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特集・コラム 2020年9月5日(土)19:00

【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第19回 「鬼滅の刃」竈門炭治郎

(C) 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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竈門炭治郎は、炭焼きの一家に生まれた長男だ。父を亡くした竈門家の大黒柱として一家を支えていた。貧しくはあるが幸せな時間がそこにはあった。しかしある日、鬼によって家族は惨殺され、唯一生き残った妹・禰豆子は鬼となってしまう。炭治郎は、禰豆子を人間に戻し、家族の仇を打つため、鬼を討伐するための組織「鬼殺隊」の一員となる。これが現在大ヒット中の「鬼滅の刃」の導入部分である。
 2019年に原作の7巻までがテレビアニメ化され、今年10月には続きの「無限列車編」が劇場公開されることが決まっている。
 普通の鬼とは異なり、人を襲わず、炭治郎の味方となる禰豆子。炭治郎は、禰豆子が入った木箱を背負い移動をする。この「大きな箱を背負っている」というビジュアルが端的に炭治郎という主人公を表している。
 鬼に家族を殺されたという現実。妹が鬼になってしまったという現実。この動かしがたい不条理な現実を“背負わされた”ことで、炭治郎は特別な人生を歩まざるを得なくなってしまった。もしこんなことが起きなかったら、彼は平凡な炭焼きとして生涯を全うしていたに違いない。
 ここで大事なのは炭治郎は、この“背負わされた”現実を、受け身のまま甘受しているのではない、ということだ。確かに鬼によって炭治郎は不条理な現実を“背負わされた”。だが炭治郎は、その一方的な不条理を、自発的に“背負っていく”ものとして受け止め直しているのである。禰豆子を収めた木箱を背負うという行為は、炭治郎のこの不条理への対峙の仕方を象徴するものなのだ。
 不条理を甘受しただけでは主人公たり得ない。その不条理を我が事として背負い込んでこそ主人公足り得るのである。炭治郎は、そういう形で物語の中心に立っている。
 炭治郎のこうした姿勢は、おそらく昔から変わっていないのだろう。早くに父を亡くしたということは、炭治郎にとって不条理な現実であったはずだ。それによって家族の生活は炭治郎の双肩に一気にのしかかることになった。だが炭治郎は、そこで「家族を背負わされた」のではなく自分の意志で「家族を背負う」と決めたに違いない。物語の冒頭に登場する竈門一家は、貧しくとも幸せそうなのは、それが炭治郎の意志で選び取ったものだからだ。そういう意味で炭治郎は、なにも変わっていないのである。そしてこの変わらなさは「自分は長男だから」と思っている、炭治郎の生真面目さと結びついているのだ。
 原作は完結したが、アニメはまだ物語の半ばにも到達していない。炭治郎が選び取った「背負う」人生がどのようにアニメ化されていくか、楽しみはまだ続く。

藤津 亮太

藤津亮太の「新・主人公の条件」

[筆者紹介]
藤津 亮太(フジツ リョウタ)
1968年生まれ。アニメ評論家。2000年よりWEB、雑誌、Blu-rayブックレットなどで執筆するほか、カルチャーセンターなどで講座も行っている。また月1回の配信「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)も行っている。主な著書に「チャンネルはいつもアニメ」(NTT出版)、「声優語」(一迅社)、「アニメ研究入門【応用編】」(共著、現代書館)などがある。東京工芸大学非常勤講師。

作品情報

鬼滅の刃

鬼滅の刃 132

血風剣戟冒険譚、開幕。舞台は、大正日本。炭を売る心優しき少年・炭治郎の日常は、家族を鬼に皆殺しにされたことで一変した。唯一生き残ったが凶暴な鬼に変異した妹・禰豆子を元に戻す為、また家族を殺した鬼...

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