2026年6月27日(土)19:00
【編集Gのサブカル本棚】第59回 絵コンテを具現化させる、アニメの「演出」の仕事

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テレビアニメのエンディングで流れるスタッフクレジットには、大体最初のほうに各話の中心スタッフとして「絵コンテ:〇〇、演出:〇〇」と表記される。絵コンテについては「アニメーションの設計図」と説明される機会が増え、テレビ番組のアニメ特集などで専用の用紙に描かれた絵コンテの現物をみたこともあるはずだ。宮﨑駿作品のドキュメンタリーで、宮﨑監督が苦心しながら絵コンテを描いている姿を見たことがある人も多いだろう。
一方、もう片方の「演出」は具体的にどんな仕事をしているのか。アニメスタッフの間で「演出処理」と呼ばれることもある狭義の意味での演出の仕事は、筆者自身、長い間なんとなくしか分かっていなかった。作品によってケースバイケースの部分もあるようだが、基本的に絵コンテよりも作品に関わる時間は長く、特定の話数の出来がよかったとき、演出とクレジットされたスタッフが良い仕事をしたからであると言っていいと思う。そんな「演出」の仕事の一端を紹介したい。
絵コンテを具現化させる
「増補改訂版 アニメーションの基礎知識大百科」(神村幸子・著/グラフィック社)の「演出」の項目には、「作品を構成し、キャラクターの演技をつけ、作品全体をまとめて方向性を指揮し、責任を持つ人。またはその仕事」とある。この説明をもとに、筆者なりにかみくだいて説明すると、アニメーションの設計図である絵コンテを具体的に映像に落としこむのが演出の仕事だ。各カットを担当するアニメーターと打ち合わせをし、あがってきたレイアウト(※絵コンテをもとにアニメーターが描く画面の設計図)や原画をチェックして絵コンテで想定された映像になるように調整する。そのほか、音響作業への立ち合い、美術、色指定、撮影、編集など、絵コンテ以降のアニメ制作工程に制作進行と二人三脚で取り組む。各話の監督のような立ち位置であり、演出を担当するにあたっては、監督から作品全体の演出方針や各話の狙いなどの説明をうける打ち合わせも事前に設けられる。
アニメ作りを家作りに例えると、絵コンテが建築設計図で、演出はそれをもとに実際に家を建てる現場監督と考えると分かりやすいかもしれない。多くの職人と打ち合わせをし、全体を見ながら各作業の交通整理をし、決められた納期できちんとした家を建てるまで見届ける役割だ。家の建付けが悪かったり、ドアの開きが逆だったりすると困るように、アニメーションの場合も、セリフと口の動きが合っていない、カットが切り替わったときに物の配置がずれているといったテクニカルな部分もしっかり調整されていないといけない。こうした部分も演出の大事な仕事だ。
スタッフインタビューなどで「作品の面白さは絵コンテで決まる」と語られることもあるぐらい、作品の大きな指針は絵コンテ段階で設計されている。ただ、絵コンテのままでは絵に描いた餅でしかない。それを具現化させるのが「演出」の仕事で、作品と並走する大事な役割を担っている。
演出の仕事の実態
昨年、若手アニメ演出家が自ら書いた演出指南書「アニメ演出マニュアル」がクラウドファンディングを経て同人誌として刊行された(編注)。著者の青木youイチロー氏は制作進行出身で、新人時代に先輩から聞くなどして見様見真似で覚えた演出処理の実務を後進に伝えるため手引書をつくろうと思ったのが制作の動機であるとまえがきに書いている。表紙に「何かと分からないアニメ演出の手引書」とある通り、実務に関わるアニメスタッフのあいだでも演出業務の言語化はなかなかされてこなかったようだ。
同書はプロ向けの内容のためすべてを理解できたわけではないが一読すると、テレビアニメの分野では、レイアウトのチェック・修正などの絵に関わる部分や、絵コンテ撮の作成などがしっかりできることが、一人前の演出に求められる重要な要素のようだ。後者の絵コンテ撮とは、絵コンテの絵の部分を指定された時間通りに繋いで1本のムービーにしたもの。主に声の収録時に用いられ、本来であればアニメーターの描いた絵に色をつけた状態で行なうべきところを、スケジュールの都合で絵コンテ撮でアフレコが行われることが近年のアニメ業界では常態化している。
前者のレイアウトのチェック・修正は、アニメーターが描いたレイアウトが絵コンテの狙い通りになっているかを各作品の注意事項にのっとって確認する作業だ。アニメスタッフの間で共通言語として用いられるタイムシートを確認・調整し、後工程のスタッフが正しく作業できるようにするのも大事な役割となる。チェック時にこのまま原画に進めるのは相応しくないレイアウトがあがってきたとき、作業担当者に戻して描き直してもらうのが本来の姿であるし、そのやりとりがあってこそ担当者も成長できる。しかし現実的には、演出が自ら一部を直したり、場合によってはいちからすべて描き直さないと制作が間に合わないことが多いようだ。そのため、演出は絵を描くことも求められる。もちろん、最終的には作画監督が手を入れるが、その前段階で演出がパースなど絵の方針をしっかり固めていないと作画監督の負担が大きくなりすぎてしまう。同書によれば、現在のテレビアニメで演出が1話数を手がける標準的なスケジュールは3~6カ月ほど。限られたスケジュールのなかで作品をより良くするため、効率的に作業をすることが求められる。
個人的に興味深く思ったのが、各指示やタイムシートに書く数字などは誰でも読めるよう丁寧に書くよう注意されていたことだった。1話につき数百カットにおよぶ膨大な制作素材を多くのスタッフでやりとりするさい、「ミスなく伝える」ことが必要になってくる。また、同署のあとがきには、現場の人間関係構築や円滑なコミュニケーションが大事であるとも書かれていた。この部分はアニメ制作にかぎらず集団作業には必須な要素で、わざわざ書くということはタイトなスケジュールゆえ、どうしても余裕がなくなってそうした部分がおろそかになりがちだからなのかなとも思ってしまう。同書の姉妹版である冊子「アニメ演出裏マニュアル」には、制作スケジュールが崩壊して作業時間が逼迫したとき、どこを諦めてどこを救うことでダメージコントロールするべきかなど、過酷なアニメ制作の一端が垣間みえる話題がコラム形式で綴られている。
以前、TRIGGERの舛本和也プロデューサーから、今のアニメ業界にはアニメーターも足りないが、それよりもっと足りないのは演出だと聞いたことがある。その底上げに「アニメ演出マニュアル」は大変役立つと思う。舛本氏自身も、制作進行の仕事をおそらく初めて言語化した同人誌をつくり(のちに星海社新書で書籍化された)、その後もアニメ制作に関する同人誌を精力的に頒布し続けている。筆者の仕事である編集やライティングの仕事もそうだが、今は昔のように「見て覚えろ」の世界ではなくなった。先輩が後輩に教えることも、本当は双方にとって必要なことだが、余裕がないと正直難しい。こうした指南書で自ら学びながら実務にあたるのが今の時代にあっているし、求められてもいるのだろう。(「大阪保険医雑誌」26年3月号掲載/一部改稿)
編注:「アニメ演出マニュアル」はメロンブックスの通販で入手できる。姉妹版の冊子「アニメ演出裏マニュアル」はイベントなどでの販売に限定されている。
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3190344
編集Gのサブカル本棚
[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。
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