2015年9月4日（金）20:00

「攻殻機動隊」25周年リレーインタビュー映画監督押井守前編素子の胸を小さくした理由 (2)

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「素子の胸を小さくすることは、最初から考えていたんです。士郎さんの描く女の子は胸が大きいのが特徴でしたが、どう考えてもあの胸では銃が構えられないなと。銃器を日常的に扱うには首も太くしないと変だし、肩幅も当然あるだろう。そうしないと作画的にも動かすのが大変ですしね。銃をもつのならサイボーグといえどもいい体をしているはずだろうから、マッチョな感じでいこうと。キャラクターデザインの沖浦（啓之）と相談して、向こうのマッチョな女性の写真集を集めたりながら、デザインしていきました。その過程で胸を削ったんだけど、ほんとはもっと削りたかった。あれでもちょっと妥協したんです」

アニメーターには「筋骨で体を描いてほしい」という要望もだしたという。

「作品にはサイバーパンクやSFの要素もあるけれど、僕の中では体をテーマにしようと思った。体が重かったり、自分で自分の身体を壊してしまったりするような世界観ですね。だから、キャラクターも骨格がすけてみえて、筋肉の動きまで描けっていう話をして、その試みは成功したんです。大したアニメーターが集まりましたからね。相当レベルの高いアニメーターでないと、あの身体表現はできない。原画は苦しかったはず。ただ、制作期間は意外と短くて10カ月ぐらいでした。レイアウトをこってりやったので、作画期間自体は3カ月なかったと思います。これはレイアウト・システムの威力でしょうね。レイアウトの時点で作業の指針をだしてしまうから、無駄な作業を一切させない。それがよかったんじゃないですかね」

「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のエポックのひとつは、川井憲次氏による音楽。押井監督も「川井君の音楽は素晴らしかった」と語る。

「川井君は、それまでも結構なことをやってくれていたんだけど、『攻殻』の音楽にはちょっと驚いた。これは凄いぞってね。決め手となる西田社中のコーラスにたどり着くまでには色々あって、最初にでた案はブルガリアン・ヴォイスだったんです。でも、向こうの農家の娘たちが歌う民謡のようなものだから、仮に現地までいっても歌い手は譜面がよめない。このままでは収録できないことが判明して行き詰まったとき、もしかしたら国内で民謡をやっている人だったらいけるんじゃないかとなったんです。たまたま西田社中の皆さんは洋楽の素養があったから譜面がよめた。あとは、もうやるだけでした。音楽作業は楽しかったですよ」

「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」場面カット

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「攻殻」で大変だったのは、むしろ映画が完成してからだったという。今だから話せるエピソードとして押井監督は語る。

「作品を宣伝しようとなったとき、『作中にでてくる言葉が分からない』という話がでたんです。電脳と言われても分からないし、マテバってなんだとか言われてね。劇場公開のときはパンフレットとは別に、用語集（「ビジュアル解説ハンドブック」）を作ったりしていました。僕は、あの難しい原作をこれ以上分かりやすくはできないっていうところまで刈り込んで作ったつもりだったから、それでも能書きが多いとか難しいとか言われるとね……。公開が迫ったときに、ここを直せみたいな話もでたけれど、絶対問題外だからと言いました。直すお金もなかったですしね」

「誰も覚えてないだろうけど」と押井監督が挙げたのは、TVCM用に作られた「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のイメージソングの存在だった。

「『ナウシカ』のイメージソングみたいなものですよね。当時は誰かに主題歌を歌わせるのが流行っていたんだけれど、僕は嫌で嫌で仕方なかった。『攻殻』ではそれをいちばん警戒していたし、最初から『エンディングを誰かが歌うのは絶対に嫌だからね』と話していました。川井君の音楽は当時から海外で有名になってきていたから、エンディングで彼の音楽が流れないなんてありえないと。制作中に横やりは一切なかったんだけど、完成してからそんなことがありましたね」