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特集・コラム 2018年12月14日(金)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】世界で2兆円突破も、国内3年連続減少 「アニメ産業レポート2018」を読む

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■産業市場2兆円超え、8年連続成長だが……
 2017年のアニメ業界の動向をまとめた「アニメ産業レポート2018」が、12月に日本動画協会より刊行された。僕もレポート執筆の一部を担当させてもらっているのだが、まとめられた数字を見ることで驚かされることも多い。
 毎年刊行されるレポートの最大の特長は、「アニメ産業市場」と「アニメ業界市場」のふたつの市場規模を算出していること。数字がふたつあってやや分かりにくいが、「アニメ産業市場」は全世界でユーザーが日本アニメに支出した金額、「アニメ業界市場」は国内のアニメ制作会社の売上をまとめたものである。性格がだいぶ違う。

今回の大きな話題は、「アニメ産業市場」の2兆円超えだろう。いくつかのメディアでも取り上げられ話題になった。さらに8年連続の市場成長もある。
 2017年の映画では「名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)」「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」がいずれもシリーズ最高のヒットになり、深夜発のアニメでも「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」が25億円超えを記録した。DVD・ブルーレイでは「君の名は。」「ユーリ!!! on ICE」、音楽では「ラブライブ!サンシャイン!!」など大ヒットが目白押しだ。
 大きな数字と着実な成長、こうした作品はまるで日本のアニメ産業の明るい未来を約束しているかのようだ。

■商品化市場は過去12年で最も低かった
 華やかな数字や作品の一方で、いくつかの別の重要な数字が見落とされている。そうしたサインは、アニメ産業の成長がそれほど確かでないことを示している。
 まずひとつは「アニメ産業市場」。2兆1527億円前年比8パーセントの成長だが、実はこのうち9948億円は海外における市場である。海外の数字は海外でのファンの映像や商品・サービスの購入にあたる。国内では消費されておらず、日本の景気とは距離がある。

そこで国内だけに「アニメ産業市場」を絞ってみるとどうだろうか? アニメ産業市場全体から海外を除外すると次のようになる。

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2013年=1兆1886億円
2014年=1兆3034億円
2015年=1兆2382億円
2016年=1兆2248億円
2017年=1兆1579億円

2014年までは成長を続けているが、2015年以降は3年連続で減少している。つまり、2015年以降、実は国内アニメ産業の成長は止まっている。
 伸び悩んだのは、ビジネス構造転換で岐路に立ち4年連続で減少したビデオパッケージ(DVD、ブルーレイ)、さらに商品化は過去12年間で最も低い数字になった。好調を伝えられる劇場映画も2016年の「君の名は。」の反動による落ち込みを除いても、興行収入は5年間で過去最低だ。いずれもアニメビジネスのなかではよりコアな部分に近い。楽観できないとの印象だ。

■2018年以降の中国動向に注目
 もちろん海外市場の急激な成長は、国内アニメ企業にも恩恵をもたらしている。アニメ制会社が海外企業から受け取る映像販売・ライセンス販売の収入は着実に増えている。
 アニメ制作会社の売上を集計した「アニメ業界市場」は「アニメ産業市場」よりぐっと規模は小さく2412億円だが、2009年の1457億円から成長を続けている。ここでも海外が重要な役割を果たし、海外収入524億円は5年前(2012年)の144億円の3倍以上となった。
 ただしここにも数字のマジックがある。これは業界全体の売上である。海外収入を得られるのは製作出資をし、作品の権利をもつ一部の企業に限られる。作品の権利をもたない多くの制作会社は、成長が止まった国内産業をベースにしている。アニメ制作会社内で売上の二極化が進んでいる可能性が高い。
 さらに今回の調査は2017年のもの。2018年には、頼みの綱である海外の主要市場・中国で当局の規制強化で、日本アニメの購入意欲が衰えている。今後の海外市場の成長は覚束ない。

アニメに限らないが、産業を知るうえで、少し離れて数字を見ることは重要だ。しかし大きな数字だけでは、見落とされてしまうデータも少なくない。
 今回の「アニメ産業レポート2018」では、全体の数字と、より細かな数字のギャップがとりわけ大きかった。数字の重要性と、それだけに振り回されないことの大切さをあらためて感じた。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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