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特集・コラム 2021年12月16日(木)19:30

【編集Gのサブカル本棚】第12回 「舞台サルまん」観劇記

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東京・下北沢小劇場B1で上演中の「舞台サルまん」を初日の12月15日に見てきた。漫画「サルでも描けるまんが教室」を舞台化するというニッチすぎる(そして素晴らしい!)試みに、原作ファンとしてはぜひ行かなければと11月の発表から楽しみにしていて、初日には原作者の相原コージ氏と竹熊健太郎氏も見にこられていたようだ(注1)。

脚本・演出を手がける「劇団気晴らしBOYZ」主宰の田中大祐氏は1976年生まれ。中学生の頃に「サルまん」を読んで衝撃をうけ、「サブカルチャーに関心を持つきっかけになった」とインタビューで語っている(注2)。ほぼ同年代の筆者も掲載誌の「週刊ビッグコミックスピリッツ」をリアルタイムで読んでいたくちで、原作者のひとりである竹熊氏がその後「Quick Japan」などに寄稿するのを追いかけてサブカルチャー関連書籍にハマるようになった。田中氏は「コロナ禍で2年ぶりになるプロデュース公演を、個人的に大好きな作品で臨みたかった」とも話していて、吉四六役に2人の演者を配して片方を女性にしているところからも、原作への強い思い入れがあることが伝わってきていた。

とはいえ舞台化のハードルが高いどころかメディアミックス化するのにまったく向かない原作であることも重々承知していて、期待しすぎて見るのはよくない。マンキンの「ちんぴょろすぽ~~ん!!」(※同作で流行らそうとしていた一発ギャグ)さえ聴ければ満足ぐらいの心持ちでいたが、ここまでやるかというぐらい原作に忠実かつ、約2時間の上演時間で原作の物語を最後まで描ききっているのに驚かされた。舞台の序盤、主要キャラクターの相原と竹熊が「少年スピリッツ」に持ち込みにいくまでがしっかり目に描かれているのを見て、このペースだと原作の最後までは難しいかなと思っていたら、原作の「ここが見たい!」というポイントをピックアップして、原作完結後のサブエピソードまでも取りいれながら、ひとつの舞台としても見事にまとめあげられている。背面の壁に投影する映像や音楽・SEも作品愛にあふれていて、照明を駆使してシーンを細かく切り替えることでダレる暇もないほどテンポよく物語が進んでいく。寄り道につぐ寄り道でキメラのような物語になっている(そこが魅力でもある)原作の骨格が抽出されていて非常に分かりやすく、もしかしたら原作未読の方のほうがより楽しめる舞台なのではないかと思った。

竹熊と相原が漫画執筆のテクニックや処世術を語りあう密室会話劇や、会話劇と作中作の「とんち番長」を並行して走らせるメタフィクション的な展開は舞台と相性が抜群によく、竹熊・相原役以外の出演者は複数の役を演じることで、わずか10人で奥行きのある「サルまん」ワールドをつくりあげている。唯一の女性出演者である杏さゆり氏は吉四六役のほか早着替えで多彩な姿を見せ、担当編集・佐藤役(原作キャラはふくしま政美「聖マッスル」巨人王がモデル)を演じた両國宏氏のリアル巨人王っぷりは素晴らしかった。そして何より、偏執的な漫画うんちくを勢いよくまくしたて(セリフ量が尋常でなかったはず)、ときに感情を爆発させて絶叫し、舞台の上を転がりまわる竹熊役のコウガシノブ氏の熱演が心に残った。

「舞台サルまん」は12月19日まで上演され、配信チケットを購入してネット上で観劇することもできる。原作漫画ファンは無論のこと、前述のとおりむしろタイトルだけは聞いたことがあるという未読の方にこそお勧めしたい。

注1:相原氏、竹熊氏の感想ツイートは以下のとおり。

注2:「よろず~ニュース」掲載のインタビューより。伝説漫画「サルまん」を初舞台化 脚本・演出の田中大祐「カオスな感じに表現できている」

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

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