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特集・コラム 2021年5月28日(金)19:00

【編集Gのサブカル本棚】第6回 編集アニメ「映画大好きポンポさん」取材の覚え書き

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6月4日公開の劇場アニメ「映画大好きポンポさん」で、平尾隆之監督と編集の今井剛氏の2人に取材させてもらった。近々に掲載されるインタビュー記事を読んでいただく前に、なぜ編集の今井氏にお話をうかがおうと考えたのか、映像編集に興味をもったきっかけや自分なりの関心ポイントを記事の補助線としてまとめてみた。

映像編集の力がもっとも身近に感じられ、視聴者のリテラシーも高いのはテレビのバラエティ番組だろう。生放送でない収録番組の場合、出演者は自分たちの言動が編集の素材として使われることに自覚的で、「ここはカット」「編集で面白くしてもらう」「撮れ高〇分(少ない場合、番組に使えない危険な発言やつまらないやりとりが多かったことを指す)」などのメタ発言や、ときには編集点という専門用語まで飛び出す。演者が一生懸命コメントしている途中で映像をぶつっと切って笑いを誘う演出なども編集の技のひとつで、テロップを多用する番組ではどのタイミングでテロップを出すかコマ単位で調整されているはずだ。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の制作現場に密着した「プロフェッショナル 仕事の流儀」(3月22日放送)では庵野秀明監督の「アングルと編集がよければ、アニメーションは止めでも大丈夫。動く必要もない」という発言が紹介され、庵野監督が編集室にこもって効果的な映像のつなぎかたを延々と模索する姿が映された。そうした編集のこだわりは、予算やスケジュール面の制約が強かったテレビシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」に顕著にあらわれていて、構図の強さで画面をもたせながら動かさないときはとことん動かさず、動かすときは見る人をハッとさせるように動かす。まるで「だるまさんが転んだ」のような構造が独特な緊張感を生み、「エヴァ」特有の映像リズムをつくっている。

映像編集に興味をもったのは、「モテ記~映画『モテキ』監督日記~」を読んでからだったように思う。実写映画「モテキ」のメイキングを大根仁監督みずからみっちり書いたファンにはたまらない同書で、テレビドラマ版から続いてタッグを組む編集の石田雄介氏に何度も駄目だししながらともに編集作業をする記述が印象に残った。その後、「映像編集者のリアル 編集の舞台裏に迫るインタビュー集」で大根監督と編集の大関泰幸氏による「バクマン。」の編集エピソードを読んで、さらに実写作品における編集の役割を意識するようになった。

映画編集者ウォルター・マーチ氏の著書「映画の瞬き 映像編集という仕事」では、「地獄の黙示録」で撮影した約230時間分のフィルムを2時間25分弱の作品にした編集作業を、「映像を『切って繋げあわせる』という具体的な作業よりも、そのための『道筋を見いだす』ために多くの時間を割いている」と振り返られている。実写作品では、役者の演技を複数のカメラで撮影した構図の異なる映像が存在するのが常で、膨大にある映像のなかから採用するショットを取捨選択して「道筋」をつくっていく。一方、日本のアニメの場合、通常は絵コンテの段階で構図やカットのつなぎ方はすでに設計されており、実写で必要とされる編集はかなりの部分で終わっているといえる。

では、いったいアニメの編集は具体的にどんな仕事をしているのか。「アニメージュ」で平尾監督と2人で対談コラム「バリウタの愛を知りたい!!」を連載している荒木哲郎監督に、アニメの編集がはたす役割についてうかがう機会があった(※テレビアニメ「DEATH NOTE」ブルーレイボックス付属ブックレットのインタビュー)。平尾監督がほとんどの監督作品で今井氏と組んでいるのと同様、荒木監督の作品も肥田文氏が編集を手がけており2人は夫婦の間柄でもある。テレビアニメの場合、映像を決まった尺に整えていくのが編集者の主な仕事でありつつ、「お客さんの視点でフィルムを観てもらい、監督が自分以外の人と相談する場」として、見ていて退屈やところや説明不足なところを遠慮なく指摘し、監督と一緒に作品をよりよくする大事なポジションなのだと荒木監督は話してくれた。

そんな肥田氏は「バリウタの愛を知りたい!!」にゲストとして登場したさい、「編集を意識させないで物語に没入させる」のが“いい編集”で、それゆえ「“いい編集”は多分、気付かれない気がします」と話している(※「アニメージュ」2020年10月号掲載)。すべてのカットをそのままつないだ「棒つなぎ」の映像はギクシャクして見えることがほとんどで、その段階で絵コンテでは分からなかったことが初めて課題としてみえることも多い。そこから作り手が表現したかったことを最大限伝わるように調整するのがアニメにおける編集の役割なのだという。

漫画「映画大好きポンポさん」は、物語の主要な要素に映像編集をおいたところがフレッシュかつ、映画製作を描くフィクションとして絶妙なリアリティがあった。その原作を劇場アニメにするさい、アニメーションならではの創意工夫をこらした平尾監督と、公開中の「るろうに剣心 最終章 The Final」をはじめ多くの邦画の編集を手がける今井氏との相乗効果があったからこそ“編集アニメ”ともいうべき1作に仕上がったのではないか。そんな考えで取材に臨んだところ、想定の半分は取材冒頭から気持ちよく裏切られて「今井氏はそんな関わり方をしていたのか」と驚かされた。ここまで読み進めてきた方には、きっとインタビューを面白く読んでいただけると思うので、掲載のおりにはぜひご一読ください。

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

作品情報

映画大好きポンポさん

映画大好きポンポさん 9

敏腕映画プロデューサー・ポンポさんのもとで製作アシスタントをしているジーン。映画に心を奪われた彼は、観た映画をすべて記憶している映画通だ。映画を撮ることにも憧れていたが、自分には無理だと卑屈にな...

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