2026年5月6日(水)19:00
【編集Gのサブカル本棚】第58回 地方のアニメ制作会社P.A.WORKSが記した25年の記録

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書店で本を手にとったとき「この本はいくらか」を予想するのが筆者の趣味(?)だ。本の仕様や厚み、出版社が大手か否か、内容から察する刷り部数などで大方の価格は想像がつき、予想通りか安ければ購入、高ければ熟考することが多い。その予想だと、四六判並製256ページというやや薄めの本だし1800円から高くても2500円位かなと思ったら、税込み3000円で随分高いなと思ったのが、「未来を照らす、灯りをつくる。アニメの制作会社が自立するために~アニメーション制作会社・P.A.WORKS25年物語」(PARUS刊/以下、「25年物語」と略)だった。しかも、筆者が通う書店ではアニメ関連書扱いだったため、シュリンクがかけられて中身を見ることもできない。普段なら購入をスルーするところだが、馴染みのあるアニメ制作会社の設立25周年を記念した書籍で、ネット上でアニメ関係者からの評判も良かったので思いきって買うことにした。
読み終えた結論としては、3000円は安すぎると思えるほどの非常に充実した内容だった。アニメ関連のイベントやシンポジウムでも聞けないぐらいの赤裸々かつ濃密な話題が満載で、アンタッチャブルであろう部分に踏みこんだ記述も散見された。アニメ制作会社の現状を知るには必携と言える1冊で、P.A.WORKS作品の熱心なファンが内幕を知るにも良いと思う。
同じアニメ制作会社であるTRIGGERの舛本和也氏が帯裏に寄せた「この本に書かれている事は今後すべてのアニメ制作会社がぶち当たる課題である。この課題に正解はない(以下略)」の言葉はその通りで、さらに言えばアニメ制作に関わらず「組織で何かをなす人」すべてに共通した悩みや取り組みが書かれている。ただ、アニメがどのようにつくられているかを知らないと「25年物語」を読み解けないはずなので、そういう方にはP.A.WORKSが手がけたアニメ制作会社が舞台のオリジナルアニメ「SHIROBAKO」を見てから読むことをお勧めしたい。
スタッフ育成のジレンマ
「25年物語」は、P.A.WORKS代表の堀川憲司氏、アニメーター・アニメ監督の吉原正行氏、2人の創業者による対談を軸に、同社プロデューサー陣のインタビューやコラム・資料などで構成され、財務部長による文章まで収録されている。
Production I.G在籍時には「人狼 JIN-ROH」などを手がけ、ビィートレインの設立メンバーでもある堀川氏が、妻の実家だったからという理由で富山県に引っ越したことをきっかけに2000年にP.A.WORKSの前身にあたる越中動画本舗を設立(02年にP.A.WORKSに変更)。地方でスタッフを育てながら成長してきた同社の25年の歴史が詳述されている。
現在進行形でアニメを作り続ける困難さに直面している実情に即した発言がならび、記念本にありがちなお祝いムードのよそゆきな言葉はない。同書で語られるアニメ制作における課題や論点は多々あるが、大きなテーマとして「人をどう育てるか」「現場の熱をどう高めるか」の2つが全体を貫いているように感じた。
前者については、スタッフの人材交流が激しい東京ではない地方の会社だからこそ、いちから採用してスタッフを育成するための試行錯誤が振り返られ、一人前になったところで上京して辞められることもある地方の会社だからこそのジレンマや、働き方改革や制作費向上による環境改善によって、「絶対にこれがやりたい」という強い気持ちがなくても働き続けられてしまう側面があることも語られている。かつては出来高制の厳しい環境のなか生き残ってきたスタッフが一人前になってきたが、労働環境が整ってアニメが“普通の仕事”になったことでかつてのような教え方では、教えられる当人の意識含めて成り立たなくなってきているというのだ。また、「完成した作品がすべて」のフリーのスタッフに、発展途上の社内スタッフが参加することへの理解と育成への協力を求めていくこともP.A.WORKSならではの取り組みとして紹介されている。
後者の「現場の熱をどう高めるか」は、P.A.WORKSのビジョン「2030年代もオリジナル作品を作りづける制作会社になる」を実現するための組織作りや取り組みが語られている。P.A.WORKSは意識的にオリジナル作品を多く手がけるスタジオとして知られているが、現在のアニメ業界を取り巻く状況ではそれが難しくなるであろうという予測のもと、自社製作のオリジナル中編を定期的に制作する仕組み作りも模索しているそうだ。
原作という拠り所がないオリジナル作品を作るためには、スタッフに強い意志や制作への情熱が求められる。そのため、組織として現場の熱量をどう高めていくかにもP.A.WORKSは会社全体で取り組んでいる。文芸部も新設され、まずはオリジナル作品を作る旗振り役となるメインスタッフがやりたいことを企画書や脚本に落としこんでいくことからはじめ、ゆくゆくは社内発のオリジナル作品をつくっていくことを見据えている。
P.A.WORKSは初元請け作品の「true tears」(2008)からずっと原作はゲームと小説に限定し、漫画原作は手がけてこなかった。それが2022年放送の「パリピ孔明」で解禁されたことは個人的に大きな変化だと感じていた。「25年物語」ではさらっとしか触れられていなかったが、これもおそらくオリジナル作品を作り続けるための大きな方針転換だったのだろうと思う。
アジサイを育てるようなスタジオ
筆者がP.A.WORKSの名前を覚えたのは、同社のサイトで2003年頃から不定期掲載されていた「アニメランナー」というインタビューコーナーだった。神山健治監督、アニメーターの井上俊之氏、Production I.Gの石川光久社長(現・会長)、P.A.WORKSが制作協力として関わった「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」のスタッフが登場し、代表の堀川氏自身が取材・構成を手がけていた。この連載はP.A.WORKSを立ちあげたばかりの堀川氏が、スタジオやクリエイターの今後の在り方を尋ねるものでもあって、「25年物語」はこの発展形であると筆者は感じた。
同インタビューでI.Gの石川氏は、花形の監督やアニメーターではなく、「陰でクオリティーを支えるスタッフがそこにいればいい作品はできるんだ」と話し、単一の花であるヒマワリではなく、小さい花が寄り集まったアジサイを育てるようなスタジオが理想的だと語っている(編注)。その例として、動画監督(動画検査)の重要性を石川氏は力説していた。
本コラムの第45回「アニメーションの動画の大切さ」( https://anime.eiga.com/news/column/editor_bookshelf/123188/ )にも書いたが、動画検査は我々が見ているアニメの絵の最終的な品質を担保する、縁の下の力持ち的な重要な役職だ。多くの人が関わるアニメ作品は、そうした表にはあまり出ない人たちの良い仕事でなりたっていて、P.A.WORKSの「お仕事物」と呼ばれる一連のオリジナル作品シリーズでは、無名の新人が組織のなかでいかに物事をなしていくかが形を変えながら描かれてきた。スタジオ自体の歩みを物語に例えた「25年物語」は、あとがきで2030年に続編の刊行が予告されている。同社の今後の作品とあわせて“30年物語”の刊行も楽しみにしたい。(「大阪保険医雑誌」26年1・2月合併号掲載/一部改稿)
編注
「アニメランナー」第3回 石川光久 プロダクション・アイジー社長 「ずばり、雑・草!」のシナリオ
https://www.pa-works.jp/for-animator/anime-runner/933/
編集Gのサブカル本棚
[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。
作品情報
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劇場版「SHIROBAKO」
¥0
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Shirobako [Blu-ray]
¥7,680
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SHIROBAKOアートワークス
2018年05月01日¥12,941
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SHIROBAKO Vol.1 プレミアム BOX (初回仕様版) [Blu-ray]
¥17,640 ¥16,097
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