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特集・コラム 2022年5月28日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】成長するアニメ市場でのスタジオとスタッフの生存戦略

「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」(6月11日公開)

「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」(6月11日公開)

(C) バード・スタジオ/集英社 (C) 「2022 ドラゴンボール超」製作委員会

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好調続く大手アニメ会社の業績

この5月に上場企業各社の3月期末決算が発表された。2021年4月から22年3月までの1年間の業績をまとめたものである。このタイミングで直近のビジネス面での動向が明らかになるアニメ関係会社も多いが、新型コロナ禍での対応も進むなかで、各社のアニメ関連事業の業績はおおむね好調だ。
 テレビ東京や東宝といった大手企業のアニメ事業部門は過去最高の売上げを更新しているし、ソニーグループ、バンダイナムコグループのアニメ事業部門も高い利益を維持している。
 なかでも驚いたのは、東映アニメーションの業績だ。アニメーション専業の会社としては国内最大、「ドラゴンボール」や「ワンピース」、「プリキュア」などの人気作を長年制作し続ける。直近1年の売上高570億円は過去最高、会社の黒字額を示す当期純利益も年間128億円とこちらも過去最高を更新した。さらに今期(22年4月~23年3月)の売上げは700億円を予想する。東映アニメーションが株式上場した00年には売上高が100億円以下だったことを思い出せば、その成長ぶりには隔世の感がある。

製作出資とライセンスビジネスで自立する制作会社

東映アニメーションの成長理由のひとつに版権事業がある。ほとんどの作品で制作費を自らが出資し、番組販売はもちろん、配信権、商品化権、海外窓口などを一手に引き受ける。作品から派生する二次展開ビジネスの収入と利益が東映アニメーションのものとなる。
 そうした利益は新スタジオ建設や新人教育、スタッフの社員化など、制作基盤強化にも回っている。アニメーション制作会社の成功モデルと言っていいだろう。こうした構造は「ガンダム」シリーズや「ラブライブ!」シリーズが好調なバンダイナムコフィルムワークス(旧サンライズ)など、業績好調な制作会社に共通する。

大手制作会社の制作費出資・権利ビジネスといった製作進出の成果から、制作会社の維持・成長には「アニメーション制作と同時に自ら出資し、映像やキャラクター運用で利益を確保すべき」といった主張はしばしば聞かれる。それが制作スタッフの豊かさにもつながるというわけだ。たとえば先ごろリリースされたみずほ銀行 産業調査部の業界レポート「コンテンツ産業の展望 2022 ~日本企業の勝ち筋~」では、「今こそ単純な下請けとしての『アニメーション制作会社』ではなく、自ら企画・プロデュースからコンテンツの権利保有までトータルで手掛ける『アニメーション製作会社』に転換すべき」と言及されている。
 国内に限らずディズニーをはじめとする世界のコンテンツ業界の有力企業の利益は、ライセンス事業が柱だ。アニメーション制作スタジオが豊かになる解決策のひとつが「製作」進出であることは間違いない。

ヒット作がでた場合の成功報酬は万全でない

こうした主張は合理的な理由がある一方で、盲点もある。日本動画協会の調べによれば、国内のアニメーション制作会社は800社以上、そのうちアニメーション制作を統合的に制作する元請け会社は100社を超える程度だ。逆に言えば残りの600社以上はアニメーション全体の制作の一部を請ける二次請け、三次請けだ。作画だけ、背景美術だけ、仕上げだけといった専門スタジオも多い。こうした制作会社が作品へ製作出資し利益を稼ぎ出すのは、必ずしも現実的でない。
 1クール(3カ月)で数億円といわれる制作費の出資のハードルは中小スタジオにはハードルが高いだけでなく、ビジネスとしてもリスクが高い。元請け会社でも制作タイトルが1年に数本だと、そこからライセンスで収益がでるヒットをコンスタントに生み出すのは大変だ。作品がヒットしても、ライセンス運用をする人件費をはじめとする経費だけで利益を上回ってしまう可能もある。

作品がヒットしたときに制作会社の利益を増やす別のアイディアに、制作に参加したスタッフやスタジオに追加報酬を支払うといったものもある。実際に一部の有力スタジオでは、制作受注時にこうした契約を結ぶこともある。
 ただこれもスタッフ全体への配分を考えるときには万能でない。まず報酬を得られるスタッフの範囲を決めるのが難しい。追加報酬を受けられるのは、監督、作画監督、脚本といった主要スタッフだろうか? 美術や撮影、録音、音楽は? 動画担当者や仕上げ担当者は?
 関係者が増えるほど、各スタッフの作品ヒットへの貢献度は判定が難しい。さらにアニメ業界はフリーランスのスタッフが多いので膨大な事務手続きは利益を食いつぶす。
 ヒットしたさいの追加報酬のための合理的な仕組みづくりは今後必要だが、現状では十分な効果を発揮しにくい。

制作スタッフの就業条件の底上げで大事なこと

ではより多くのスタッフが安定した生活基盤を築き、金銭的にも精神面でも余裕をもって制作参加できるベストな方法はどこにあるのだろう。
 現在いちばん確実な利益分配は、複雑な仕組みでなく、実はひとつひとつの作品の制作予算を増やし、そのなかでの当初の報酬金額を増額することでないだろうか。シンプル過ぎるようにみえるが、まず制作に参加することで誰もが生活を維持できることが重要なのだ。多くのスタッフにとっては、ヒット作に参加できるかどうかも、ある程度は運に左右されることも理由だ。ヒット作に依存しすぎるのは実は不安定である。

近年はアニメビジネスが急速に国際化し、配信企業をはじめ大手企業の製作参入が増えている。アニメーション制作費は上昇傾向にあり、就業条件や賃金も改善傾向だとされる。
 しかしこうしたトレンドもまだまだ大手制作会社にとどまりがちで、社員スタッフとフリーランスの待遇の差も大きい。同じような仕事をしながら待遇の二極分化が進んでいる。こうした状況も含めて、業界全体での制作会社とスタッフへの当初制作段階での報酬の底上げが、いちばん求められているように思える。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

ドラゴンボール超 スーパーヒーロー

ドラゴンボール超 スーパーヒーロー 1

かつて、孫悟空により壊滅した悪の組織<レッドリボン軍>。その意志を継いだ者たちが、新たに最強の人造人間・ガンマ1号、2号を生みだした。彼らは自らを「スーパーヒーロー」と名乗り、ピッコロ、悟飯らを...

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