2026年9月29日(火)20:00
少年時代のノスタルジーと苦い思い出描く「我々は宇宙人」 日本アニメーション映画界に登場した新星、門脇康平監督に聞く

門脇康平監督
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日本の新人アニメーション作家による長編デビュー作が、カンヌ国際映画祭監督週間でワールドプレミア上映、そしてアヌシー国際映画祭アニメーション2026の長編コンペティション部門に選出と、日本公開前から高い注目を集めている「我々は宇宙人」(公開中)。監督は、YOASOBI「優しい彗星」などのMVを手がけてきた門脇康平だ。
平成の田舎町で出会った二人の男子小学生、翼と暁太郎の友情を描くが、ある出来事をきっかけに二人の関係が壊れ、その影響は30年以上にわたって二人の心に抜けない棘のように残り続ける。
少年時代の純粋さだけでなく、子どもならではの残酷なふるまい、冷静に他者を見つめる視点、何者でもない大人になってしまうこと……美しくノスタルジックな作画のアニメーションと実写的表現を巧みに組み合わせ、二人の登場人物の生きざまが、観客の感情を揺さぶる。日本アニメーション映画界に登場した新星、門脇監督にアヌシーで話を聞いた。
※インタビュー本文には一部ネタバレ描写を含んでいます。

©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
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――誰しもが体験するような、子ども時代のノスタルジックな日々、そして人間の醜い部分も含めて登場人物の内面を丁寧に描いた私小説のような、文学的な物語だと感じました。まずはこの物語の構想について教えてください。
1作目の長編にするからには、やはり人より長い時間ちゃんと考えてきたことや、自分にとって大きな存在のものをテーマにしないと強度の高い映画にならないと思っていました。フィクションではあるけれど実感として信じられる話にするために、自分の経験や人生を活かそうと真っ先に考えました。
長年考え続けていてアイデアが一番膨らみやすかったのが「初恋」と「昔の友人との疎遠」でした。まずはその2つを濃厚に描くヒューマンドラマにしようと。また、自分の幼少期である平成後期くらいの年代の子どもたちが一番解像度高く描けると思い、題材として選びました。
――作画のクオリティも非常に高く、すでに海外映画祭でも評価されています。まずは脚本を完成させてから、映像の世界観やキャラクターを作っていったのでしょうか。それとも先に表現したい映像や世界観があって、物語を当てはめていったのでしょうか。
世界観とストーリーは同時に立ち上がっていきました。世界観としては、画面から懐かしい空気感や匂いがするような風情のある作品にしたいと最初から決めていて、そこに子どもたちの小さな出来事を描いていきました。一つひとつは小さなモチーフに見えても、実は大きなドラマを演出するストーリーにしようと。
キャラクターはそれよりワンテンポ遅れて作られました。ストーリーを一番面白く見せるために、対比の効くキャラクターとして「翼はこう」「暁太郎はこういう側面を持つ」といった順番で後から作っていきました。

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――構想から完成まで3~4年かかったとのことですが、これまでアニメーション映画では実績のない若手監督の長編第1作として、資金を出す製作陣側から内容に関して何か要望はありましたか。それとも自由に作らせてもらえたのでしょうか。
「我々は宇宙人」の原型になる内容は企画書の段階であらかた出来上がっていました。子どもから大人まで誰でも楽しめるエンターテインメントにしたいと考えていましたが、地味に映りがちだとも思っていたので、どう面白さを演出するかに時間をかけました。ホラーっぽい感じやサスペンスっぽい感じなど、Vコンテ(ビデオコンテ)を何十回と作ってプロデューサーに見せ、「これは面白そう」「これは眠くなるかも」というフィードバックをもらいながら、地味な映画が「すごく面白いもの」になるよう知恵を出し合いました。
――それはストーリーの演出部分についてのディスカッションだったのですね。
はい、主にストーリーですね。画作りに関しては「やりたいようにやればいい」と言われていたので、ストーリーの演出についてです。

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――実写を超えるようなリアルなアニメーション表現へのこだわりについても教えてください。
画面には背景美術、キャラクター、空気のレイヤー、ビジュアルエフェクトなど何種類もの素材があります。通常はそれぞれのセクションに監督がいてバラバラに作りますが、全て集まった時に自分が思っている「画面からの匂い」が表現できるか微妙な色の差で変わってしまいます。集まってみたら違ったとなるのが怖かったので、大変な苦労があると承知の上で、全パートの発注や監修を自分一人で担当しました。そこは画作りの大きなこだわりでした。
――2時間以上の長編ですが、これまでの仕事と比べてアニメーション映画での監督業はいかがでしたか。
監督業はこれまでやってきたMV映像を作る仕事や、自分がイメージしていたこととは全然違うところに苦労がいっぱいありました。特にコミュニケーションですね。アニメーター一人ひとりと数年間向き合うこと。一緒に頑張るからこそモチベーションを保ちつつ修正が必要な箇所などについては駄目なものは駄目と言わなければいけない。プロデューサー、制作進行、アニメーターとのコミュニケーションがこんなに大変なのだと初めてやって分かりました。本当に「人との仕事」だなと実感しました。

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――スタジオの雰囲気も3年間で変わっていきましたか。
時間の経過とともに人が増えていきました。最初は2人だったのが5人になり、最後は20人くらいになりました。アニメーターの増え方も「友達を紹介するよ」という形だったので、最初の1年半くらいは男の子が1人もいなくてずっと女子校のようでした(笑)。担任の先生をやっているような気持ちでしたね。1年半ほど経って初めて男の子が入ってきて、途中でカナダや台湾の方も加わり、日本語と英語が飛び交う賑やかなスタジオになっていきました。
――「我々は宇宙人」というタイトルはいつ頃決まったのでしょうか。
3年半の作画期間のうち、半年ほど経った頃にふっと出てきました。思いついた瞬間から「これ以外ありえない」となり、最後まで通しました。ヒロインの小夏という名前も、高知県の名物果物として知った瞬間に「この名前しかない」と決まりましたね。
――声優に俳優の坂東龍汰さんや岡山天音さんを起用された理由や、子役のキャスティングについて教えてください。
子どものキャラクターは声も本物の子どもにお願いしました。顔や動きがリアルな子どもなのに声だけ作り物っぽいのは合わないと思ったので、滑舌の良さよりもキャラクターの説得力を優先しました。大人キャストに関しても、声優・俳優問わず自然な演技をしていただける方々にお願いしたく、お二人にオファーしました。アニメというフィクションの中にリアルな説得力を持ち込みたかったんです。

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――登場する女性たちの描き方も、過度に美化されておらずリアルでした。何か意識されたことはありますか。
ヒロインの小夏ちゃんには明確に初恋の女の子というモデルがいたので、リアリティが出たのかもしれません。小夏に限らずキャラクターのセリフは「この人ならこういう時にこう言うだろう」と推測しやすかったのはそれぞれ自分の中にモデルがいたおかげだと思います。
――その初恋の女性にもこの作品を見てほしいですか。
母校がそのまま使われているので、見たら自分の小学校だと気づくと思います。見てほしい気持ちもありますが、本人が見た時に恥ずかしくないものを作ろうと思っていました。

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――監督ご自身は翼と暁太郎のどちらに近いのでしょうか?
翼が4、暁太郎が6くらいです。中学受験やゲーム機の所有を巡るクラスの輪に入れるか入れないかという苦悩や、青汁牛乳の戦いなどは翼(=自分)の実体験です。初恋の女の子への恋心をクラスメイトに隠していた話などは、暁太郎の方が自分の話に近いです。
――東京藝術大学のデザイン科のご出身だそうですが、学生時代からアニメーション映画監督になりたいと思っていたのでしょうか?
生涯アニメ監督をやりたいと思って1作目を作ったので、これがスタートになればと思っています。東京藝大に入った時点からアニメを目指していました。もし学部にアニメ科があれば絶対そこに入っていましたが、ありませんでしたし、特技を生かして受験で戦えそうな科としてデザイン科を選びました。
――「ドラえもん」の映画を見返して映画監督を目指そうと思ったとお聞きしましたが。
高校1年生の春に、小学生の頃に観ていたドラえもんの映画をまとめて見返す機会があったんです。その時に「これだ、俺が作りたかったのはこれだ。明日から映画監督になろう」と明確に思いました。友達の家で昼間にカーテンを閉めてみんなで観ていて、ポロポロ泣いてしまった経験がきっかけです。「ドラえもん のび太とふしぎ風使い」や「ドラえもん のび太のワンニャン時空伝」ですね。それまではずっと「将来の夢は画家」と言っていたのですが、時間経過があって絵が動いて音がある映画の方が自分の表現したいものが出せると思ったんです。

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――今作は音の入れ方やフォーリー(効果音)も非常に繊細でしたね。
ミュージックビデオの経験とは違って、フォーリーに関しては知識ゼロからのスタートだったので、音響効果を担当いただいた方に勉強させてもらいながら付けました。ただ、ミュージックビデオで培ったリズム感や見ている人の呼吸感、カットの構築などは活かされていると思います。
漫画を読む時の「右上で期待させて、めくったら大爆発」というような気持ちいいリズム感と同じものを映画でも意識しました。「千と千尋の神隠し」を観た時に「映画にも漫画と同じような緩急のリズムがあるんだ」と感じたのを覚えていて、演出の際にはそのリズム感を強く意識しました。
――実写映画からの影響も受けていますか? これまでどんな監督の作品をご覧になってきたのでしょうか。
実は自分の観ている映画の8割くらいは実写で、アニメは2割くらいなんです。カンヌなどで取材を受けた際に「アニメで見ないような実写的な演出だ」と驚かれたのですが、自分としては実写かアニメか関係なく映画の演出技術として絵コンテを描いていたので、驚かれて逆にこちらがびっくりしました。尊敬している監督としては、ポン・ジュノ監督、濱口竜介監督、深田晃司監督、是枝裕和監督などがいらっしゃいます。今挙げた4方にはぜひ観ていただきたいです。

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――公開前から話題を集めていますが、これから本作観る観客にはどういうところに注目してほしいですか。
画面のどこかしらに自分や友達の面影を見つけられるはずです。メインキャラクターだけでなく色々なところを見てほしいですね。机の劣化の仕方や、翼の家と暁太郎の家の置物の差、壁を歩く小さなダンゴムシや動く雲など、発見をしていけばいくほど没入できると思います。何回観ても鑑賞に耐えうる映画として作りました。
――今後作りたいテーマや次回作への意気込みを教えてください。
今回の作品は「誰もが見たことのあるものを高い説得力で作る」ことに徹しました。ですが自分の中には、言葉で説明できないけれど感覚的に大好きなファンキーで奇抜なデザインや建築、キャラクターを描きたいという欲求もあります。次はそういったものを吐き出しあげるような作品にしたいと思っていて、「我々は宇宙人」とは全く違うタイプになるかもしれませんが、次回作に向けて準備を進めています。
作品情報

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平成の田舎町で出会った二人の少年。“普通”であることに悩む翼と、“特別”な存在の暁太郎。しかし、日常の歪みの先に起きた出来事が、二人の関係を大きく変えていく——。これは、二人の青春の物語か。それ...
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