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特集・コラム 2022年7月23日(土)19:00

【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第43回 2回転ひねり、でもストレートな女子高生ガンアクション「リコリス・リコイル」

(C) Spider Lily/アニプレックス・ABC アニメーション・BS11

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日本の暗部は女子高生が一手に担う。犯罪を引き起こしそうな存在を事前に闇組織が察知し、その指示に基づいて市中に潜んだ女子高生殺し屋たちが速やかに排除。かくして、市民は誰も知らないうちに、日本の治安は守られている……。

そんな現在放送中のオリジナルテレビアニメ「リコリス・リコイル」のヤバい世界観は、「美少女」という表象に何気ない日常の喜びから世界の危機まですべてを背負わせ、描き続けている日本のオタク系サブカルチャーのグロテスクな側面を戯画的に設定化したものだといえまいか。それでいて、フィルムそのものはオタク系サブカルチャーの快感原則をスタイリッシュに、丁寧に拾い上げており、深読みせずにただただじっと表層を見つめる分には、痛快なエンターテインメントとして楽しめてしまう。今作はそんな二重構造を持っている、極めて優れた批評的作品なのである。

……なーんつってな。嘘、ウソ、ジョークです。「リコリス・リコイル」はいい意味でいかにも日本の深夜アニメらしい、ぶっ飛んだ味わいがある美少女ガンアクション作品。そのポップな魅力を、ちょいと悪ふざけした文章でもって、迂遠にお伝えしてみようとした次第です、はい。

監督のインタビュー()を読むと、そうした企画のテイストが生まれたのは、今のアニメファンの求めるものを鑑みて、「GUNSLINGER GIRL」でもなく真下耕一監督の「NOIR」「MADLAX」「エル・カザド」の3部作でもない企画を目指した結果だとか。

この「~ではない」を積み重ねる意識(もちろん、それだけで企画が作られたわけではないだろうけれども)が、おもしろいなあ、と思う。そもそも考えてみれば、「GUNSLINGER GIRL」という作品の発端には、違和感があったはずだ。いたいけな少女たちが無骨な銃を巧みに操る殺人兵器として、武装闘争を繰り広げる。その、常識的に考えればあれこれと無理のある設定を、極めてシリアスに描ききることによって生み出される、名状しがたき魅力。真下監督の3部作にしても、そこにはどこかドライな、あくまで作り物であることに自覚的な、突き放したような美学があった(戦闘BGMが流れれば、ヒロインは舞うように戦い、弾丸は当たらない……といったように)。それらの、そもそもベタなアクションものからどこかひとつひねったものであった企画から、さらにひねった地点に、「リコリス・リコイル」の企画は存在している。

繰り返すが、それでいてフィルムとしての「リコリス・リコイル」は特に変わった、いびつなエンターテインメントであるという印象を与えない。冴えたデザインによる美少女たちはどこまでも魅力的で、アフレコで高い自由度を与えられていたという声優陣の芝居も絶妙なニュアンスを湛えていて、ただただ心地よい。演出もシャープだ。特に1話。アクションの静と動、同ポジションを巧みに用いたパッと切り替わるかのような場面転換には目を奪われた。

ひねったものを、もうひとひねりする。ともすれば直球になることもありそうだが、今作の企画はスタンダードな地点には戻っていない。どこか変わった地点に着地しながらも、完成した映像はストレートな娯楽活劇として楽しめる。この不思議さは、実のところ現代の日本のアニメには、数多く見られる特徴ではないかと思ったりもする。そこにどっぷりと浸かっていると、あまり意識することはないけれども。この作品はふと、あらためてそんな特徴に気づかせてくれたような気がしている……って、なんか今回、やたら言い回しが大仰なのはなんでなんだ。まあ、いいか。最後にこれだけ言って終わろう。以下、この原稿で伝えたかった最重要事項。

私、千束派です!!!!!!!!!!!!

前田 久

前Qの「いいアニメを見に行こう」

[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ)
1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。

作品情報

リコリス・リコイル

リコリス・リコイル 96

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