【編集Gのサブカル本棚】第3回　「鬼滅の刃」の市松模様と「まなびストレート！」のタータンチェック

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「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の空前の大ヒットで「鬼滅の刃」関連グッズやコラボ商品が続々と発売され、幅広い世代に人気ということもあって、普段のアニメグッズではあまり見ないアイテムを多くみかける。最近ではミニカーの「トミカ」とのコラボに、なんでもありだなと驚かされつつ、雷の呼吸の使い手である我妻善逸のモデルに電気自動車を選ぶなど、作品愛に満ちた趣向がとてもいいなと思った（https://anime.eiga.com/news/112907/ ）。

そんな「鬼滅の刃」のグッズ化のさい、主人公の竈門炭治郎が着る羽織の市松模様が主要なモチーフになることが多い。乱暴な言い方をすれば、とりあえず商品を緑と黒の市松模様にすれば「鬼滅の刃」風に見える。これは、アニメ「鬼滅の刃」で市松模様が丹念に描かれてきた証のように思う。

アニメのキャラクターデザインでは全体の線を減らすため、服の複雑な模様やアクセサリーの形状など作画の負担になる部分は見栄えを損なわないように上手く省略することが多い。また、テクスチャと呼ばれるCG素材を作成して貼り付ける手法が用いられることもある。アニメ「鬼滅の刃」では服の模様を作画で描くことを選択し、アニメーターが1枚1枚手描きで描いている。さらに、原作漫画で炭治郎の羽織の市松模様が「正面は左右対称、背面は非対称」であることに合わせるために作画上の嘘をついて模様の並びをずらすことまでしている。

「鬼滅の刃」を制作するufotableは、オリジナルテレビアニメ「がくえんゆーとぴあ　まなびストレート！」（2007）でも、制服スカートのタータンチェックの模様を作画で描いていた。読者参加企画のイラストストーリーからはじまった同作は、細かいディテールやグラデーションのあるイラストをそのままアニメにすることを目指し、その代わりあまり動かさないつくりでいくはずだった。それが結果的にしっかり動かすことになり、作画のディテールは当初のプランのまま制作に突入する。制作に1年以上かかったという2話「まっすぐでゴー」では、タータンチェックのスカートを履いたキャラクターたちがさまざまな角度で描かれ動き、スカートが思う存分ゆれまくる。

一見非効率に見えるこうした積み重ねが、主人公たちが学園のために奮闘する物語とリンクし、エモーショナルなドラマを生みだした。それは方向性は違うものの、テレビアニメ第1期「鬼滅の刃」19話「ヒノカミ」で、途方もなく手間がかかったであろう渾身の映像を送りだした姿勢と共通しているようにみえる。手間をいとわずファンのために“まっすぐ”つくる姿勢はufotableらしさのひとつで、2021年放送の第2期「鬼滅の刃 遊郭編」ではどんなチャレンジが見られるのか今から楽しみで仕方がない。

参考文献
・「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」煉獄零巻
・「がくえんゆーとぴあ　まなびストレート！　DIRECTORS'WORKS」（スタイル刊）
・「MANTANWEB」アニメ質問状：「鬼滅の刃」　水の呼吸で初めて見たアニメ表現　マンガがアニメになるワクワクと喜びを

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[筆者紹介]
五所 光太郎（ゴショ コウタロウ） 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。