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特集・コラム 2026年8月22日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】高層ビルに増えるアニメスタジオ、相次ぐ移転事情

ツインエンジンが移転する新築オフィスビル「中野 M-SQUARE」

ツインエンジンが移転する新築オフィスビル「中野 M-SQUARE」

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2026年8月18日に、アニメ製作会社ツインエンジンが本社移転を発表した。現在の本社は東京都新宿区、山手線の内側にあるが、10月5日付で中野駅前の再開発地区にあるビルへ移転する。グループの主要アニメ制作会社であるスタジオコロリドやスタジオクロマト、くるせるも同じビルに移る。(編注:本コラム末尾のリリースを参照)
 都心からアニメ産業の集積地である東京西部地区の中野への移転という選択には、「なるほど」と頷く人も多いのではないだろうか。一方で、今回の移転でより注目したいのが、移転先が竣工したばかりの大型ビルであることだ。

実は近年、知名度の高いアニメ制作会社が高層の大型ビルに移転するケースが相次いでいる。2021年には、新海誠作品で知られるコミックス・ウェーブ・フィルムが千代田区から荻窪に移転した。同年、バンダイナムコフィルムワークス(旧サンライズ)は、杉並区各所に散らばっていたグループスタジオを集約した。さらに24年には、MAPPA、ufotable、CloverWorksなどが、設備の整った大型ビルに移っている。
 スタッフの手作業や中小企業がイメージされがちなアニメ制作会社と、ピカピカ光るガラス窓に囲まれた高層ビルとでは、印象が異なるかもしれない。しかし、どの会社も、いったんオフィスや制作現場に入ってみれば、そこにはクリエイティブたっぷりの環境が設けられている。ひと昔前のアニメ現場とは、だいぶ様相が異なる。

アニメ制作会社の大型ビルへの入居のトレンドは、なぜ起きたのだろう。もちろん、リリースに書かれているように、機能の集約による効率化やグループ連携もあるだろう。しかし、理由はほかにもありそうだ。
 ひとつは、昨今のアニメ制作チームの大型化だ。ひとつの作品を作るためのアニメーターや制作進行などの人数が増えているだけでなく、スタッフの社員化が進み、スタジオに机をもつ専属契約のスタッフも増えている。そのためのスペースが単純に必要になるだけでなく、デジタル化が進めば、そのための空間も必要になる。そうしたなかで、より広いスペースを持つ大型ビルが選ばれる。

もうひとつは、セキュリティの確保だ。1970年代や80年代であれば、雑誌ライターやファンまでが勝手にスタジオに入りこんだものだった。そこから制作者との交流なども生まれた。
 しかし、現在は、まだ公表されていないプロジェクトの制作情報を守る必要があるし、企画書や制作素材は貴重な財産だ。不審者の侵入や、それによる事件の発生などは、厳重に防がなければならない。近代的なビルのセキュリティシステムの利便は無視できない。

人材確保も大きな理由だろう。アニメ業界の就業環境の劣悪さがしばしばメディアに取りあげられるなかで、大手スタジオを中心に、改善の取り組みが続いている。働く現場にゆとりあるスペースを設けることも、そのひとつである。さらに人材獲得において、最新のビルに設けられたすらっとしたスタジオが、若者たちにアピールするという事情もある。

面白いのは、2010年代ぐらいまで、大手スタジオは大きなビルへの入居ではなく、独立した自社の建物を好んだことだ。大泉学園の東映アニメーション(ただし、オフィス部門は中野のビル内)、トムス・エンタテイメント、Production I.G、ボンズ……。同じアニプレックスグループでも、より歴史のあるA-1 Picturesが独立したスタジオで、CloverWorksがビル入居であることが、業界の変化を感じさせる。

かつてアニメ企業が独立した社屋を建設したのは、スタジオという存在に強いアイデンティティをもっていたからではないだろうか。しかし、土地代も建設費も高騰するなかで、現在は、一棟建てのスタジオは、セキュリティも含めてなかなか手が出せなくなっている。
 何よりも、人員規模がどんどん大きくなるなか、将来必要となる自社のスペースは予測しにくい。自社ビルとなると、どの程度のスペースを確保しておけばいいのかなかなか決められない。後からサテライトスタジオを増やすことになれば、結局、当初目指した効率化や連携から遠のく。
 オフィススペースを拡張でき、必要があれば再移転もできるビルへの入居は、アニメスタジオにとって、いま確かな判断なのである。

編注:ツインエンジン、本社を「中野 M-SQUARE」へ移転
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000149.000032680.html

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

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