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2017年10月11日 17:19

特集「映画監督 原恵一の世界」に寄せて (2)

●『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2001

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原監督が識者やアニメファンから本格的な注目を集めることにつながり、作家としての自覚を獲得した記念すべき作品である。

『映画クレヨンしんちゃんシリーズ』は1993年からスタートしている。『劇場版名探偵コナンシリーズ』は1997年からなので、それよりもずっと早い。初期の監督はテレビシリーズの初代監督・本郷みつるが担当。これが予想を超える興収20億円台のヒット作続きとなったため、『ドラえもん』同様の「定番興行」となって現在に至っている。

基本設定は、幼稚園児しんちゃんが大人顔負けの活躍をするというものだ。映画では「謎の組織」のような敵役が登場してスケールアップ。しんちゃんがアクションを交えつつ立ち向かうというのが基本ストーリーで、ジャンルムービーのパロディ的な仕立てとなっている。テレビ版ともども二代目監督となった原恵一は第5作『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』から映画版も担当。脚本を兼ねた絵コンテを、スケジュールの都合からクライマックス先行で書き下ろすという独特のスタイルで全6作品を作りあげた。

『オトナ帝国』は原恵一にとって5本目と円熟期の作品で、野心的な挑戦に走った。かつて未来の象徴だった《西暦2001年》に公開されたこともあり、「こんな理想からかけ離れた21世紀の現実はウソだ」と、現代日本への懐疑を敵側に託してぶつけたのである。監督が幼少時の1970年、大阪万国博覧会で体験した「未来へのあこがれ」を導入に、現実を否定する本音を敵側に吐露させた上で、児童の主人公には未来への希望を託す。この批評性が高い評価を受け、また「大人も泣ける映画」として大きな共感を呼んだ。

なによりメイン観客の子どもが画面に集中していたということが、原監督には大きな手応えとなったという。

●『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002年)

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2002

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『オトナ帝国』は興収14.5億円と、3~9作目の間では最高益を出した。その追い風もあって、映画化10周年記念作品となった本作は、さらに原恵一監督らしい挑戦が随所に見受けられる決定版となった。

「しんちゃん映画」としてのサービスを欠かさない一方で、非常に粘り強い描写力あふれる映画で、原恵一の演出力が堪能できる。映像に託してさまざまな言外の意味を伝えるという点では、昭和期までの日本映画が伝統的に継承してきた作法の集大成的なところも楽しめる。特に戦国時代における合戦の手順のみならず、生活描写も取材にもとづく真実味があふれ、時代考証の正確さでは、邦画屈指の作品として高い評価を受けた。

こうしたリアリズムが積み重なることで、しんのすけが出逢う侍の、姫への淡い恋物語が心に迫って涙を誘うという仕掛けである。ラストの悲劇性についても議論を呼んだが、その点もふくめ、上映が終わった後も残り続けるという、実に映画的な魅力あふれるフィルムになった。文化庁メディア芸術祭の他、数々の賞を獲得したのも納得の出来だ。

本作を原作とする実写映画『BALLAD 名もなき恋のうた』(山崎貴監督・2009年公開)が製作されるという点でも、異例の展開となった。これも作家性の証左であろう。本作を最後に原恵一はテレビ、映画とも「クレヨンしんちゃん」のメインから外れ、水島努監督(後にヒット作『ガールズ&パンツァー』『SHIROBAKO』を監督)にバトンタッチすることになる。

●『河童のクゥと夏休み』(2007年)

(C)2007小暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会

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「アニメは子ども向け」という固定観念がある一方、日本では驚くほど児童向けアニメ映画が作られていない。ほとんどが「キャラクターもの」というのが実態なのだ。ことに日本の児童文学を原作に、オリジナリティのつよい映画を……となると、ディズニー、ピクサーに比べて寂しい状況が浮かぶ。

そんな状況に対し、本作はひとつの可能性を提示している。しかも原恵一監督が20年近く企画を練っていた、歯ごたえあふれる映画として注目を集めたのである。

原作は木暮正夫による児童文学「かっぱ大さわぎ」で、数百年前から時代を超えて現代に来た河童と少年の出逢いを描く点では王道と言える設定だ。

江戸時代、父親とともに自然の中で生きていた河童のクゥは、生物として何も間違ったことは言わない。しかし人間側は、河童をともに生きるものではなく、《異物》にしようとする。ことに「河童出現」に対するマスコミの過剰な報道など、現代のひずみ、文明社会への絶望感が浮き彫りになるあたり、原恵一のクールな視線が感じられる。

一方で、少年とその家族と河童との交流も情感豊かに描かれ、「もし知性のある生き物と違いを超えて友だちになれたら」という、確かな希望も伝わる。こうした「絶望と希望の表裏一体」が、本作に深みをあたえている。児童向けアニメ映画に定番のように宿る「夏のイメージ」とともに、心豊かになれる映画である。

●『カラフル』(2010年)

(C)2010 森絵都/「カラフル」製作委員会

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本作は、ガンダムシリーズなどロボットアニメで知られるサンライズの製作である。内田健二社長(当時)が森絵都による人気小説のアニメ化を企画し、最適な作家として原監督を選んだ。オファーは『クゥ』以前からあったが、その終了を待って着手。シンエイ動画を退社し、フリー演出家として再出発した原恵一監督の1作目となった。

「自殺をはかった中学生が転生する」という設定だけとれば、ファンタジー的に聞こえるかもしれない。しかし『エスパー魔美』同様に、便利な魔法的な飛躍は抑制され、終始リアリズムを積み重ねている。

たとえば食事シーンである。テーブルに配膳して、部屋に入ってそこまで歩いていき、椅子を引いて席に座るという、一見自然な動きが、アニメーションではもっとも難しい。記号化表現を主体とするアニメでは「実感」をこめるのに技量と労力が必要で、しかもその努力に気づかれると作為になってしまうという逆説があるからだ。そんなリアル系描写を着実に積み重ね、そこに「当たり前に生きる」という点で大きな意味をもたせている。

それは主人公が「周囲にある生命の彩り」に気づいていくという、物語の基本意図を着実に伝えるためだ。他にも東京郊外の二子玉川など、現実の風景を多用して生活実感を伝えている点でも、本作は独特である。アニメオリジナルの、電車を通じた友情の確立は特に華やかに描かれ、主人公周囲に存在するさまざまな事象に起伏をあたえることで、心の動きを丁寧に描いていく作品である。

●『はじまりのみち』(2013年)

(C)2013「はじまりのみち」製作委員会

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原恵一監督が敬愛する木下惠介監督――その生誕100年記念映画として初の完全オリジナル脚本を書き下ろしたが、自身で監督したいと提案することで、原恵一初の実写映画作品となった。

太平洋戦争中、木下惠介監督は陸軍省の依頼で映画『陸軍』を撮る。その中での「出征を見送る母親の描き方」が問題となり、いったんは辞表を出して監督業から離れようとした。そして病気療養中の母をリヤカーに乗せて、約60kmはあるという疎開先まで人力で運ぶことになった。自分に生命をあたえてくれた母親、その物理的な「重み」を通じて、木下監督は何を想ったのだろうか……。

こうした「母と子の関係性」を象徴する実話をベースにして、監督同士だからこそ描ける心情の機微を追っていく。美しくてシンプルな、しかし力強い作品に仕上がった。劇中では、『二十四の瞳』など木下惠介監督の後の作品に結びつくかのような描写があり、オマージュとサービス精神にあふれた映画である。さらに「映画の役割」に踏み込んだ会話がある点も見逃せない。

原恵一は、常々木下惠介監督の映画の挑戦的な部分を非常に高く評価している。そのシンパシーに基づいて選んだ名場面集も、クライマックスでインサートされる。クリエイターとして共感のもてる価値観を照らし出したという点でも、必見の作品となっている。

●『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』(2015年)

(C)2014-2015杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会

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かつて確かに存在した日本の風景、風俗に真っ正面から取り組んだ作品で、現時点での最新作である。アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門で審査員賞を受賞するなど、世界中で高く評価されている。

江戸の著名な浮世絵師・葛飾北斎とその娘お栄の生きざまを通じて、かつて日本独自の進化を遂げていた独特の文化と価値観を浮き彫りにした作品だ。北斎は、波のとらえ方ひとつ取っても世界的な影響力のある絵師で、日本のアニメ表現のルーツのひとつと言っていい。その波をアニメで動かすなどのサービスが、海外にも伝わりやすかったのだろう。

原作は、原恵一が演出を始めて間もないころ、注目していた杉浦日向子の連作短編漫画『百日紅』である。本来は独立していた短編を、ひとつの流れをもった映画になるよう再構築していて、原恵一ならではの「構成力」がみどころになっている。「日本の四季」を織り込んで描写を進めているところや、江戸の大火なども大きな特徴だ。

和の感覚が結実した「美意識」が、「浮世絵」という消費目的の大衆アートに結晶する。そこに介在する人の心の動きや、絵画の「手ワザ」をいかに極めていくのか。職人として孤高の地位にある絵師・北斎と、その娘という呪縛をどう処するか葛藤するお栄。その内面の変化と情緒豊かな風景の推移で、ある時代確実に存在した「生きざま」が、アニメという「絵の芸術」に結晶化する。

アニメーションという芸術と、江戸時代における浮世絵には共通性が多く見いだせるとも言われている。風景ごと絵に生命が宿っていく感覚や、大衆芸能の中で消費される文化という点が似ているのだ。そうした観点もふくめて、意義深い映像化と言えるだろう。

●まとめ

以上述べてきたように、原恵一監督のどの作品にも“いまの日本”とは別の角度から“日本人という存在”を見つめ直そうという気概のある姿勢があふれている。それはある種、現実に対する「異議申し立て」でもあるかもしれない。芸術の本質は「真善美」であるとされているが、日本の現実はそれから遠ざかるばかりだ。

本来、日本の商業アニメも「キャラクター中心」「ご商売優先」で、「真善美」からはほど遠い。「それでも抗おうとする気概」に作家性が宿るということは、どの作品にも共通して見いだせることであろう。

今回、原監督の作品を一挙上映することにより、束縛から自由でクールな視線で描かれた「日本という国」「日本人の心」が、浮き彫りになるに違いない。東京国際映画祭というグローバルな場で、日本を代表する映画監督・原恵一監督の魅力を隅々まで味わってほしい。気になる「次回作」についても、すでに記者会見で監督から「チラ見せ」が始まっている。原恵一監督の今後の挑戦に、期待は高まる一方だ。

イベント情報・チケット情報

映画監督 原 恵一の世界 「エスパー魔美 星空のダンシングドール」 第30回東京国際映画祭 (TIFF) Check-in1
開催日
2017年10月29日(日)
時間
21:00開始
場所
TOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都)

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