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インタビュー 2022年1月27日(木)19:00

磯光雄と吉田健一の宇宙の旅(前編) 魅力がないと思われているものを魅力的なものに化けさせる (2)

(C) MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

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■20世紀の「鋼鉄の宇宙」から21世紀の「布の宇宙」へ

――具体的なところをあげるとキリがありませんが、さらっと見ることもできるひとつひとつの描写の裏には、想像もできないぐらい膨大なアイデアや設定が下地にあるように感じました。

磯:おっ、ありがとうございます。(吉田さんに対してうれしそうに)やっぱ伝わるじゃん。我々は何年もつくっていて何十回となく同じものを見ているので、そういうのがちゃんと伝わるのか分からなくなってるんですよ。
 最初の頃、そのことで吉田君とちょっと議論になったんですよね。「とにかく情報をいっぱい積みあげれば面白くなるって思ってますよね」みたいなことを言われたことがあって。たしかに、積みあげたけどそれが全然響かない作品もあるんですよね。自分では面白いと思って積みあげてみたけど、実際見ている人には全然分からないのかもしれないと思ってましたが、やっぱり伝わるんだねってことが分かってよかったです。

吉田:積みあげる作業自体は、僕らつくっている人間は楽しかったりするかもしれないけど、ただそれだけを見せられても、おそらく普通の人には響かないだろうと思うんですよね。監督が一生懸命積みあげたものを、きちんと魅力的な物語のなかにのせることが大事かなと僕は感じました。そうするとパッと見、そう見えなくても、実際は積みあがって面白げに見えているはずなので、やっぱりそういうのは響いて見ている人のなかに無意識的に入ってくるはずなんですよ。そこを頑張ろうみたいな感じのことを話したと思います。

磯:今話したことには共通体験があって、例えば「ガンダム」(※テレビシリーズ「機動戦士ガンダム」)でいうと、やっぱり1話や2話を見たときにそういうことをハッキリと感じたんですよ。

吉田:感じましたよねえ。響いた。

磯:小学生や中学生でも「何かやっているぞ」と分かって、見終わったあともずっと考えるんです。当時はインターネットはないけど、いろいろ調べたりしてもう一回見たりしていました。そんなふうに、見ている側にすぐ入ってくる情報と、こない情報の両方がある。「地球外少年少女」も、そういうものにしなきゃねとは思っていました。

――商業宇宙ステーション「あんしん」の隔壁が金属ではなく、布のようなものでできているところとかフレッシュで面白いなと思いました。

磯:見てますねー、素晴らしい。そこはね、ぜひ見てほしいところ(笑)。

(C) MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

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――ああいうところもすべて物語にリンクしていて、おそらく全部調べたうえで、本当のことと作劇上の嘘をおりまぜてつくっているんだと思い、これはとんでもない作品だなと思いました。

磯・吉田:ありがとうございます。

磯:あれは布の風船でできているバルーン隔壁という新発明で、おそらく本当にできるだろうと思います。鋼鉄のシャッターがガーンと閉まるアニメが今でもときどきありますけど、あれは絶対やらないでおこうと。それに関連して言うと、デザインについても私から吉田君への数少ないオーダーとして、吉田君がこれまで手がけてきた作品や、みんなが思い浮かべる宇宙がでてくる既存アニメのようにはしてほしくないという話をしました。

吉田:これは、なかなか大変でした(笑)。

磯:全部よけて通ってもらいました。バルーン型にふくらむ宇宙服とかも難航したよね。

吉田:服の厚みや、宇宙服を着て表面が張ったときの感じとか、既存のいいやり方をしている作品風に描くとそれっぽく見えるんじゃないかと、ついついそう描いちゃうんですよね。それを抑えながらデザインしていくのはなかなか難しくて……。

磯:むちゃくちゃ大変だったと思います。このへんも、もともと宇宙に関心があって基礎知識がある吉田君だからできたことで、そうじゃなかったらまるで作業にならなかったと思います。宇宙服の手袋の収納方法を描きなおすだけで、1カ月ぐらいかかったもんね。

吉田:あれは……たしかにそうですね(苦笑)。物語の後半で、オニクロの上半身を脱いで腰に巻くアイデアで一応デザインを描いたあと、やっぱり(手袋の収納方法が)違うんだと言われたとき、ちょうど他の作業でちょっとテンパっていたので、「これだけやって、まだ終わらないんですか?」みたいな話をしてしまったんですけど、「これはずっと残るものだから、最後までやろうよ」と言われて、「分かりました。すみません」と(笑)。そんなやりとりでつくられていったひとつひとつのデザインが、これまでの宇宙ものにあったヘビービューティー的な装備とは違った、ひとつの未来のかたちになっているんじゃないかと思います。

磯:20世紀の宇宙は工業化の時代の延長線上にあって、それを代表するもののひとつが鋼鉄のシャッターなんです。2045年が舞台の「地球外少年少女」ではそういうものとは被らないようにしようとしていて、布の風船でできている宇宙ステーションは現実化しつつもあるんですよね。小さく折りたたんでロケットに載せられるほうが安上がりですから、これからの商業宇宙には絶対必要になるんですよ。すでにISS(国際宇宙ステーション)には取りつけられていて、いずれは風船状の宇宙ステーションばかりになるはずです。

■描きたかったのは「正しい宇宙」ではなく「面白い宇宙」

――即席の宇宙服にファストファッションのブランドロゴが入っているのも面白くて、たしかに廉価版だとこうなるかもしれないとイメージしやすかったです。

磯:21世紀の宇宙を想像したとき、今の若い人は絶対宇宙にはいかないだろうなと思ったのですが、とりあえずコンビニがあってネットが繋がれば行ってもらえるんじゃないかなと。それで宇宙ステーションにコンビニをつくったんです。ついでにカニもおいておきました(笑)。

――そういうところが「宇宙(そら)チューバ―」の(美笹)美衣奈に投影されているわけですね。

磯:若いスタッフのひとりに、「君たちのような世代が宇宙に行きたくなるにはどうしたらいいんだろう」とずっと話していたんですけど、1年くらい宇宙の面白い話を一緒に考えたあとでも「あんまり……」という答えで(笑)。まあこれは無理もないかなと思ったんだけど、そうやって話をするうちにこの世代でも唯一宇宙に行きそうな人がいるよな、と気づいて。それがYouTuberで、フォロワー数やチャンネル登録者数が伸びるとなったらたぶん行くんじゃないか(笑)。そんなところから美衣奈というキャラクター像を発掘することができました。

吉田:水先案内人じゃないですけど、視聴者の目線の役割をちょっと果たせている気がします。

美笹美衣奈

美笹美衣奈

(C) MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

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――美衣奈は「デブリ」という言葉を「デブ?」と聞き返すぐらいの知識で、それぐらい分からなくても大丈夫なのは丁寧なつくりだなと思いました。

磯:美衣奈は、ほんとにいいお客様なんです(笑)。美衣奈が分からないことは、分からなくても大丈夫です。

吉田:「分からなくても大丈夫」は、実際そうですよね。僕はエポックと言われるアニメ作品を子どもの頃に見ましたが、分からない単語がたくさんあっても楽しめましたし、「宇宙戦艦ヤマト」では波動エンジンを見て波動という文字を覚えました。これってけっこう大事なことだと思っていて、分からなくても見せるとやっぱり引っかかるんですよね。そこから自分なりに掘りさげて世界をとらえることができることもあるので、「地球外少年少女」でも美衣奈がそういう役割を果たせれば面白いかなと思っています。

磯:ただ、美衣奈についていけばいいというのは、美衣奈についていけばすべてが分かるということではないんです。というのも、私は見ている人がすべてを分からなくてもいいと思っていて。分からなくてつまらない話をつくったら負けだと思いますけど、分からなくても面白ければ勝ちなんじゃないかなと。分からせようとして長々と説明してつまらなくなるより、「分からないけど面白い」を維持さえすれば、これはエンターテインメントとしては踏み外してないんですね。
 この作品をつくるにあたって、宇宙にくわしい人に話を聞いたりもしたんですけど、このことはなかなか分かってもらえませんでした。やっぱり正確にやるべきだ、説明のセリフを入れるべきだと説教されることが多くて。でも私が今回描きたかった宇宙は「正しい宇宙」ではなくて「楽しい宇宙」なんです。専門家から見たら間違っているところもちょいちょいありますけど、それ以上に面白くなるときはそのまま押し通しちゃうこともありました。「地球外少年少女」は宇宙を知っている人たちの勉強のためにつくったドキュメンタリーじゃなくて、宇宙を知らないけど「面白そう」って思ってくれる、次の人たちのためにつくったエンターテインメント作品のつもりなんです。その意味では問題ないんですよ。

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作品情報

地球外少年少女 前編 地球外からの使者

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