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特集・コラム 2024年12月14日(土)19:00

【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第57回 TVアニメらしい小粋な魅力の「嘆きの亡霊は引退したい」

(C)槻影・チーコ/マイクロマガジン社/「嘆きの亡霊」製作委員会

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まずは宣伝をさせてください。来年、2025年の1月18日の夜に、新宿ロフトプラスワンで「日本オタク大賞2024」が開催されることに相成りました。マンガ、アニメ、ゲーム、特撮、文芸などなど、2024年度の様々なオタク系トピックを各ジャンルの識者が総ざらい。私、前Qはアニメ部門を担当します。
 四半世紀近く続いてきたイベントですが、今回でもってひとまず終わり。最終回。エンドゲーム。おなじみの方も、少々ご無沙汰だった方も、今初めて知ったという方も、ぜひぜひこぞって遊びに来ていただければ。配信もあります。

といったところで、ここからは本題。
 今回は「嘆きの亡霊は引退したい」の話をします。11月後半から近年稀に見る忙しさで気を抜くと吐きそうになっているのですが、そんな最中の貴重な癒やしのひとつです。なんてったって主人公の口癖が「ゲロ吐きそう」なんだもの。親近感湧くわあ。というのは冗談で、テレビアニメはこれくらい肩のこらないものがいいんですよね。基本的には。「またこの話をしてる」と思われそうですが、私はテレビアニメにはテレビアニメの美学、スタイルがあり、それはOVAや劇場作品とは違うものだと考えています。OVAや劇場作品はテレビアニメの発展形ではない。OVAや劇場作品と見紛うばかりの画面の密度を誇るテレビアニメに「これが無料で楽しめてしまうなんて、ありがたいねえ」と手を合わせ、伏し拝む気持ちはあるけれども、そうしたものばっかりになられるのはちょっとイヤ。そういうテレビアニメって楽しいけど、疲れるんだもの。

嘆きの亡霊は引退したい」の内容は、私と世代の近い人にわかりやすい表現をするなら「無責任艦長タイラー」のファンタジー版変奏曲という感じ。自身は冒険者としての才能に恵まれなかったものの、桁外れの才能を誇る(が、ちょっと人間的に欠けたところのある)幼なじみの仲間たちに囲まれ、たまさかチームのリーダーに祭りあげられてしまった主人公のクライ・アンドリヒは、その恵まれた地位をさっさと捨て、引退して穏やかに暮らしたいと思っています。しかしながら、仲間の実力とそこから分配される富で何もしなくても高まる名声、さらには危険や面倒事から逃れるためのテキトーな詭弁によって、周囲からどんどん大人物と勘違いされ、その高まった世評のせいで降りかかってくる火の粉を次々と払う羽目に。ようするに、若干変化球気味な「やれやれ」系主人公で、責任からの逃げっぷりなどはなかなかのクズぶりなんですけども、災難の降りかかり方が自業自得気味なのと、無駄な人死は見過ごせなかったりする性根の部分がそれなりに善良なので、見ていてなんとなく憎めない。そんな男だから、幼なじみのチート級冒険者たちから溺愛されているのも納得してしまう。この主人公の性格と人物配置、そこから発生する勘違いを軸にしたやりとりが絶妙で、見ていると自然と笑いがこみ上げてくる、ってなわけ。マスターは神(※クライを慕うヒロイン、ティノちゃんのお約束的な台詞。もう、こうして書いている字面だけで、軽く笑ってしまう)。

画づくりは、岩永大慈さんの絵コンテ回などにしばしばトリッキーな構図が見られますが、基本的にはシンプルなアップ、バストアップの構図が多めで、アクションにしてもグリグリと回り込んだりする昨今の流行りの感じではなく、動きの省略でスピード感を見せたり、エフェクトで爽快感を出す巧みさが光る。制作のコスト管理はしっかりしているものの、きちんと細部に目が行き届いており、表情やポージングなどで各種の工夫があるので、見ていて飽きません。
 特に印象的なのは撮影処理で加えている照明的な効果で、画面全体はノーマル色ななかで、部分的に特色カット的な色替えをしてみたり、はたまた、キャラの表情だけにライトを当てることでギャグ的な表現をしてみたり、バラエティ番組や舞台における照明効果のような使い方がユニーク。こうした工夫こそが、テレビアニメの魅力なんですよ、ええ。

テレビアニメならではのおもしろさという点では、OP・EDでの遊びの要素も見逃せないです。OPはいわゆる「蒼き流星SPTレイズナー」というか、「デュラララ!!」方式というか、間奏部分でその話数の断片的な映像を先行して見せ、そこにキャラのセリフを被せるスタイル。このやり方、配信試聴ベースで、一度見たらOPをスキップするのがデフォルトになっている時代だからこそ、さらに意義深くなっている気がするので、他の作品もどんどんやってほしいです。楽しいし。
 EDにも次回予告を挿入する間奏パートがあり、そこで毎話、異なるキャストに歌わせたり、ラップをさせたり、はたまた寸劇をやらせたり、バリエーションをつけています。これもまた、配信のEDスキップ対抗策(?)を、おもしろさを担保しながらしかけていて、とてもいいです。10話ではその仕掛けがさらに、ED曲を歌っているアーティストのP丸様。をモデルにしたマルピーを劇中に登場させることと連動しており、こういう遊び心を隙あらば詰め込んでいくバラエテイ番組的なノリがまた、たまらないもんですな。高松信司監督とか、大地丙太郎監督の作品にも通ずるテイスト。あ、大地監督といえば、「ギャグマンガ日和」の15年ぶりの新作制作が決まって、前作の配信も始まりましたね。非常にめでたい(余談)。

実力派揃いの声優陣も揃って好演。個人的には、ファイルーズあいさんが演じる超体育会系、コワモテ脳筋キャラのリィズの、無邪気さとド迫力の怖さの同居っぷりがたまらないっすわ。あと、杉田智和さんのナレーションは、けしてふざけていないのに、そこはかとなくユーモアが漂っていて、円熟の手つき。「涼宮ハルヒの憂鬱」のキョンだとか、「銀魂」の銀さんとしてのナレーションの名調子から、また違うステージに進んでいる雰囲気といいますか。これに限らず、最近の杉田さんは主演でも脇役でも以前にも増して存在感があって、なんだか声優としてすごい領域に達しつつあるような気がしますわね。

では、そんなところで今回はおしまい。いささか気が早いですが、今年も拙い筆でお世話になりました。来年もどうぞごひいきに、よろしくお願いします。

前田 久

前Qの「いいアニメを見に行こう」

[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ)
1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。

作品情報

嘆きの亡霊は引退したい

嘆きの亡霊は引退したい 7

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