2015年10月2日(金)20:00
「攻殻機動隊」25周年リレーインタビュー 神山健治監督 前編 タチコマは「攻殻」のテーマを体現したキャラクター
「攻殻機動隊」関係者に制作秘話を聞くリレーインタビューの第5回は、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(以下「S.A.C.」)シリーズを手がけた神山健治監督。「S.A.C.」シリーズは初放送から丸13年が経った今でも高い人気を誇り、12月24日には、Blu-ray BOX特装限定版の再リリースも決定している。前編では、テレビシリーズで「攻殻」を作るためにどんな工夫をこらしたのかを聞いた。
神山監督が「S.A.C.」の話をうけたのは1999年の暮れのこと。押井守監督の「イノセンス」の企画が動きはじめていた頃だった。当時、別の企画をProduction I.Gに提出していた神山監督は、石川光久社長から「テレビシリーズで『攻殻』を作ったらどうか」という提案をうけ快諾する。その理由は、「『攻殻』はテレビシリーズに向いている」と思ったからだそうだ。
「『攻殻機動隊』はベースの設定がしっかりとしていて、幅広いストーリーを内包していくことができそうだという感覚がすごくありました。懐の深いタイトルで、I.Gにおける『機動戦士ガンダム』のような作品にできるのではないだろうかと当時よく話していました。僕自身のことでいうと、まだ30代だったので、チャレンジしてみたいことが沢山あった。テレビシリーズなら色々なことが試せるという魅力があったんです」
「攻殻」が懐の深いタイトルである例として、神山監督は「わかりやすい例かどうかわからないけれど」と話しながら、アニメ版の「うる星やつら」を挙げた。
「押井監督が作った『うる星』がバズったのは、原作から外れたエピソードを受け入れることができるだけの設定があったからだと思います。のちに押井監督は『もし「めぞん一刻」だったら、自分は引き受けなかっただろう』と話されていました。原作のストーリー以外のことをやったら怒られてしまう作品と、幅広いエピソードを作ることが許される作品がある。士郎(正宗)先生の作品の中で、『攻殻』は後者にあたると思ったんです」
「S.A.C.」の魅力は、緻密に構成された物語。各話のストーリーと並行しながら、シリーズ全体を貫く「笑い男」事件が描かれる。こうした構成になったのは、原作者である士郎氏からのアドバイスがあったからだという。
「士郎先生との打ち合わせで、『今の海外ドラマは脚本がすごくしっかりしているので参考になるのでは』というお話をいただいて、『特捜班CI-5』など、古いものから新しいものまで見直したんです。制作スタイルがどうなっているかまではわかりませんでしたが、シリーズを通して1本大きな話がありながら、各話1本だけ見ても面白いというのはパッケージとして良いなと思ったんですよね。当時はレンタルビデオで借りて見るのが主流でしたから、そうした作りの方が長く楽しんで見てもらえるんじゃないかなと。そのためには、やっぱり脚本をしっかり固めないと難しいんじゃないかと思っていました」
「S.A.C.」では神山監督を中心とした脚本チームが結成され、シナリオ作成のための合宿なども行われた。これらの試みは、「自分が監督をするときには、文芸の部分を一度整備し直したい」という考えの実践でもあった。
「僕が監督になった15年くらい前は、ストーリーや脚本というよりも、ビジュアル主導でアニメが作られがちな時期だったと思います。宮崎駿監督があまりにも素晴らしい絵コンテを描かれることもあって、アニメはひとりの人間が絵コンテで設計図を作るべきだという“絵コンテ史上主義”のような考え方が僕らの世代には根強くあって。でも、それはなかなかできることではないんですよね。テレビシリーズであればなおさらで、絵コンテではトライ&エラーができないんです」
1話あたりの絵コンテをひとりの人間が描くのに最低1カ月はかかり、なかには3カ月や半年近くかかる場合もあるという。それだけの時間がかかる工程のなかで、作品として面白いストーリーになっているか、シリーズを通してトーンが守られているかをコントロールするのは難しいと神山監督は語る。
「当時よく言っていたのが“リアリティの飛翔高度”というフレーズでした。爆発してもキャラクターが死なないぐらいの高度を飛ぶのか、地面すれすれの地に足のついたリアリティでいくのか。打ち合わせで士郎先生は、『緊張と緩和の「破」が自分の漫画の肝だから、たまにギャグになって破綻してもいいですよ』とおっしゃっていたのですが、それをテレビアニメでやるのはすごく難しいなと思いました。結局、演出や脚本家のさじ加減次第になってしまうので。全話好き勝手にやってもいいという考え方もあったと思いますが、海外ドラマのような作りを目指していくなかで、今のスタイルになっていきました」
作品情報
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西暦2030年、情報ネットワーク化が進む中、犯罪の芽を探し出しこれを除去する攻性の組織が設立された。内務省直属の独立部隊、公安9課。通称「攻殻機動隊」である。彼らの役割は、深刻な電脳犯罪への対処...
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