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特集・コラム 2019年10月24日(木)20:00

第32回東京国際映画祭「ジャパニーズ・アニメーション部門」のご紹介

文:氷川竜介(東京国際映画祭プログラミング・アドバイザー/明治大学大学院特任教授)

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●はじめに

第32回東京国際映画祭では、これまでの「アニメーション特集」を「ジャパニーズ・アニメーション部門」へと拡大することになりました。今年は「THE EVOLUTION OF JAPANESE ANIMATION/VFX」と題して作品数を大幅に増やし、日本のアニメーションとVFX(特撮)の約60年にわたる進化と到達点を、多角的な視点で立体的に総覧します。同時にレクチャーやシンポジウムを交え、文化的な特徴を世界に紹介する場としていきます。
 氷川は「庵野秀明の世界」(14)から東京国際映画祭に関わり続け、今年が6年目となりました。「ガンダムとその世界」(15)から作品選定と構成、ゲスト選出などで協力。「映画監督 細田守の世界」(16)以後は「プログラミング・アドバイザー」という肩書きで、オープニングセレモニーのレッドカーペットにも参加しています。「映画監督 原 恵一の世界」(17)「アニメーション監督 湯浅政明の世界」(18)と続く特集上映は、「レトロスペクティヴ」とも呼ばれる回顧上映で、作家に絞りこむコンセプトでした。
 留意してきたのは、「日本アニメ文化の特質」「国際的な視野」「映画としてのアピール」などで、相談のうえで短編やオープニングフィルム、テレビシリーズを適宜組み入れてきたのは、そのためです。上映には諸権利のクリアやデジタル上映可能なマスターがあるか等、さまざまな条件があります。過去も、それらを加味したうえでベストを尽くしたラインナップにできたかと自負しています。
 今年も、その基本姿勢を踏襲しました。「世界で特別」と言われることの多いジャパニーズ・アニメーション――ではその「特別」は具体的に何を意味するのか? 共通して流れている「映画にしたいという想い」とは何か? それを実作を通じ、海外から訪れる映画人、マスコミに伝えて世界へ発信することを重視しています。
 クリエイターや人気シリーズに焦点を絞る方向性ではなく、VFX(特撮)がテレビに拡大する契機になった「ウルトラQ」の4K上映を交えつつ、「歴史の重要変化点」を探り出して「日本のアニメーション/VFX文化の全体像」を探ることを、大きな方向性としています。
 まず、全体は以下の3部構成となっています。
(1)日本アニメ映画マスタークラス
(2)日本アニメ映画の到達点
(3)日本VFXの革新と拡張
 全体の位置づけは、表をご参照ください

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●選定・構成の考え方

基本的な考え方は「過去・現在・未来」の3点セットで、「現在から未来」に比重を置きました。2016年の新海誠監督作品「君の名は。」の大ヒットから3年目の今年、「アニメ映画観客の拡大」が生まれた結果、さまざまなタイプの、しかも前例がないような作品が続々とリリースされています。その多様性と表現の特異性を実感し、未来を展望していただくため、(2)では約1年以内に公開された5作品を選出しました(各作品は後述)。
 1966年の「ウルトラQ」では、「怪獣ブームを巻き起こした」「同年続いて変身巨大ヒーロー『ウルトラマン』へ発展」という2点を重視しています。ここから「仮面ライダー」などの等身大変身ヒーロー、「マジンガーZ」や「機動戦士ガンダム」などの巨大ロボットアニメという進化形態が生まれました。近年の「プリキュア」シリーズも「毎週、怪物が出現して必殺技で倒す」というフォーマットの源流は、ここに行き着きます。
 このように「歴史の変化点」を考える行為は、「当たり前になったことを始めた原点は何か」を探ることです。たとえば思考実験的に年表から「ある作品」を消したとたん、驚くべき量の後続作品が消失してしまうようなものが「変化点」なのです。
 他にもさまざまな討議を経て、(1)の「日本アニメ映画マスタークラス」では「日本のアニメ史の最重要変化点」として「3本の映画」に絞りこむことにしました。異論は承知のうえです。日頃、後進へ歴史を伝える仕事をする中でも、「情報量が多すぎると把握できない」という問題を感じましたので、思いきって「どこまで削れるか」というチャレンジをすることにしたのです。結果として最新5作まで含めれば、「日本製アニメの特質」はかなりカバーできることも分かりました。
 たとえば「魔法少女もの」の要素は「天気の子」と「若おかみは小学生!」に入っていますし「ロボットアニメ」的な魅力は「プロメア」が伝えてくれます。その点でも「到達点」として、なかなか巧みなラインナップになっていると思います。学生はワンコイン(500円)で鑑賞可能なので、ぜひコンプリートしてみてください。
 では以下、各パートに分けて紹介をしていきます。

●日本アニメ映画マスタークラス

日本初のカラー長篇アニメ映画「白蛇伝」(1958)、「エースをねらえ! 劇場版」(1979)、「AKIRA」(1988)を上映。展示とシンポジウムで、歴史の重要変化点を掘り下げます。

日本のアニメーション文化は映画興行と寄り添いながら、表現・内容ともに大きく進化していきました。その進化の道筋で、最大級の変化点を3本の映画上映でピックアップ。レクチャー、シンポジウムでその意味づけを補強します。
 この「3本」については、まず「原点」を考えました。映画の分野では東映動画(現:東映アニメーション)の「白蛇伝」(58)、テレビの分野では虫プロダクションの「鉄腕アトム」(63)が起点で、以後は「東映動画・虫プロ」という個性の異なる2大潮流が歴史を作っていきます。東映動画はディズニーに連なる自然主義的「フルアニメーション」で、虫プロは「リミテッドアニメーション」を援用した省力化技法を開発、そしてトメ絵やカメラワーク、撮影技法を駆使した表現主義的な方向性を獲得します。対立したり合流したりする振れ幅の中で、多様な作品が生まれたわけです。
 ただし「鉄腕アトム」は「テレビシリーズ」ですから、「虫プロの流れ」で「映画としての要素」が濃いものを見つける必要がありました。もうひとつ、「アトム」に端を発して拡大したアニメの隆盛が収穫期を迎える「1979年」がちょうど「40周年」ですから、特筆したいと考えたのです。その結果、出崎統監督の劇場版「エースをねらえ!」を選ぶことが結論になりました。その詳細は「氷川教授のアニメに歴史あり!」第20回 をご参照ください。
 3本目は、この両者に回収されない作品で、しかも「1990年代、アニメが海外のクリエイター、研究者から評価されるようになった」という変化の代表作を模索しました。「サイバー的題材」「リアル系」「映像の緻密さ」などの観点で、押井守監督の「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(95)も検討しましたが、むしろ漫画のニューウェーブをアニメに導入した大友克洋監督の「AKIRA」が源流であろうと考えたのです。設定年(東京オリンピックを控えた西暦2019年)が今年と合致したワンチャンスであること、そして昭和末期の超大作であるのも、妥当性を高めます。

では以下、作品別に紹介します。

○「白蛇伝」(1958年/東映動画(東映アニメーション)/藪下泰司監督)79分
 本格的なフルアニメーション技法を駆使して作られた初の総天然色長篇漫画映画。「動物が会話する」「ミュージカル的展開がある」など「東洋のディズニー」を目標とし、国際市場を念頭において中国の説話をアレンジ。人材的にも後の発展の基礎となりました。NHK連続テレビ小説「なつぞら」のヒントをあたえたという点も、タイミングが良いです。4Kリマスターによる上映。
上映日 11月1日午後5時40分~ スクリーン3 上映後トークあり(登壇者は公式サイト参照)

○劇場版「エースをねらえ!」(1979年/東京ムービー新社(トムスエンタテインメント)/出崎統監督/原作:山本鈴美香)88分
 テレビ時代のリミテッドアニメ技法でありながら、むしろそれを武器に映画的センスを高めた記念碑的作品です。省力化から始まった表現技法は、虫プロダクションに集まった先鋭的なクリエイターにより日本独自の演出スタイルに高まりました。カメラワークの反復、透過光・入射光など撮影表現の多用、画面分割などを駆使し、「映画らしさ」の真髄に自覚的に迫っています。
上映日 11月2日午後8時10分~ スクリーン3 上映後トークなし

○「AKIRA」(1988年/AKIRA製作委員会(東京ムービー新社(トムスエンタテインメント))/大友克洋原作・監督)124分
 緻密な描写や未来的ビジョンで漫画の世界に革命を起こした大友克洋自身が監督となり、アニメ映画化。東京湾上に作られた未来都市「NEO TOKYO」の緻密な背景美術、人物描写の解剖学的正確性、実写的なカメラワークの探求など、正確さと密度感で「リアルの基準」を更新し、海外の映像にも大きな影響をあたえました。時代設定は「東京オリンピックを翌年に控えた西暦2019年」で、その予見性も話題になっています。
上映日 11月1日午後2時~ EXシアター 上映後トークあり(登壇者は公式サイト参照)

○シンポジウム
 以下の2部構成です。
テーマ:アニメ映画史、最重要変化点を語る
第1部 レクチャー(60分) 11月2日午後1時30分~午後2時30分
登壇者:氷川竜介(明治大学大学院特任教授)、原口正宏(リスト制作委員会)
第2部 ディスカッション(90分) 同午後2時45分~午後4時15分
登壇者:氷川竜介(明治大学大学院特任教授)、原口正宏(リスト制作委員会)、桜 稲垣早希(吉本興業アニメ部)

◯企画展示
 シンポジウム会場の六本木アカデミーヒルズ49階では、エントランス・ショーケースにて「日本アニメ映画史の変化点」と題した企画展示を行います。「白蛇伝」、劇場版「エースをねらえ!」、「AKIRA」の3作品の制作資料を展示し、制作プロセスで宿った作り手の熱気や思いをフィルムとは違う姿で見ることができます。

アニメハック編集部

第32回東京国際映画祭(TIFF2019)公式アニメ特集

[筆者紹介]
アニメハック編集部(アニメハック編集部)
映画.comが運営する、アニメ総合情報サイト。

イベント情報・チケット情報

第32回東京国際映画祭 (TIFF) 2
開催日
2019年10月28日(月)
場所
六本木ヒルズ、EXシアター六本木 他(東京都)

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