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特集・コラム 2021年3月1日(月)19:00

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第32回 60年代と70年代をブリッジする「巨人の星」

(C)梶原一騎・川崎のぼる/講談社・TMS

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パートワーク形式でテレビアニメの古典を書店展開してきた「COMPLETE DVD BOOK」(発行:ぴあ)。今度は「史上最長のシリーズ」と銘打ち、「巨人の星」(梶原一騎原作、川崎のぼる画)がリリースされる。全181話を2021年3月26日より18カ月連続リリースというから、壮絶なボリュームだ。最新マスターを使用しているため、1巻あたりの収録話数が多めなのに比して品質も好評のため、楽しみである。
 氷川もコラムを不定期連載予定なので、今回は重複しない話をしてみたい。
 まず「巨人の星」は「スポーツ根性ものの代表作」とされることが多い。そこが微妙にリアルタイム世代だった自分の認識と異なっている。そもそも根性を含まない「スポーツもの」の嚆矢に近い存在だったのだ。
 スポーツがテレビアニメの題材として向かないと思われていた時期があったとしたら、それはやはり時代性に関係し、なおかつ当時の「テレビの性質」に関係しているはずだ。高度成長期、テレビ受像機が急速普及した理由はいくつか挙げられる。その最大級のものが「スポーツ中継」であった。ことに「対戦」を軸とするプロレス、相撲、プロ野球は大衆を熱狂させた娯楽で、ラジオ中継から地続きのかたちでテレビに持ちこまれた。
 受像機普及の呼び水となった街頭テレビに、帰宅途中のサラリーマンが群がっている写真(新橋駅前など)を見たことのある方も多いだろう。それは視覚に加えてアナウンサー、解説者がコメントを加える聴覚の相乗効果がもたらしたエポックだった。
 その中で野球はアメリカナイズされた戦後文化と親和性があり、少年たちは草野球に興じ親子でキャッチボールするなど、世代を越えて楽しまれる要素が多々あった(余談だが筆者自身にその種の体験は乏しく、野球より読書を好んでいた)。
 こうしたバックボーンから、「野球とはリアルタイムの駆け引きや展開を楽しむもの」と、そんな社会通念があったはずだ。ましてや当時の「テレビまんが」はリアルさを追及するものではなく、SF、魔法、ファンタジー、忍者、秘境など非現実性を高めたものにこそふさわしいと思われていたから、あらかじめ「お話」が仕組まれているアニメでスポーツものを作っても意味がない……。絵を動かして球技を描くとなると莫大な作画枚数が必要となるし、アニメらしい驚きのある誇張された動きも抑制されてしまうではないか。紙の漫画で演出的に緊張感を描くならともかく……といった事情も推察できる。
 だからテレビアニメが本格化した最初の5年、1967年までの年表を見ると、「スポーツもの」に近いものは「ハリスの旋風」(剣道ほか)「マッハGo Go Go」(カーレース)ぐらいしか見当たらない。
 そういう状況下の68年3月30日、テレビアニメ版「巨人の星」はスタートした。翌日の4月1日に同じ川崎のぼる原作の「アニマル1」も始まる。これは同年のメキシコオリンピック合わせのレスリングものだった。だからこの2作で「スポーツもの」を開拓したという実感がある。
 ここで注目したいのは「巨人の星」が雑誌連載から2年経過した時点でのテレビ化だという事実だ。しかも放送開始当初は視聴率が伸び悩み、第22話までは第15話を除いて20%を切っていた。これ以後はコンスタントに20%を超えるようになり、視聴率第2位は花形満が大リーグボール1号を打倒する第83話「傷だらけのホームイン」の36.2%である。
 上昇の理由を分析するとき留意したいのは、作品認知の拡散もさることながら、「物語に内在するテンション」の変化である。ここでひとつ重要なファクターに注目したい。原作漫画・アニメとも「巨人の星」が画期的だった点は、「スポーツもの」「根性もの」という以前に数年間を要する「大河ドラマ」を実践したことなのだ。
 1960年代までは、週刊連載漫画もテレビアニメも「毎週毎週流れて消えるもの」として制作されていた。もちろんストーリー漫画なら複数回で続いていくのだったが、大半の作品では事件が終わっても主人公やレギュラーは成長せず、変化に乏しい。理由は簡単である。漫画の単行本化、ビデオによる録画、「まとまった消費」が常態化するのはずっと後のことだからだ。
 所用と重なったりうっかりしたりして、機会を逸することも多かった時代、ちょっと間を空けただけですっかり主人公の気持ち、あるいは状況が変わっていたら「視聴習慣」が途切れてしまう。そんな時代に「巨人の星」は主人公・星飛雄馬の小学生時代から物語を始めた。そして心身ともに成長し、やがて高校野球を経てプロ野球界入りする。
 打ち切られたら宙ぶらりんに終わる、「変化・成長」を数年にわたって描こうとする姿勢それ自体が(前例はあるものの)リスキーだった。アニメ化まで2年を要したことも、テレビ局と新聞社との関係性で難航したこともさることながら「この物語は全体としてどういうものか」「どれだけ長く続けられるか」を把握するためのタイムラグが必要だった事情も大きいはずである。
 傍証としては、視聴率上昇期と物語展開との連動性がある。20%を超えるあたりで、青雲高校に入学した星飛雄馬に対し、野球部監督として立った実父・星一徹が“敵”として立ちはだかる。高校野球界の活躍は、巨人軍へ入るための重要なプロセスだ。本来なら、全力を尽くして支援すべき父が敵となり、「なぜだ? どうなる?」と観客が身を乗り出すあたりから、ようやく「物語の面白さ」と「野球の面白さ」との歯車がカラミ合い、スタッフの練度も上がって新しい魅力が際だっていく。
 やはり「スポーツものだからヒットした」のではなさそうだ。先の展開への期待をリードする「成長物語」の題材として野球が適材だと観客に判断されたからヒットした。この順番ではないか。もちろん本作に導かれて同じ梶原一騎原作の「タイガーマスク」「あしたのジョー」も続けてヒットし、「スポーツ根性もの」が一時代を築くわけだから、その基礎ではある。だが「なぜわざわざスポーツものをアニメにしたのか」「ホントは視聴者が何を楽しんでいたのか」の点では、検証も必要ということである。
 最高視聴率の第83話にしても大リーグボール1号の開発秘話、その疑似科学的な理詰めの裏づけ、ライバルたちの挑戦などなどシリーズの中期から後期にかけて魅力のエッセンスが凝縮したブロックの頂点にあたるエピソードである。作画も演出も超ハイテンションとなったからこそ、歴史的な最高視聴率というわけだ。
 実を言うと「巨人の星」最終2クールに該当する第158話(71年4月)以後、視聴率はふたたび20%を割り始め、最終回の24.7%を例外として復帰しなくなる。これは怪獣ブームの影響とも認識されている。裏番組の「宇宙猿人ゴリ」がブームを再燃させ「巨人の星」を打ち破ったと、そのエピソードは特撮ファンなら知らぬ者のないほど有名だ。同じ4月からは「帰ってきたウルトラマン」と「仮面ライダー」も始まっているから、ある種の覇権が「スポ根もの」から「第二次怪獣ブーム」へと移転するようにも見える。
 だがちょっと待ってほしい。実は掲載誌「少年マガジン」を100万部にのしあげた原料力ともされた原作漫画が71年に入って早々、先に完結しているのである。この「終わった感じ」がテレビにも大きく影響したと考えられる。
 物語中で描かれている比喩を使えば「沈む夕陽」(巨人の星)と「昇る朝日」(特撮ヒーロー)を比べるようなもの、同じ条件でのジャンル比較ではないことにも留意が必要だ。そしてテレビアニメの完結、1971年9月18日までアニメスタッフはオリジナル展開を数多く盛りこみ、原作とは異なる結末を描いている。そしてアニメ表現そのものも、主人公と同様に激変していくことが、3年半の時間を圧縮して鑑賞することで際だっていくことだろう。今回のような着眼点含め、60年代と70年代をブリッジする激動期の検証材料としても最適な史料が廉価に入手可能となったことを喜びたい(敬称略)。

【お詫び】当初第83話を「最高視聴率」と記載しましたが、第94話「飛び立つ星」36.7%が最高視聴率と判明しました。お詫びするとともに、本文を「視聴率第2位」と修正いたしました。ご指摘に深く感謝いたします。

氷川 竜介

氷川教授の「アニメに歴史あり」

[筆者紹介]
氷川 竜介(ヒカワ リュウスケ)
1958年生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院特任教授。アニメ専門月刊誌創刊前年にデビューして41年。東京工業大学を卒業後、電機系メーカーで通信装置のエンジニアを経て文筆専業に。メディア芸術祭、毎日映画コンクールなどのアニメーション部門で審査委員を歴任。

作品情報

巨人の星

巨人の星 Check-in0

星飛雄馬は、幼い頃から父・一徹により野球の英才教育を受けて育った。父が果たせなかった夢、巨人軍の明星となるために……。青雲高校に入学した飛雄馬は、親友・伴宙太とバッテリーを組み、豪速球投手として...

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