2026年8月1日(土)19:00
【前Qの「いいアニメを見に行こう」】第67回 「さよならララ」から考えた アニメの「新古典主義」
「さよならララ」を楽しんでいる。とはいえ、オリジナルアニメで折り返し地点も過ぎていないこともあり、作品を総論的に語ることは遠慮しておこう。今回は「ララ」に刺激されて広がった思考を、随想的に展開したい。
主に注目したいのは画面づくりだ。線の印象が強く、色の彩度が高い。力強い画面だが、全体としては上品な印象でまとまっている。アナログ制作の頃のアニメを思わせるルック。しかし、明確にどの作品に似ているかと問われれば、何にも似ていない。アナログ制作の、セル画、フィルム撮影の時代……より正確にいえば、1970年代にその端緒が開かれたアニメの表現様式が洗練と進化を遂げ、もっとも成熟していた時代。当時は認識されていなかったが、今となってはそんなふうに振り返られる、デジタル制作へと本格的に移行する直前の90年代・00年代初頭のルックを参照しつつ作りあげられた令和ならではのルック。西洋音楽史でいうところの「新古典主義」という概念を思い出す。過去の作品の様式を参照しつつ、同時代の美意識に訴えかけるものとして作りあげられたもの。ただの模倣ではなく、新しいものを生み出すための過去の参照。現代性と古典の感覚のマリアージュ。
近年こうした、「新古典主義」を感じるアニメを多く見かける気がする。たとえば「真・侍伝YAIBA」。これもやはり線が強く、色の彩度が高い。ギラギラした透過光も合わせて、画面の印象がパキッとしている。金田伊功〜今石洋之の系譜に連なるアニメーターが多数集った弾けたアクションに、よくマッチしている。
今期の話題作である「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」も、また違う方向性で「新古典主義」と括れるものだろう。1995年に公開された押井守監督の「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」は、現代のクリエイターが「新古典主義」を目指すときにレファレンスとして挙げることの多いタイトルのひとつだが、「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」は、押井監督が「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」やそれに先行する「機動警察パトレイバー 2 the Movie」において振り切ろうとした80年代・90年代のマンガ・アニメ的な文法を、原作コミックに立ち返りつつ作品に取り入れようとしている。
今期の作品でいえば、「鉄鍋のジャン!」もそうだ。1995年から連載された伝説の料理対決マンガをアニメ化するにあたって、出崎統監督の特徴的な演出技法……画面分割、3回リピート、ハーモニーの、いわゆる「出崎演出」が用いられている。重要なのは、一時期の作品でよく見られたような、ギャグ・パロディとしての参照ではない点だ。登場人物たちの、本気だからこそエキセントリックに見えてしまう言動の熱さや、原作の力強い筆致、コマ割りをアニメで表現するための最適な技法としての出崎演出への目配せ。それでいて映像から受ける印象は別に古臭くなく、むしろモダンだ。これもまた「新古典主義」的なものだとまとめられるだろう。
こうした潮流が一過性のものなのか、それとも、継続していくのか。これまでアニメの「古典」といったとき、70年代の諸作品を指すことが多かった。範囲を広くとっても、1988年の「AKIRA」まで。しかし、こうした潮流が継続するとしたら、そのとき「古典」の範囲はもう少し広がりを見せるのではないか。アナログ制作時代の末期までを「古典」と捉えて、視点を再整理するような必要を感じているのだが、いかがだろうか? 読者諸賢のご意見を問うてみたい。
前Qの「いいアニメを見に行こう」
[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ) 1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。











