スマートフォン用ページはこちら
ホーム > ニュース総合 > 特集・コラム > 明田川進の「音物語」 > 【明田川進の「音物語」】最終回 当時のことを書き留めておく、残った者の使命

特集・コラム 2026年3月30日(月)19:00

【明田川進の「音物語」】最終回 当時のことを書き留めておく、残った者の使命

イメージを拡大

足かけ8年続いてきたこのコラムも今回で最終回です。このコラムを書籍化した「音響監督の仕事」(星海社新書)のあとがきで、「数回で終わる予定でしたが」と書きましたが、こんなに長く続くことになるとは思いませんでした。

最初はわりと気楽な気持ちで引きうけたのですが、続けていくうちに声優さんや音関係の人から「コラムを見ましたよ」という声が多くなってきて、これは気楽にはやっていられないなと思うようになりました。京都精華大学で5年間教鞭をとっていたときもそうでしたが、人にものを教えたり、何かを発表したりするときには、自分自身もう一度勉強し直すことが必要になります。このコラムで話すこともいい加減なものにならないよう、自分がこれまでたどった記憶を呼びおこすために資料や本を読み直すこともありました。頭の活性化にもつながりましたし、こういう機会をくださったアニメハック編集部さんにはとても感謝しています。

今の僕はマジックカプセルの社長職を息子の仁に代わってもらい、経営上の書類のチェックなどを少しだけ手伝っている状態です。ギッちゃん(※杉井ギサブロー氏の愛称)からは、それもふくめて早く全部息子に任せちゃいなよなんて言われてますが(笑)

コラムの最終回にあたって、編集部の方からアニメ音響の未来について感じていることをたずねられました。僕自身は音の現場を離れてだいぶ経っていますが、今感じていることが大きく2つあります。ひとつはこの連載でも話したAIのことです(https://anime.eiga.com/news/column/aketagawa_oto/122308/ )。その後、状況は大きく変化して、声優や音響関係の人のなかでもAIに対する考え方はまとまっていないぐらい混沌としています。業界として統一した見解がだせるといいのでしょうが、それはとても難しく、個別の案件として判断するほかない状況がほとんどだと思います。特に吹き替えの分野では、AIがこのまま進化すると、ハリウッド声優の声をそのまま日本語にするなんてことが、そう遠くない未来に実現してもおかしくありません。そうなったときに自分の声を提供する人がどう判断するのかふくめて、権利的にも倫理的にも答えがでない状態が続いています。

もうひとつは、ギッちゃんの対談のときにも少しお話しした、音響の仕事が常に受け身であるということです(https://anime.eiga.com/news/column/aketagawa_oto/122953/ )。日本のアニメ業界は活況を呈していて、マジックカプセルも新設した2つのスタジオだけでは仕事がまわらず、他のスタジオを借りなければいけない状態です。スタッフの頑張りもあって、ありがたいことに経営的にも右肩上がりの状況が続いています。ただ、これはアニメの制作費をだすメーカーやスポンサーがいて、制作会社が作品をつくり、音の依頼がウチにくるから成立していることです。極端な言い方になりますが、来年からは制作本数を半分に減らそうとなったら状況はがらっと変わってしまいます。事実、過去に製作本数が減ったことが何度かありました。

ただ、最近はテレビ局などがアニメ制作会社を傘下におく流れが加速しています。そうなると、簡単には本数を減らせなくなるでしょうからコンスタントにつくっていく状況にはなりつつあるように思えます。ただ、大手が制作会社を傘下にする流れがさらに進むと、今度は音響制作会社もとりこんでいくこともあり得そうで、そうなったときにどうなるんだろうと、独立した音響会社であるマジックカプセルにいる身としては考えてしまいます。

声優さんの仕事も基本的には受け身で、全体としては広がっていますが、音響の仕事と同じく作品ありきのものがほとんどです。アニメ業界が右肩上がりで、比較的余裕がある今こそ、受け身ではない仕事をつくりだす試行錯誤が必要ではないかという危機感を常々感じています。

なぜ僕がそういうことを考えるかというと、マジックカプセルの初期の頃に芸能関係の仕事もしていたことが大きいです。大ヒットを飛ばしたミュージシャンでも、人気があるうちに次の手をうっておかないと、あっという間にその勢いがなくなっていくのを目の当たりにして、「あのときに他に何かやっておけば……」と思うことがたびたびありました。また、僕自身、虫プロをでて田代(敦巳)氏やギッちゃんとグループ・タックをつくったのは、虫プロの作品だけではなくて他のことをやりたいからという考えからでした。その後、マジックカプセルを設立したのも新しいことをやろうという思いからでした。

新しいことに失敗はつきものですから、どんなことをやってもいいと思います。喫茶店をつくろう、パン屋さんをつくろうなんてことでもいいと思います。そんな自由な発想で、受け身ではない新しい仕事をやることで、みんなが少しでもやる気になってくれたり、将来のことを考えられたりっていう風になってくれると、いちばんいいなと思っています。

もうひとつ余裕がある今だからこそ考えられたらと思うのが、シニアの音響スタッフの今後についてです。アニメの音の世界を裏で支えている技術関係の人たちには、耳の部分もふくめて年齢的な制限があります。そうした人たちが一定の年齢に達したとき、他の仕事につけるような仕組みがつくれるといいのではないかと考えています。これは、フリーのアニメーターやアニメ監督など制作スタッフについても同じですよね。僕自身はすでに会社の経営から一歩引いていますし、そういうことも考えてもいいんじゃないかな……と思うだけですけれど。ただ、現社長の仁もいろいろ考えてはいるようです。

1週間ほど前、ギッちゃん(杉井ギサブロー氏)と電話で話したとき、虫プロ時代からの仲間のバンさん(※八巻磐氏)、グループ・タックの同僚だったプロデューサーの中田(実紀雄)さんが亡くなったことを教えてもらいました(※本取材は2025年12月に実施)。

年上の先輩や同世代の人がどんどんいなくなって、僕が音の仕事をやりだしたときに一緒にやっていた人は、田代氏や浦上(靖夫)氏など、みんな亡くなってしまいました。そうなると当時のことをきちっと書き留めておくことは、残った者の使命としてやらなければいけないのかなとより考えるようになりました。このコラムで語ったことは、あくまで僕の個人的な思い出や記録ですが、アニメハック編集部さんの尽力で立派な本にもしてもらえました。どこまで上手くお話しできたかどうかは分かりませんが、映像の裏にある音の世界をいろいろと想像してもらうことが少しでもできるようなものになっていたらうれしく思います。

本コラムを書籍化し、明田川仁氏との音響監督親子対談、原口正宏氏による詳細な作品リストなどを追加収録した「音響監督の仕事」(星海社新書)発売中。
詳細は下記記事をご参照ください。
https://anime.eiga.com/news/124279/

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル会長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

特集コラム・注目情報

イベント情報・チケット情報

関連するイベント情報・チケット情報はありません。

イベントカレンダーへ