2026年5月25日(月)22:00
カンヌ国際映画祭併設マーケットで大規模アニメーションデー 日本アニメは世代や地域を横断する世界的な文化に

日本からも多くの業界関係者が参加したシンポジウムの模様
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現地時間5月12日から20日にかけて開催された「Marché du Film」(カンヌ国際映画祭併設マーケット)では、5月17日に「Cannes Animation」と題された大規模なアニメーションデーが開催された。世界各国のアニメーション関係者が集結し、日本を含む各国の新作アニメーション企画のピッチやプレゼンテーション、パネルディスカッションなどが行われる場となった。
近年、国際共同製作や配信プラットフォームの拡大によってアニメーション産業が急速にグローバル化する中、本イベントは、各地域における制作状況や市場動向、クリエイター支援のあり方を共有する国際的な交流の場として改めて大きな役割を果たしていたと言えるだろう。本記事では、その中で開催された三つのパネルについて報告する。

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▼「Toei Animation : Scaling a Global Animation Strategy」
東映アニメーションによる本パネルでは、創立70周年を迎えた同社の歴史と、今後のグローバル戦略について語られた。登壇者はまず、1956年に東映動画として設立された同社の歩みを振り返り、同社が日本初のカラー長編漫画映画「白蛇伝」において、実写撮影をもとに作画を行うロトスコープ技法(「ライブアクション」)を用いたことを紹介した。
また、日本のアニメ文化が子供向け表現に限定されず、ドラマ、恋愛、暴力、感情表現などを積極的に取り入れてきた点を強調し、それが現在の世界的なアニメ人気の基盤となったと説明した。後半では、東映アニメーションの今後の国際展開について議論された。登壇者は、日本アニメを単なる「日本文化」ではなく、多様な地域文化を語るための表現形式として捉えるべきだと述べ、フランス、サウジアラビア、中国、韓国などでの共同制作事例を紹介した。
特に新作「モンキー・クエスト(Monkey Quest)」は、北米文化を基盤にしながら、日本アニメ的な演出や物語構造を導入した国際共同制作作品として位置づけられ、アヌシー国際アニメーション映画祭でのプレゼンテーションも予定されているという。また2025年には「Global Strategy and Content Creation Department」を新たに設立し、国際共同制作を本格化させる体制を整えたことも明かされた。本パネルを通して、日本アニメの「グローバル化」とは、日本的要素を輸出することではなく、各地域文化と協働しながら新たな物語形式を創出していく過程である、という認識が強調されていた。

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▼「The Global Appeal of Japanese Anime and the Creative Forces Behind It」
本パネルでは、TRIGGERの大塚雅彦と、コミックス・ウェーブ・フィルムの徳永智弘が登壇し、日本アニメにおける「オリジナル作品」の重要性と、スタジオ運営、監督育成、国際展開について議論した。両社はいずれも原作付き作品ではなく、作家性を重視したオリジナルアニメ制作に力を入れている点で共通しているが、その方法論は対照的であった。コミックス・ウェーブ・フィルムは、新海誠という作家を中心に形成されたスタジオであり、「作家が作りたいものを作れる環境」を整えることを重視しているという。一方、TRIGGERは、ガイナックスやジブリの系譜を受け継ぎ、スタジオ内部で監督を育成しながら、オリジナルアニメ制作のノウハウと文化を継承していくことを理念として掲げていた。
また両者は、監督に求められる資質についても言及した。徳永は、自分の語りたいことを「全てさらけ出す」熱量、日本語によるコミュニケーション能力、そしてスタッフへのリスペクトを重視すると語った。映画は監督だけのものではなく観客のものでもあり、「語りたいこと」と「観客が求めるもの」のバランスが重要だという認識も示された。これに対して大塚は、アニメーションは膨大な人力によって作られる以上、監督自身の情熱がスタッフ全体のモチベーションを左右すると指摘し、作品の熱量はまず制作現場に共有されなければならないと述べた。
さらに議論は、日本アニメのグローバル化へと及んだ。徳永は、新海作品がアジア圏では強い支持を得ているものの、欧米市場ではまだ課題が残ると分析し、現地文化への理解を深める必要性を語った。大塚もまた、海外共同制作では文化や価値観の違いに苦労しつつも、「面白いものを作りたい」という共通意識によって協働が成立すると述べた 。パネル終盤では、大塚が「アニメはエンターテインメントであると同時に、世界の平和につながる力を持つ」と発言し、国境や文化を超えたコミュニケーション媒体としてのアニメの可能性を強調した。

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▼「From Japan to the World: Expanding the International Distribution Potential of Japanese Animation」
本パネルでは、フランスの配給会社EUROZOOM代表のAmel Lacombeと、中南米17か国で映画配給を行うBF Distributionの担当者が登壇し、日本アニメ映画の国際配給について議論した。両者は、フランスでは1970〜80年代のテレビ民営化によって大量の日本アニメが放送され、漫画文化と結びつきながら独自のアニメ受容文化が形成されたと説明した。その上で、両者からは25年前から「アニメーションは映画である」という考えのもと、日本アニメを単なるイベント上映やサブカルチャーとしてではなく、一般映画作品と同様に劇場公開してきたことも語られた。
一方、中南米では近年、観客がハリウッド映画以外の作品を求め始めたことを背景に、日本アニメへの注目が高まったことも指摘された 。特に「ダンダダン」などの劇場イベント上映を通じて、アニメファンとの新たな接点が形成されたという。また、現在では市場の飽和も進んでおり、作品選定やキュレーションの重要性が増していると述べられた。さらに、配信プラットフォームは劇場映画の競合ではなく、むしろ観客を育てる存在であり、劇場上映は「プレミアムな体験」を提供する役割を担うという認識も共有された。
議論では、各地域特有の事情についても言及された。フランスでは、劇場公開作品を一定期間配信に回せない「クロノロジー・デ・メディア」制度によって劇場文化が保護されている一方、COVID-19以降は興行側が既存IPを重視する傾向が強まり、オリジナル作品や新規監督作品の公開が難しくなっているという。また、カンヌやアヌシーといった映画祭との連携が、日本アニメを世界に紹介する重要な役割を果たしていることも強調された。パネル全体を通して、日本アニメはもはやニッチ文化ではなく、世代や地域を横断する世界的な映画文化として認識されつつあり、その国際展開には、各地域に応じたマーケティングと、映画祭・劇場・配信の連携が不可欠であることが示された。

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▼総論
以上三つのパネルに共通していたのは、日本アニメーションがもはや一国的な文化産業ではなく、世界的な映像文化として再編されつつあるという認識である。東映アニメーションのパネルでは、日本アニメを「日本文化」の輸出としてではなく、各地域文化と協働しながら新たな物語を創出するための表現形式として位置づけていた。また、TRIGGERとコミックス・ウェーブ・フィルムの議論では、オリジナル作品における作家性や監督の熱量が、日本アニメの国際的魅力の根幹として捉えられていた。さらに配給に関するパネルでは、日本アニメはすでにサブカルチャーの枠組みを超えて、世代や国境を超えて共有される映画文化として受容されていることが示された。
その一方で、三つのパネルはいずれも、日本アニメの国際化が単純な「成功」ではなく、新たな課題を伴う段階に入っていることも示唆していたと言えるだろう。国際共同制作における文化差異、市場の飽和、既存IP偏重、各地域に適応したマーケティング戦略など、グローバル展開には複雑な調整が必要となっている。しかし、そうした状況下でも、日本アニメは「作家性」や「熱量」といったものを武器に、世界各地の観客やクリエイターと新たな関係を築こうとしている。今回の「Cannes Animation」は、日本アニメが世界市場へ進出していることを確認する場であると同時に、その国際的な位置づけが、制作・配給・共同制作を含めた産業構造そのものの変化の中で再定義されつつあることを示す場でもあった。(小城大知)
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