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特集・コラム 2021年9月30日(木)19:00

【編集Gのサブカル本棚】第10回 深夜実験番組「蓋」で再確認したテレビで作品と出合う効用

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テレビ東京で9月に不定期放送された「蓋」は、久々に深夜番組らしい深夜番組がでてきたとワクワクさせられた。午前4時前後の停波帯を使って謎だらけのモキュメンタリー映像が流される実験的番組で、たまたまテレビをつけていて「なんなんだこれは」と見入ってしまった。

1話10分全5話の構成で、ひと気のない夜の渋谷などを映した定点カメラ映像、自撮りや一人称視点で撮られたものが流出したような意味不明な映像、それらの映像ファイルが並ぶPCデスクトップ画面などが映され、1話だけ見てもただただ不気味なだけで何がおきているのかさっぱり分からない。映像が不自然に乱れたり止まったりもして放送事故でもおこったのではないかとドキドキする瞬間もあり、強烈なインパクトが残る。続けて見ることで断片がぼんやりとつながり、どうやら都内地下の下水道で生活する「チカンチュ」という種族がいることが分かっていく。

9月中に2回再放送されているが大幅に内容が改変された話数もあって、それらを見るとさらに何がおきていたのか分かるという凝りようだ。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を細切れにしてランダムに放送している感じで、ネットでは映像を分析して考察している人もいる。「ハイパーハードボイルドグルメリポート」で知られるテレビ東京の上出遼平氏が企画・プロデュース(監督・脚本も兼任)、3人組ヒップホップユニット「Dos Monos(ドスモノス)」MCのTaiTan(イイヅカタイタン)氏がクリエイティブディレクターを担当。番組中に流れたDos Monosの楽曲「OCCUPIED!」のMVは、番組内の映像に登場する渋谷川暗渠内の地下壕で撮影されている(編注)。

この番組はリアルタイムで見ることに大きな意味がある。普通の人は寝ているであろう「世界の被膜が薄くなる」(by「絶対少年」)時間帯に出くわしてゾワッとする感覚は、録画や(今のところないようだが)配信では味わえないだろう。そこが何より深夜番組らしくて、攻めた内容も通常時間帯と変わらないぐらいしっかりつくりこまれた最近の深夜番組群とは一線を画している。ちなみに、テレビ東京ではショートアニメ「闇芝居」も同じ時間帯に放送されていて、ふだん怪談ものをなんとも思わない自分でもテレビでリアルタイムで見かけるとなんとなく怖くなってしまう。ネットや配信の台頭によってテレビの危機が語られることが多いなか、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編』」大ヒットの要因のひとつは、ゴールデンタイムでの総集編テレビ放送だと言われている。テレビをつけたらたまたま自分の知らない何かがやっていたという出合い方ができるのは、今でもテレビの大きな強みだと思う。

作家・放送作家の景山民夫氏によるエッセイ集「極楽TV」(1990年、新潮文庫刊)の「長いまえがき」で、テレビは「疑似体験させてしまう可能性を秘めたメディア」で「ありえないことをありそうだと勘違いさせてしまう」魔力があると書かれ、自分の日常生活のなかに踏みこませすぎないよう「自分の本当に見たい番組が終ったら、すぐに消してしまう」べきだと勧めている。このまえがきは今読んでもテレビへの深い考察に満ちていて、テレビはすぐ消すべきという提言も、大人の事情だけでつくられている番組を受動的に見るのはやめようというのが真意で、逆説的なテレビ賛歌でもある。深夜にテレビをダラダラ見てしまいがちな私は、景山氏の言うとおり時間の無駄だよなと反省しつつも「蓋」のような番組に出合えると、やっぱり深夜にテレビを見るのはやめられないなと思ってしまう。

サントラCD「深夜のフジテレビ―僕達のミッドナイトTV―」には1990年代に放送された「カルトQ」「カノッサの屈辱」「たほいや」「Trap-TV」などの音楽が収められ、ライナーツには当時の番組制作者によるコメントが掲載されている。その1人である小牧次郎氏は、「あの頃よく上司に、『お前はまわりの15人の友人だけのために番組をつくっている。公共の電波を何だと思っているんだっ』とボロクソにおこられた」と書きながら、たしかに深夜番組をつくるときは「テレビなんて見てくれなかった」友人たちに向けてつくっていたところがあると振り返っている。当時のフジテレビ深夜番組を熱心に見ていて、特に「そっとテロリスト」という番組が大好きだった人間としては、それぐらい極私的な思いでつくられた深夜番組こそがいい意味での内輪感と熱狂的な面白さを生みだすのではないかと強くうなずかされる。制作費やコンプライアンスの問題など、今と昔のテレビでは事情が大きく異なるであろうことを想像しながらも、「蓋」のような深夜番組らしい深夜番組が今後もつくられていってほしいと思う。

編注:本記事に埋めこんだDos Monos「medieval」MVには「蓋」の映像の一部が使われている。

参考文献
・テレビ東京の番組告知リリース

・「音楽ナタリー」テレ東深夜の謎番組「蓋」のあの暗渠が舞台、Dos Monos新曲MV公開

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

作品情報

絶対少年

絶対少年 0

「僕は何をしたいんだろうか…」自分を見いだせない少年。夏休みのある日、少年は訪れた田舎町の森の中で光の妖精を伴った不思議なこどもと出会う。「誰からも必要とされていない…」自分を認められない少女。...

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