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特集・コラム 2022年12月31日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】映画・配信が大活況、2022年アニメ業界10大ニュース

(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

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2022年もいよいよ年の暮れとなったが、今年も毎年恒例のアニメビジネス10大ニュースを挙げてみた。ベスト10ではあるが、こうしたニュースひとつひとつは大きなトレンドのなかで出てきた結果というほうがふさわしい。そこでここではベスト10を挙げると同時に、個別ニュースの解説でなく、22年のアニメ業界の潮流について説明してみたい。

【2022年アニメビジネス10大ニュース】
1、配信会社の大乱戦/ディズニープラス・Amazon Prime Videoの攻勢
2、アニメ劇場興行収入が過去最高/「ONE PIECE FILM RED」大ヒット
3、東映アニメへの不正アクセスで制作中断
4、テレビ局・映画会社のアニメ事業強化
5、NFT/メタバースへの関心
6、米国2大アニメ会社のクランチロールとファニメーションが経営統合
7、ドラゴンボール 北米週末興行1位
8、ジブリパークオープン・宮崎駿新作公開日発表
9、バンダイナムコフィルムワークスの再編
10、マンガ躍進/世界でマンガ売上げ急伸

■テレビ/映像ソフトから配信/劇場興行へ

22年の潮流のひとつは、「アニメを見る場所の変化の加速」だ。かつてアニメ視聴はテレビ放送とDVD・ブルーレイが中心だったが、いまは多くのアニメファンにとっては配信こそが視聴体験の中心だ。
 それは数字にも表れている。「アニメ産業レポート 2022」(日本動画協会)によれば、21年の国内アニメ配信の市場規模は1543億円、前年比で65.6%も伸びた。これは映像ソフト(DVD・ブルーレイ)売上げの2.3倍にもなる。配信は22年にさらに伸びたとみられるが、アニメ映像ソフトの今年の売上げは急減している。両者の差はさらに広がったはずだ。
 テレビでは大ヒットになった「SPY×FAMILY」の午後11時台の平均視聴率が1.8%だったのに対し、タイムシフト視聴率は5.6%だったとテレビ東京が明らかにしている。午後11時台ですら、リアルタイム視聴はいまや圧倒的な少数派なのだ。

配信の拡大は動画プラットフォームのサービス強化も後押しをしている。21年に日本アニメを本格導入したばかりのディズニープラスは独占タイトルの増強とともに、「Project BULLET/BULLET(仮)」でオリジナルアニメシリーズへの進出を明らかにした。Netflixの動きに続くものだ。Amazon Prime Videoも大ヒット映画「呪術廻戦 0」などで独占配信を強化する。配信事業者によるアニメ投資は、いまだ活発だ。
 有力な配信プラットフォームがひしめく日本では、そろそろサービス淘汰に向かうのではと見られていたが、多くが契約数を伸ばしていることもあり、こうした状況はまだしばらく続きそうだ。むしろアニメを中心に定額見放題配信する「DMM TV」が12月にスタートするなど競争はさらに激化している。

■2022年、アニメ映画興行は過去最高の見込み

もうひとつアニメがより見られるようになっているのが、映画館である。22年には「劇場版 呪術廻戦 0」(公開は21年12月24日)や「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」「ONE PIECE FILM RED」「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」と大ヒットが相次いだ。
 12年以降、劇場アニメ興行は一貫して成長傾向だが、22年は過去最高だった19年の692億円を超える見込みだ。テレビや配信にはないライブ体験として、映画はアニメ業界でさらに存在感を増している。
 ただし映画興行にも課題がある。年間約300あるシリーズ作品に対して、長編タイトルは100タイトルに満たない。さらに「ONE PIECE FILM RED」や「呪術廻戦 0」のような興行収入で100億円を大きく超える作品がある一方で、10億円を超える作品は10本余りに過ぎない。儲かる作品とそうでない作品の差は大きい。また映画配給・興行シェアは東宝や東映など一部の映画会社に集中し寡占性が高く、多様な作品の実現という点では心もとない。

配信や劇場興行の成長でテレビの影響が全くなくなるわけでないが、これまでテレビが背負ってきた役割は分け合うことになる。この流れにいちばん敏感なのは、むしろテレビ局自身である。
 昨今、テレビ局のアニメ事業強化は大きなトレンドであったが、それが加速している。テレビ東京は今後3年間で配信とアニメに150億円の投資を表明。TBSはアニメーション制作子会社セブンアークスに25億円を投資する。他局も含めた増加する放送会社のアニメ投資は自局での放送コンテンツというよりも、各種アニメライセンスの他社への販売が主目的になる。
 好調な映画会社でも、東宝はアニメ事業を映画・演劇・不動産に次ぐ第4の柱にすると表明した。アニメ本部の設立、アニメーション制作のTOHO animation STUDIOを子会社化するなど事業の拡張が急ピッチだ。

■海外でも影響力の大きな配信と劇場

配信と映画は海外でもホットトピックだ。北米ではソニーグループのふたつの現地アニメ会社クランチロールとファニメーションが事業統合をした。クランチロールの配信とファニメーションのライセンス・映画配給が連動することで、海外でのアニメファンの日本アニメとの接点を広げている。
 クランチロールの有料会員は1000万人に迫り、劇場興行では「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」が北米で週末興行1位になる快挙を成し遂げた。ここでも変化の中心は配信と劇場だ。視聴体験の広がりは、さらに日本の翻訳マンガやキャラクターフィギュアの売上げ急伸など周辺市場にも波及している。海外における日本アニメの存在感はスパイラル的に上昇している。

■テクノロジーの発展がもたらすもの

22年はテクノロジーでも話題が多かった。ブロックチェーン技術でデジタル上の唯一性を保証するNFTが注目され、様々なサービス・商品が企画された。一部で投機的な動きもあったNFTであったが、現在はブーム後に技術の確かな活用とマーケットが生み出せるかが課題になっている。さらにデジタル上の経験を豊かにする仮想空間メタバースでのアニメの活用も注目されている。
 しかしテクノロジーの発達は、同時にリスクももたらす。外部からの不正アクセスで、業界最大手の東映アニメーションの制作が長期にわたり中断した。制作素材のやりとりや工程管理がサーバーに集中するデジタル化時代の新たなリスクを露わにした。
 そうしたなか手触りの体験を提供する「スタジオジブリパーク」が開園した。デジタル化、CG化が進むアニメ・エンタテインメント業界に、デジタルとアナログのバランスを考えさせるものになった。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

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