2024年5月25日(土)18:30
アニメ「リンカイ!」スタッフ座談会前編 いかにして前代未聞の女子競輪アニメは生まれたのか? シリーズ構成・白根秀樹らと振り返る激動の「養成所編」
@RINKAI League Committee
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現在放送中のアニメ「リンカイ!」は、競輪に情熱を燃やす少女たちが、人生をかけてひたむきにもがく姿を描く青春アニメだ。5月21日に放送された第7話で波乱の「養成所編」が終了し、主人公・伊東泉らが新境地に挑む「プロ編」の幕が開いた。
今回は、シリーズ構成を務める白根秀樹、企画・プロデュースを担当するMIXIの鵜飼恵輔、トムス・エンタテインメント制作本部・文芸部長の宮澤浩介の3人にアニメ「リンカイ!」制作の舞台裏を明かす座談会の前編として、同作の誕生経緯と「養成所編」の展開を振り返ってもらった。
――まずは白根さんが、テレビアニメ「リンカイ!」に参加することになった経緯を教えていただけますでしょうか。
白根:宮澤さんからお声がけがあったんです。初回のシナリオ会議が行われたのは2022年の初夏ですが、それ以前からシリーズ構成案などは作っていました。
宮澤:鵜飼さんから作品のコンセプトをうかがったところ、女子競輪を題材にした作品ということで、アスリートでありつつ勝負師でもある、という競輪選手の二面性を描ける脚本家は、僕の知る限り白根さんしかいませんでした。鵜飼さんが「さまざまな背景を背負った選手たちが、しのぎを削るのが“競輪”だ」と熱く語られていたことがあったので、そうした人間ドラマを描くなら白根さんがピッタリだと思ったんです。プロデューサーの山川さんとも相談し、候補として挙げさせて頂きました。
鵜飼:最初に僕の方でまとめた、大まかなストーリー構成案を出させてもらって、ただ、それは、いわば作品のイメージを伝えるためにサンプルとして文章化したもので、「使えるなら使ってもいいです」くらいのものでした。それを見た宮澤さんから「この方向性なら白根さんにお願いしたい」と提案された形です。
白根:僕は競馬は好きでしたが、競輪には明るくなかったんです。知らないところは取材などを通じて1から勉強させていただきました。
――どういったことを取材されたのでしょうか。
白根:最初にうかがったのは立川競輪で開催された、将来養成所に入るかもしれない子たちや、全くの未経験者の子たちに、競輪選手に興味を持ってもらうために開催されている体験イベント(アニメ「リンカイ!」内でのトラックサマーキャンプ)の様子を見させていただきました。競輪場の施設も、普通なら入ることができないところまでくまなく見せていただいたので、キャラクターたちが闘う場所がどんなところなのか、身をもって知ることができました。各キャラクターたちの日常の姿や試合に挑む姿が、ハッキリとイメージできるようになったので、とてもいい経験でした。
その次にうかがったのは、物語の発端となる競輪場である伊東温泉競輪場。更にディープな場所にも入れていただけたことは大きな収穫でした。選手が待機する畳張りの大広間などには選手の所属地区ごとに場所が区分けされていたり、控え室も所属ごとに分けられていたりするなど、知らなかったことがたくさん分かって、おもしろかったです。
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宮澤:元選手の高木真備さんへのインタビューでも得るものが大きかったです。取材を通じて、ガールズケイリン選手たちの養成所での期ごとの団結力が強いということを感じました。もっと個人主義なのかなと思っていたのですが、伸び悩んで挫けそうになったりしている同期を、みんなで引っ張り上げるようなこともあるそうなんです。
鵜飼:高木真備さんは東京オリンピックの代表でもあった小林優香選手と同期です。同期の中で圧倒的な実力を持った小林選手は、「リンカイ!」における平塚のようなポジションだったそうで、最初は距離があったものの、次第に団結していって、みんなで強くなろうという気持ちになっていったのだとか。「リンカイ!」のシナリオプロットをまだお見せする前のインタビューだったので、作品とシンクロするエピソードに、とても驚きました。
――今作には、個性的な女子競輪選手がたくさん登場します。各キャラクターの造形は、どのように決まっていったのでしょうか。
白根:伊東温泉競輪と平塚競輪をホームバンクにするキャラクターを出すということと、ごく普通の子が主人公で、そのライバルとして孤高の天才がいる、というキャラクター配置は早い段階で決まりました。伊東泉は当初、読みはそのまま「いとう・いずみ」で「伊東温泉」という漢字表記でした。ところが、元ネタである伊東温泉そのままなので、インターネットで検索してもそちらばかり出てきてしまう、ということで改名しています(笑)。平塚ナナも、読みはそのままで「平塚七夕」という表記でした。
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白根:伊東と平塚以外では、弥彦が最初に誕生しています。おしゃべりなキャラクターがいると狂言回しとして扱いやすいという理由からです。次いで、お嬢様キャラとして那古屋紗智、年上で紆余曲折ある人ということで高松絹早がつくられました。熊本愛は当初からストーリーを牽引するキーマンのひとりとして設定されました。
宮澤:高木真備さんのお話からもうかがえることですが、現実の競輪選手が時としてフィクションを超える人間ドラマの登場人物だったりするんです。そのままアニメにしてしまいたいぐらいの経験をされている方が、たくさんいらっしゃる。さすがにそのままは使えないので、そうした選手の方々の経験や個性などを作品に落とし込むためには“濃い”キャラクターが必要でした。
鵜飼:ただ、そういったなかで主人公の伊東については、きっと人気が出ないだろうなと思っていました。あくまでも今どきの等身大の女の子ということで、ウジウジと悩むところも描くので、視聴者のみなさまからは嫌われるタイプだろうなと。同年代の女の子が本作を見て競輪選手を目指すきっかけになるのなら、そういう主人公でなければと思ったのですが、一方でその不甲斐なさに近親憎悪のようなものも感じてしまいやすく、爽快な物語を楽しみたいというニーズには沿わないキャラクターにはなってしまうだろうなとも。無難な主人公にして、人気としては5番手くらいのキャラとして多くのキャラクターの中に埋没するくらいなら、等身大の女の子を貫いた方がいい。なので、伊東役の川村海乃さんには、あらかじめ「きっと人気が出ないと思います……」と謝っていました(苦笑)。
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――原作のないオリジナル作品ならではの苦労もあったかと思います。第1~7話で描かれた「養成所編」のストーリーは、どのように生み出されていったのでしょうか。
白根:鵜飼さんが打ち立てた基本コンセプトが芯にあって、そこに向かってみんなで突き進んでいくという感じだったので、ずっと産みの苦しみが続くという感じではなかったですね。原作という、ある種の制約がないので自由にできた部分もあります。
鵜飼:シリーズ構成案の第1稿から、物語序盤の大まかな流れはできていましたね。
白根:競輪が題材ではありますが、根本の人間ドラマは普遍的なものなので、伊東という女の子がどのように歩んでいくのか、どのようにしてプロへと成長していくのか、ということを軸にしてストーリーを組み立てていきました。当初は「養成所編」だけで終わらせて、それ以降の「プロ編」までは描かないという選択肢もありました。1クール全12話という尺との兼ね合いで、どこまでを描くべきなのかというのは悩んだところです。
宮澤:熊本の離脱に関わる第5~7話についても、白根さんが相当熟考されていた印象があります。
鵜飼:熊本は主人公然としたキャラクターで、一方、主人公である伊東はあくまでも普通の子。そのギャップを埋めるのが高いハードルだったのかなと思っているのですが……。
白根:やるべきこと、見せるべきシーンは明確でした。一番先頭を突っ走ってきた天才肌の熊本が、上には上がいて潰れてしまうということと、その事態を目の当たりにした伊東と平塚、双方の視点からのとらえ方を見せていく、という構図は決まっていたんです。でも、そこにつながる説得力をどのように積み上げていくかが問題でした。伊東、平塚、熊本による、ある種の三角関係からひとり欠けてしまうなかで、当人たちはもちろん、周囲の人々にどんな影響があるのかを、限られた尺でどういう順番で見せていくのか、ということを「養成所編」全体を俯瞰しながら詰めていきました。
宮澤:脚本の制作を進める過程で“自転車競技”としてのケイリンを描く方向性が強く押し出された時期もありましたね。
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白根:ですが、その路線は「競輪そのものをもっと描くべき」ということで鵜飼さんからストップがかかりました。これは本作にとって大きな転機だったのではないかと思っています。
鵜飼:「スポーツであり、同時に公営競技でもある」というのは競輪ならではの特殊性なので、とても重要なところだと考えました。
白根:自転車競技としてのケイリンを描くなかでは、久留米や立川のエピソードが入ってくる予定でしたが、この方針により、より伊東たちにフォーカスすることになりました。現役選手たちと、選手のタマゴたちの奮闘を並行で対比させて見せていこうという思惑があったのですが、今となっては、絶対に話数が足りなくなってしまうので、やらなくてよかったなと思っています。というか、本来なら全12話を半分ずつ「養成所編」と「プロ編」にする予定だったのですが、どうしても「養成所編」を語り切るのに1話分足りなかったので、「プロ編」を第8話からのスタートにさせてもらいました(苦笑)。
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――では、養成所を卒業した伊東たちの活躍を描く第8話以降の「プロ編」は、どのような展開になるのでしょうか。
白根:今度は、プロの世界という厳しい現実が伊東たちの前に立ちはだかることになります。競輪選手として、どんな道を歩んでいくことになるのか。第7話で、伊東たちにある目標ができるので、そこに向かって、どのように奮闘していくかというのがストーリーの核となっていきます。
宮澤:「プロ編」では、これまで伊東たちの影に隠れ気味だった弥彦や那古屋たち、それぞれにスポットを当てる、いわゆる“お当番回”が次々と展開されます。
白根:当初からその予定だったので「養成所編」での彼女たちは、少し後ろに引いたポジションにさせてもらいました。
宮澤:伊東と平塚をストーリーの主軸としながらも、各話で周囲のキャラクターの人生を見せていくという狙いです。
白根:そのほかにも数多くの魅力的なキャラクターたちが登場します。……ですが尺の都合上、彼女たちについては描ききれていない部分もあると感じているんです。
鵜飼:アニメ「リンカイ!」は“伊東泉の物語”であるということを明確にしておかないとブレてしまいますから、取捨選択の結果としては仕方ないところすよね……。
白根:そうですね。ただ、やっぱりもったいないなと思うところがあって。アニメ以外の展開でも何らかの形で、各キャラクターにもっと活躍の場を作ってあげたいですね。
――ありがとうございました。座談会後編では「プロ編」についてのお話と、作品全体の総括、今後の展望などをうかがいたいと思います。
「リンカイ!」座談会後編は、6月公開予定。
アニメ「リンカイ!」インタビュー特集
[筆者紹介]
アニメハック編集部(アニメハックヘンシュウブ) 映画.comが運営する、アニメ総合情報サイト。
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