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特集・コラム 2021年1月3日(日)19:00

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第31回 「ウソ」を「リアル」に飛躍させるもの

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横浜港で、ついに1分の1ガンダム「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」がスタートした。プロジェクト「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」の初期、2016年に筆者も「GGCリーダーズディスカッション」でモデレーターを担当している。まだ現地には赴いていないが、テレビで全長18メートルの人型をした巨体が動く迫力を堪能した。ガンダムそれ自体は見慣れているのに、まったく異なる感銘がそこにわき上がってくる。
 特に太ももがスライドする機構には素直な感動を覚えた。フィギュアなどの濃いブルーとアニメに近いスカイブルー、パネル分けにより光源次第でどちらの解釈も成立する胸の色も好みである。NHKのドキュメンタリー番組によれば可動機構は最終的にミリ単位で調整され、このマキシマムなサイズ感とミニマムなテクノロジーの併存が素晴らしい。技術者たちが問題を抽出し、整理分担してひとつずつ解決する姿に、かつて自分も従事していた技術開発の時期が重なり胸が熱くなった。
 この40年間誰も見たことも無いメカニズムが人間の形をとっている。プラモデルの印象とは大きく異なると同時に、プラモデルがなければ絶対ここには到達できなかった。このように意図せざるものの積み重ねが結集して「かたち」になる展開は、まさにガンダムマインドの結晶ではないか。
 富野由悠季の雑誌コメントでは1分の1ガンダムは3回目、富士急ハイランドで横位置だったガンダムもカウントすれば4回目と語られていた。
 よく知られているのは09年、お台場の「18メートルガンダム立像(全身像)」だろう。何度か移設されているが、最初の潮風公園は近くに対比物がないため、足下から見上げたインパクトが壮絶だった。実はこれは「建築」である。地震や台風などの転倒防止用のカウンターウエイトが地中に埋設され、警告灯など航空法をクリアする対策も施されている。「人の形をした建造物」という観点が魅力的だった。
 筆者が関わった1分の1は、03年に建造された千葉県松戸のバンダイミュージアム用半身像である。2フロア分をぶち抜き、腰から上のガンダムを1分の1で実体化したものだ。観客が手のひらに乗れるのが特徴で、NHK BSのガンダム番組でもロケ地に使われていたから、ご記憶の読者もいるだろう。
 このプロジェクトではサンライズの設定チームに参加した。プロデュースは井上幸一氏、ディレクションと関連映像制作は当時サンライズDIDの今西隆志監督、考証は松崎健一氏、メカデザイナーは村田護郎氏(故人)、そして自分はパネル類のライティング(館長ごあいさつなど含む)と既存映像とのリンクに関して意見を言う立場で、定期的な打ち合わせで検討を進めた。最終的な立体造型はマックスファクトリーがまとめている。
 このときのコンセプトは、「最初のガンダムをそのまま再現すること」にあった。20周年を少し過ぎた当時は雑誌「ガンダムエース」も創刊され、ガンダムの大衆化が一段と進む一方、原点回帰が同時多発的に志向されていた。それゆえ大河原邦夫氏のデザインを重視し、画面で動かすキャラクターとしてまとめた安彦良和氏のアニメーション用設定や作画されたガンダムへの忠実度を求めた。このガンダムは現在は、栃木県の「おもちゃのまちバンダイミュージアム」に移設されて今でも見ることができる。
 当時、ガンダムの価値は「人型兵器としてのリアル」にあると考えられ、プラモデル化で加えられたアレンジが一般的な立体形状と認知されていた。それはそれで発売当初から無数のガンプラを作ってきた筆者も好ましく思っている。同時に「映像のガンダム」の後退も気になった。だから1分の1も手にとって見て遊ぶサイズが要請したアレンジではなく、むしろ「空想の世界の中から現実化したガンダム」という方向性が必要だったと記憶している。
 振り返ってみると、歴代の実寸大ガンダムは「本来コンフリクトを起こすフィクションとリアルを、いかに調停するか」の点で一貫している。それぞれ時代性やコンセプトによってインプリメンテーション(具現化)のアプローチ、工夫、知恵が異なるだけだ。
 そういう経緯もあり、正式呼称は「実物大ガンダム」かもしれないが、筆者は「実寸大」「1分の1」にこだわっている。「実物が存在しないがゆえの具現化」に「価値」を感じているからだ。NHKニュースと富野由悠季監督の開幕式あいさつでも「実寸大」「1分の1」と言われていて、あながち間違いでもない。
 そもそもガンダムの身長設定「18メートル」は「リアル」からほど遠い「大ウソ」であった。成人男子の身長が1.8メートルとしてその10倍……実に他愛ない理由である。重量設定が60トンなのも、体積は10の3乗になるから体重60キログラムの1000倍という計算からだ。
 70年代末に登場した「機動戦士ガンダム」は、こうした「子ども向けテレビまんがのアバウトさ」と「ハイターゲットも楽しめる現実味」の両方を兼ね備えていた。そのコンフリクトを乗り越える努力が、斬新な「持ち味」をもたらした。「ウソの中からここまで現実を変えた」タイトル、その原点を大事にするため、「架空の存在ゆえの尊さ」を機会あるたびに強調しておきたい。アニメ文化の歴史も絡めつつ……。
 「ガンダムみたいなものを作りたい」と願う若者は後を絶たない。だが、1979年の発端は「おもちゃ販売用新作」に過ぎなかった。ガンダム本体の設定も特に慎重に考えたり、入念な準備を積み重ねたりしたものではなかった。むしろ大事なのは「そこから出発してどこまで行けるか」と、当時のスタッフたちが見上げた視線の先だ。閉塞感を打ち破り、既成概念の重力にとらわれず、無限の可能性を無限の資源がある地(宇宙はそのメタファー)へ飛びだそうという意志である。だから「ガンダムそのもの(という既成概念)を目標にすると作れない」のは自明でもある。
 「機動戦士ガンダム」テレビシリーズ時の言い方をすれば「どれだけ翔べるか」となる。それゆえの「ふりむくなアムロ」なのである。劇中の第9話「翔べ! ガンダム」では、ガンダムがジャンプ攻撃をしてみせる。お台場の実寸大ガンダムを見たとき「これがジャンプして着地するのは無理だろう」と実感しつつ、むしろそれも含めて重力を振りきるフィクションの良さが再確認できた。
 物語の本質が「よく出来たウソ」だとすれば、もともとはバカバカしいものかもしれない。けれどもそこに信じられないような情熱を注ぎ込むことで、不可能性の可能化に到達できる。それを人は時に「奇跡」と呼ぶ。
 作品が整って良く出来てるかどうか、つじつまが合ってるかよりも、そこを問題にしたい。「人がどこまで高く翔べるか」という想いをどう送り手・受け手が共有できるのか、そのプロセスに関心がある。それもまた神話的な「契約」ではないか。しかもそれが現実に作用し、何かを変えていくプロセスとのリンクが確認できればベストだ。
 そういう興味関心があるから、今回の実現にあたった技術者たちの顔つきには、深い感銘を受けた。自分も東京工業大学の出身だ、制御工学でNC制御も習い、80年代初頭にはロボットメーカーにも見学に行った。メーカー勤務時代も開発・開拓の繰り返しであった。だから今回の開発も根幹のところに関心がある。
 かつて自動車など製造ライン改善に使われていたロボット技術が、「18メートルの巨人」に適応可能とは、当時の想像力の範疇を超えている。だからこそアニメにその興奮を求めていた。しかし6階建てのビルに相当するガンダムが歩き、しゃがむ姿は、過去や現在を見直す契機にもなる。インフラや既存の発明品に「ただ乗り」せず、新しい「ものづくり」への情熱を触発できるかもしれない……しかもあくまで「遊び」の延長であり「楽しい」という発信は、閉塞感が世界を覆った今年、かけがえのないものに思えた。
 大人が真剣に取り組んだガンダムの形状は優美で、細部とバックヤードには最先端の技術が宿っている。未来ある子どもたちが「自分にもできる」「これはやってみたい」と感じるために、実体化したと考えれば、実に貴重だ。小中学生を触発し、才能を開花させるものだと想像すると、エンジニア出身の自分としては感無量である。
 振り返ってみれば20年、40年はあっという間だった。この次の20年後は、本当に人間が乗って操縦できる自立歩行ガンダムも可能になるに違いない。そうした「空想力が人を触発し現実を高く翔ばせる」という点で、1分の1実寸大ガンダムには、大きな価値があると確信している。

氷川 竜介

氷川教授の「アニメに歴史あり」

[筆者紹介]
氷川 竜介(ヒカワ リュウスケ)
1958年生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院特任教授。アニメ専門月刊誌創刊前年にデビューして41年。東京工業大学を卒業後、電機系メーカーで通信装置のエンジニアを経て文筆専業に。メディア芸術祭、毎日映画コンクールなどのアニメーション部門で審査委員を歴任。

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