったら、そこはスキヤキ屋だったんです。

――いい話ですね。

平尾:口ではそう言いながらも「じゃあ平尾が好きなスキヤキにしてやるか」っていう心くばりですよね。「大人や年上の人って、年下の若い子にこうしてあげるものなんだな」と僕のなかでの指針になっていて、そうした面でもすごく教わりました。

■「千年女優」千代子の最後のセリフと幻のアニメCM

――参加されているので冷静に見られない部分もあると思いますが、「千年女優」の作品自体はどんなふうにご覧になりましたか。

平尾:僕は好きですね。今さんの作品は映像面や演出、クオリティの高さみたいなところは常に高水準なので、僕の感想はそこを抜いて話をすることが多いんですけれど。

――映像的に見どころがあってすごいのは自明のものだと。

平尾:ただテクニナルな部分でいうと、アクションをつなぎながら別の時代のシーンをつないでいくマッチカット(編注:時間も場所も異なる場面を、共通の動作や被写体の類似性でつなぐ編集技法)は「千年女優」で覚えた気がします。こんなにスムーズにつながるものかって驚かされて、そこは影響をうけたところではありますね。自分の作品ではあまりやっていないんですけれど。
 何より圧倒されたのは、今さんは本当に映画が好きなんだなっていうことでした。「千年女優」には、ひとつひとつのカットに過去の映画へのオマージュがあって、「これはこうなんだよ」と長く語れるぐらいだったんですよ。そのときの僕は映画をぜんぜん見られていなくて、今さんからその話をされたときは、ここまでの多方面の知識をもっていないと監督ってできないものなのかと思いました。演出や監督になりたいと思ってやってきたけど、そこで壁にあたったというか、自分はこれまでの人生でそうした勉強を何もしてこなかった。そんな自分がすぐに演出や監督になれるわけがなかったんだな……と思い知らされたといいますか。それぐらい、今さんがこれまで得てきた知識を総動員してつくっているという印象がありました。
 ストーリー面でいうと、やっぱり最後の千代子のセリフですよね。当時の僕自身の正直な感想としては、ないほうがよかったかもしれないなと思ったんです。

――そう思われるのも、よく分かります。

平尾:のちのち今さんとその話題になったとき、「あのセリフがないと、どういう映画か分からなくなっちゃうからね」と言われて、すごく納得はしたんですけれど。そのあとたぶん照れ隠しで、「それで賞をとったんだからな」みたいな話もされてましたね(笑)
 今さんの作品について、ご本人と話を直にした思い出は作品ごとにあって、僕は「東京ゴッドファーザーズ」(03)には関わっていませんが試写を見せていただいて、帰ったその日か次の日に話をしたんです。で、すごく面白かったけど、最後、病院の屋上のところで奇跡の風がふくところは、もっと尺をとってもよかったんじゃないですかと言ったら、「バカ。そういうふうにこれ見よがしに盛り上げるのはチンピラなんだよ」っていう話をされた覚えがあります(笑)
 僕は今さんの作品のなかで、「東京ゴッドファーザーズ」がいちばん好きです。今さんのなかにあるエンタテインメント性、ジョーク、ロジカルな構成力が絶妙なバランスでまとまっている気がして、僕自身がトリッキーな演出だけでなくドラマをしっかりとつくりたくなってきてからは特にそう感じるようになりました。

――平尾監督はその後、今監督の現場をいったん離れて、「TEXHNOLYZE」(03)で初めて絵コンテ・演出の仕事をされます。

平尾:今さんがやった生命保険のCMってご存知ですか。

――えっ、そんな作品があるんですか。

平尾:「千年女優」と「東京ゴッドファーザーズ」の間に、田中麗奈さんが出演していた第一生命の「第一でナイト」のアニメ版CMをつくっていて、本田(雄)さんが作画、今さんはコンテと演出までやって、僕は撮出しをやらせてもらったんです(編注:CMは未公開の模様)。その後、僕は「TEXHNOLYZE」で絵コンテと演出を初めてやらせてもらい、ただまあ、やっぱりまだまだというか……。絵コンテも監督の浜崎(博嗣)さんに全部直されていましたし、まわりからも「あいつは演出に向いていないんじゃないか」みたいな感じになりまして……。

――ご自身のなかで、そう思われていただけではないのですか。

平尾:いやあ、社内的にも僕を制作に戻したがっていたところはけっこうあったと思います。それでどうしようかなと思っていたときに、今さんが「妄想代理人」というテレビシリーズをやるという話を知って、他の作品で絵コンテ・演出をやりましたので演出としてちょっと参加させてくださいと相談したら、豊田さんがいいよと引っ張ってくれたんです。もちろん今さんが許してくれたから参加できたわけで、今さんは「千年女優」での僕の仕事ぶりに怒りながらも、CMの撮出しなどで僕に声をかけてくれて本当に助かりました。

■演出・演出助手として参加した「妄想代理人」

――「千年女優」よりも「妄想代理人」のほうが仕事の関わりとしては長かったですか。

平尾:長かったですね。長かったですけど……僕としては「千年女優」から続いて今回も今さんにご迷惑ばかりおかけしたなという思いでした。1話の演出の仕事は、今さんがチェックしたあと僕がチェックをするという進め方をしていて。

――今監督が書いたメイキングのテキスト「妄想の産物」によると、平尾監督が演出としてクレジットされている1話のポジションは、1話をまるまる任せる各話演出というより、監督をサポートする劇場作品における演出に近かったそうですね。

平尾:そんな感じでしたが、やっぱり僕自身まだまだ力不足なところがあったのと、「TEXHNOLYZE」でやった手法が今さんの作品では通用しなかったのが大きくて。作品が違えば当然演出方法も違ってくるので、若かった自分はそこについていけなかったんですよね。前の作品ではこれで上手くいっていたのに、今回はなぜか上手くいかない。どうすればいいんだと自分のなかで迷宮に入りこんでしまい、今さんにだいぶ叱られました。それで2話以降は、演出助手というかたちで関わることになりました。

――平尾監督は、7話と9~13話で演出助手としてクレジットされています。

平尾:「妄想代理人」での僕の仕事は主に撮出しでした。今さんの作品でいうと「東京ゴッドファーザーズ」から制作がデジタルに切り替わって、「妄想代理人」もデジタルでした。セルやBGもスキャンデータになり、池(信孝)さんの美術も「東京ゴッドファーザーズ」の頃から美監修正はデジタルになっていたそうです。
 ちょっと話が前後しますが、そもそも「TEXHNOLYZE」で演出や絵コンテをやらせてもらえたのは、制作がデジタルに切り替わっていくマッドハウス社内で最初に僕が「デジタルを使えます」ってアピールしていたからなんですよ。

――たしかに「TEXHNOLYZE」のような作品だと、デジタルに強い人にぜひ参加してもらいたくなりますよね。

平尾:今さんは「千年女優」のときに自分のマッキントッシュで作中の映画ポスターなどをつくり、それを出力してセルに貼っていました。それを見て「こんなつくり方があるんだ」と思って、このデジタルのやり方を身につければ、自分の武器になるんじゃないかと感じたんです。僕には同期の荒木(哲郎)君ほど絵は描けないし、何か演出の手腕があるわけでもない。でも、デジタルだったら、おそらくみんなゼロからのスタートだから、先にやっておけば演出への近道になるんじゃないかと、その頃からフォトショップを使いはじめていました。「妄想代理人」に参加させてもらえたのも、平尾はデジタルに理解があるやつだからと思ってもらえたのが大きかったんじゃないかと思います。

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千年女優

千年女優 Check-in0

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