2015年9月4日(金)20:00
「攻殻機動隊」25周年リレーインタビュー 映画監督 押井守 前編 素子の胸を小さくした理由
「攻殻機動隊」関係者に制作秘話を聞くリレーインタビュー。第3回は、押井守監督に記念すべき第1作「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」について、今だから話せるエピソードを交えながら語ってもらった。
押井監督が「攻殻機動隊」アニメ化の話を持ちかけられたのは、「機動警察パトレイバー 2 the Movie」の制作が終わり、熱海に建てた家に引っ越したばかりの頃だった。
「家のローンがやばそうだっていうんで、バンダイビジュアルさんに企画書を持ち込んだんです。僕が原作をした漫画『犬狼伝説』を全6巻のビデオで出そうというもので、これは後に『人狼 JIN-ROH』として実現したんですけど。その時に先手を打たれたんです。今でもハッキリ覚えているんだけど、初めて近くの寿司屋に誘われた。いつもは居酒屋なのに明らかに変だなと(笑)。そうしたら机の上に『攻殻機動隊』の漫画をドーンと置かれて、『お金に困っているんでしょう? この作品の監督をやりませんか』と言われて」
押井監督は、すでに漫画を読んでおり、ほぼその場で監督することを承諾。その後、Production I.Gのスキー合宿で石川(光久)社長に現場を作ってほしいと話したと思われるが、押井監督自身は覚えていないそうだ。ただ「I.Gでやるしかない」と考えていたのは確かだったと語る。
「『攻殻』の制作費は、『パト2』よりちょっと安かったんです。もう少し高いかなと思っていたんだけど(笑)。講談社と仕事をするのは初めてだったし、出資元には海外のMANGA ENTERTAINMENTも入っていたから、『パトレイバー』よりも面倒くさくなりそうだなという懸念もあった。だから、現場はI.Gで組むしかないと思ったんです。石川が強力なプロデューサーとして力を発揮してくれるだろうと。また、制作的に真っ先に閃いたのは、『パト2』で成功したレイアウト・システムで、もう一歩先まで作ってみたいということ。『パト2』で知り合ったアニメーターを総動員すれば、かなりのところまでいけるだろうと思っていましたから」
レイアウト・システムは、「機動警察パトレイバー the Movie」から本格的に導入された、押井監督作品の大きな特徴のひとつ。原画作業の前に、各カットの設計図となる背景とキャラクターを専門のスタッフが描き、この時点で徹底的に画面をコントロールする。その後のアニメーション制作に大きな影響を与えた制作システムだ。
「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の世界観の形成には、香港ロケによる美術が大きな役割をはたしている。もうひとつ、作品の売りとして押井監督が考えていたのは、銃器をメインにすることだった。ガンマニアだったアニメーターの磯光雄氏、実写作品で付き合いのあったBIG SHOTの納富貴久男氏らと、作中に登場する銃器の開発を実施。メインスタッフ全員でグアムへ行き、本物の銃を試射することまで行ったそうだ。
「まず本物の銃を全員に体験させてから作業に入らないと駄目かなと。試射場の弾がなくなるぐらい、色んな銃でみんな撃ちまくった。予算的には石川がゴチャゴチャ言っていたけれど、これがよかった。香港ロケではヘリコプターに乗って街をみて、グアムでは鉄砲を撃ちまくったことで、スタッフも『攻殻』で何をやるのか大体わかったと思う。取材の過程で、みんながまとまったっていう効用もあった。そこまでは計算どおりで、これは楽しいことになるぞって思いましたね」
グアムから帰ってから、4週間ほどかけてコンテを執筆。キャラクターデザインもできあがり、いよいよ作画の作業に入ったところで、アニメーター陣から不満の声があがったという。それは「素子の胸が小さい」という声だった。
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