2019年5月18日(土)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】「ベイブレードバースト」がTV放送を止めてYouTubeを選ぶ時代
(C)Hiro Morita, BBBProject
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動画配信のYouTubeが、2019年の日本アニメ業界に大きな衝撃を巻き起こしている。きっかけは、4月からスタートした新作アニメシリーズ「ベイブレードバースト ガチ」だ。
「ベイブレードバースト」は1997年にスタートした「ベイブレード」につながるキッズアニメで、「メタルファイト ベイブレード」を経て、2015年より現在の第3世代「ベイブレードバースト」となった。20年以上の歴史を持つがテレビアニメの放送、雑誌でのコミック連載、そしてタカラトミー(当初はタカラ)から発売する関連玩具といったメディアミックスのビジネス構造は変わらない。
ところが「ベイブレードバースト」第4シーズンとなった最新作「ベイブレードバースト ガチ」は、テレビ放送をしていない。その代わりが動画配信である。
YouTube「タカラトミーチャンネル」やOfficial BEYBLADE Channel、さらに中心となるのが小学館「コロコロコミック」編集部が運営する同じYouTubeの「コロコロチャンネル」。35万人を超える「コロコロチャンネル」の登録者が武器だ。前3作はいずれもテレビ東京系列で平日夕方に全国放送されていたから大きな変更である。
シリーズアニメにとってテレビ放送は長年、必要不可欠だった。それはビジネスの仕組みが異なって見えるコアファン向けの深夜アニメ、日中に放送するキッズ向けアニメ両方に共通する。
テレビ放送の役割は番組の認知度と人気をあげることで、放送自体からの収益は期待しない。深夜アニメでは作品に満足してもらい、DVD・ブルーレイの購入につなげる。キッズアニメはそれが玩具などのキャラクター商品になる。無料で提供され、短期間で多くの視聴者に届けるテレビは他に代えがたいメディアと考えられていた。ところが「ベイブレードバースト ガチ」第1話の視聴再生回数は「コロコロチャンネル」だけで1カ月あまりで100万回を超える。視聴率に換算しても相当な数字だろう。
そこにはYouTubeを積極的に活用するキッズたちの存在がある。インターネットは大人のツールと思いがちだが、最近は小さな子どもこそがYouTubeの熱心な利用者とわかってきた。子どもたちはテレビを見ずにタブレットなどで、自分で好きな番組を探し出す。
「ベイブレードバースト ガチ」は、そこに注目したわけだ。自分たちの視聴ターゲットはテレビでなく、インターネットにいる。さらに配信番組はテレビの放送枠を確保するのに比べてコストを低く抑えられる利点がある。玩具連動型のキッズアニメのメディアミックスに不可欠と思われていたテレビだが、どうも違うらしい。
今後も同様の試みは増えそうだ。実際に同じ4月からスタートした「トランスフォーマー」の新作アニメシリーズ「トランスフォーマー サイバーバース」もテレビ放送はなく、YouTubeの「ボンボンTV」(登録者数180万人)、「タカラトミーチャンネル」などの配信だけである。キッズアニメにおけるテレビの存在感は次第に低下していくのかもしれない。
しかし全てのキッズアニメが配信に置き代われるわけではない。YouTubeの配信プラットフォームとしての役割はNetflixやAmazon Prime Videoとかなり異なる。NetflixやAmazon Prime Videoは独占配信タイトルを筆頭に、製作者に配信ライセンス料を支払う。これが製作者の収入になる。
ところがYouTubeはあくまでもツールで、場所貸しに過ぎない。配信は製作者が自らするから配信権の購入やライセンスの支払いはない。番組にコマーシャルをつければ広告収入はあるが、それはYouTubeと分配するし、アニメーション製作をカバーする金額には十分でない。
YouTubeでの配信に向いた作品はかなり限定的だ。次のような条件をクリアすることが必要となるだろう。
(1)配信自体が収益の中心でないこと
(2)配信がマーチャンダイジングにつながること
(3)関連商品が多く発売されていること
(4)視聴ターゲットが20歳以下、とりわけキッズ層
こうした条件は「Netflixオリジナルアニメ」が、メディアの特長にあった作品を選ぶ傾向があるのと似ている。しかし求められる作品は対照的だ。同じようにNetflixの条件をあげるとこんな感じなるだろうか。
(1)番組自体で完結すること (メディアミックスは必ずしも必要でない)
(2)映像作品として高いクオリティ
(3)視聴ターゲットはヤングアダルトをコアに、それより高い年齢層もカバーする
これはYouTubeとはかなり異なる。そもそも作品そのものにお金を投じないYouTubeと、作品に大きな資金を投じるNetflixは対照的だ。実は両者は異なるセグメントで、ある意味で相互補完関係にある。
近年、アニメビジネスにおける動画配信の躍進が指摘されることが多い。しかしそのかたちは実は多様だ。そのなかでYouTubeは、定額課金見放題サービスとは別のかたちで大きな可能性をもっている。そしてこれまでのテレビ放送のあり方に挑戦をしている。
数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
作品情報
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