2015年7月14日(火)23:03
声優業界の舞台裏を描く「それが声優!」主演声優ユニット・イヤホンズインタビュー アフレコ編 (2)
――みなさんが本作で演じるのは、声優さんの役なので“役が演じる、劇中劇の役”という入れ子構造が発生するんですね。やはり難しいところがありますか?
高橋:双葉は私の地声にとても近いトーンなので、私の(やりやすい)幅の中で演じられることが多いんですが、ふたりはどう?
長久:第1話では、鈴ちゃんが演じるオペレーターの声がちゃんと“お姉さん”の声になっていて、演じ分けがすごいなあって思いました。
高野:とっても難しかったんですよ。鈴ちゃんがオペレーターを演じるときに、どれくらい声を上げたり下げたりするのか、どんな迫力を出すのか、といった鈴ちゃんの声優さんとしての振り幅を、私の中で作らないといけないので……。私自身の、まだ短い声優人生から、鈴ちゃんも「自分とまったく同じ演技はしないはず」と考えて、オペレーターはカッコよく演じさせていただきました。
長久:いちごちゃんは、役を演じる前から“いちごちゃん”というキャラクターを作っている女の子なので……。
高橋:今は“いちご姫”なのか、それはいったん置いておいて声優として演じるのか、といったことをいちごちゃん本人も常に確認しながらお仕事に臨んでいる感じだよね。
長久:なので、すごく難しいですね。第1話では、いちごちゃんが音響監督さんから「もっと巨乳の声で」と、抽象的なダメ出しをされるシーンがあるんです。そこで、まずは私自身が、そういったオーダーをされたら、いったいどうするのか、ということを考えました。「私なら、色気のある息の抜き方をするかな」と思ったんですが、でも、それだといちごちゃんからかけ離れてしまうような気がしたんです。最終的には、考えていたことをバッサリと捨てて“アタフタしつつ、一生懸命がんばるいちごちゃん”を演じました。先輩から「役作りは事前にしっかりしておく。でも、本番ではそれをすべて捨てて、ほかの声優さんのお芝居に応じて演じなさい」と教わっていたので、それにならうしかない! と。いちごちゃんは新人なので、ちょっとヘタでも大丈夫と考えて、素直なお芝居を心がけました(笑)。
――「巨乳の声で」ですか!? ちょっと悩んでしまいますね。そういった、演技への抽象的な指示は実際によくあるんですか?
高橋:ありますあります! 音響監督さんによって、指示のしかたがぜんぜん違うんですよ。音の高低やスピード感で指示を出す方もいらっしゃいますし、キャラクターの心情から入る方もいらっしゃいます。音響監督さんと役者さんのフィーリングが合っていると、とてもいい演技が引き出されるんですが、そうでない場合は、指示の解釈のすり合わせが必要になりますね。
高野:私は、元気で明るくて、表情もコロコロ変わる幼女の役どころで、真剣なシーンで「先生っぽく演じてください」という要望をいただいたことがあります。「幼女なのに先生?」ってとても悩みましたね。ひとくちに先生と言っても、どういう先生を思い浮かべるかは、人によってまったく違うので、もっと洞察力が必要だな、と痛感させられたできごとでした。
長久:私は、ラジオCMで「ハーゲンダッツの柴咲コウさんみたいにお願いします」と言われたことがありますね。イメージはとてもわかりやすかったんですが、モノマネにならないように、手探りで演じました。あとで聞いたところ「大人っぽいけどお茶目な感じ」が必要とされていたようです。
高橋:アニメ以外のCM収録では、イメージソースとなる俳優さんの名前を具体的に提示されることが多いですね。
高野:「エレキテル連合さんみたいに」と言われたこともありますよ(笑)。「ダメよダメダメ!」に近いイントネーションが求められました。オーダーには、世間の流行が反映されることもあるみたいなので、しっかり追いかけなければならないなと思いましたね(笑)。
――今後、アニメでも原作でも“こんな声優あるあるネタを入れてもらいたい”という、希望はありますか?
高橋:私は“養成所あるある”ですね! 声優事務所の養成所出身の子と、専門学校の子とではかなり雰囲気が違うんです。私は養成所の方に1年間通っていたんですが、そこはとっても体育会系で……。そのノリで現場に行ったら、音響監督さんから「そんなにダメ出しを求めるような顔しなくていいよ」と言われてしまいました。養成所に通っている子は、欲しがりさんが多くなってしまうんでしょうか(笑)。
長久:「身長が低い子は、厚底の靴を履いてマイクとの高さを調節する」というのは原作でも使われているネタで、実際に(「ばらかもん」の山村美和役で知られる)古木のぞみさんが、わざわざ靴をはき替えてアフレコに臨まれているのを見たことがあります。
でも、私の場合は逆に背が高くて、高い靴をはくと大変なことになっちゃう(苦笑)。それに、地に足をつけていたいという思いもあるので、靴を脱いで収録させてもらっています。……というような“背の高い声優さんあるある”を、ぜひ入れていただきたいですね(笑)。この業界は、いつもちっちゃい子がクローズアップされるので、たまには、でっかい子もフィーチャーしてもらいたいです!
高野:女性が多い現場では、マイクの高さが低くなっているので、背の高い声優さんが腰を下げて高さを合わせている光景はよく見かけますね。たしかに“声優あるある”(笑)。
私はファミレスでの“あるある”ですね。みんなでご飯を食べに行って、店員さんを呼ぶときに私が「すいません!」って言うと、周囲の視線が集まっちゃうんです。それがとても恥ずかしいんですよ。友達に頼んで店員さんを呼んでもらう、ということもできますが、業界の集まりだとそれもできないので……(苦笑)。
高橋:それ、めっちゃ“あるある”だよ! 音量調節が難しいんだよね。なので、私は目線と手だけで店員さんを呼ぶ、という方法を編み出しました(笑)。
高野:たとえば、水田わさびさんは、みんなが知っているドラえもんを演じていらっしゃるので、絶対にみんなが振り向きますよね。普段どうしていらっしゃるんでしょう(笑)。
――本作の原作漫画を読んで、これからの声優生活に役立てられるなと思ったことや、感銘をうけたことはありますか?
高橋:双葉だけぜんぜんお仕事がなくて、とても不安になってしまうエピソードがあるんです。先輩からの「自分は自分のペースでいいんだよ」という言葉で持ち直すんですが、それを読んだのが、私自身もまったくお仕事が決まらない時期だったんですよ。とても心が救われた思いがしましたね。あさのさんが取材した、諸先輩の言葉が、そのまま劇中で使われているので、すごく心の支えになりました。
高野:双葉が落ち込んで「もうこの仕事できない」って弱音を吐くシーンがあるんですが、そこで先輩声優の汐留(ヒカリ)さんが、双葉に「お客さんはそんなあなたが見たいんじゃない。私たちは夢を見せる側だから、私たちが夢を見てはいけない」ということを言うんですね。このセリフには、とても感銘を受けました。私たちだけが夢を見すぎていても、それがみんなに届いているかはわからない。みんなに夢を届けるという想いをもって、周囲からどう見られているのかを考えなくてはいけないんだ、ということを意識させられました。
長久:私たちはイヤホンズとして3人で活動させていただいていますが、劇中で、いちごちゃんたちもイヤホンズとしてユニットを結成します。でも、なかなかみんな集まってのダンス練習の機会が設けられない、というシーンがあるんです。実際に、私たちも時間のない中で合間合間を縫って、練習をすることになりましたね(笑)。双葉はダンスに苦手意識を持っている子なんですが、それでもがんばる双葉の姿に自分を重ねて、とても励まされました。
原作では、ほかにも、私自身がまだ経験していない外画(洋画)やゲームのお仕事についても描かれているので、事前の心構えができますね。
また、マネージャーさんの苦労も、原作から知ることができました。先日、イヤホンズのファーストライブのときに、歯ブラシを忘れてしまったんですが、マネージャーさんが持参していた新品を渡してくれたんです。役者のために、普段からとても細かな心配りをしてくださっているんだ、ということが身をもって体験できましたね。私たちを陰ながら支えてくれるマネージャーさんたちのためにも、もっとがんばらなければと思いを新たにしました。
――では、最後に本作の見どころと、ファンのみなさんへのメッセージをいただけますでしょうか?
高橋:「それが声優!」は、とってもかわいらしい絵柄で、本格的に声優業界の実態を描いた作品です。かわいい女の子たちががんばる姿を楽しむキャラクターの魅力だけでなく、厳しい現実も描くお仕事ものとしても楽しんでいただきたいですね。それができる二面性を持っていると思います。
長久:第1話は双葉が初めてアフレコ現場に行くお話で、あいさつをはじめ、現場の空気感が伝わる内容になっていますので、そのドキドキ感を味わってください。第2話はオーディションのお話。声優の舞台裏が次々と描かれていきますので、声優が好きな人だけでなく「声優になりたいな」と思っている学生さんなどにもぜひ見ていただきたいですね。双葉、いちご、鈴3人の成長はもちろん、彼女たちを演じている私たちの成長も作品を通じて見せていければ、と思っています。
高野:本作は、キラキラしたお話ではなく、ほぼノンフィクションだと思います。あさのさんご自身や、諸先輩方の経験が詰め込まれているので、とてもリアルです。
普通のお話なら“新人声優としたデビューした主人公に次々とお仕事が舞い込み、大変な中でもがんばる”という筋書きになるんだと思いますが、この作品は違います。お仕事のない双葉ちゃんがいて、さらに貧乏ないちごちゃんがいて、鈴ちゃんは実家ぐらしだけど受験生で……。悩みいっぱいの3人が苦悩しながらもがんばっていくので、キレイなだけではない声優の裏側が垣間見られると思います。落ち込んじゃうシーンもあるけど、それも私たちの日常なんですよね。
高橋:本作を見て、それでも声優になりたいっていう方は、ある程度覚悟してきてくれると思います(笑)。
高野:第1話、第2話には「うまくいくことばかりじゃない声優業界の中で、がんばって生きていくんだ」っていう、出発の決意も込められていますので、まずは初回放送をごらんいただきたいです!
――ありがとうございました! 次回は、本作の主題歌を歌う声優ユニット・イヤホンズとしてのみなさんの活動について、お話をうかがいます。
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