2015年10月2日(金)20:00
「攻殻機動隊」25周年リレーインタビュー 神山健治監督 前編 タチコマは「攻殻」のテーマを体現したキャラクター (2)
タイトルの「STAND ALONE COMPLEX」は、脚本作りのなかで出てきた言葉だったという。
「ライター陣と、公安9課のスタイルや作品で描く事象をひとことで言い表せるような言葉はないかと相談しながら出てきた言葉だったと思います。公安9課は暗殺もしますし、別に正義をなしているわけではないけれど、総体的には彼らの行為が正義にみえるような作品にしていきたいなと思っていました。もうひとつ、作品で描きたかったのは、ネットで情報が共有化されることによって、コミュニティが細分化されつつも、皆が繋がっていく状態が今後ますます強化されていくであろうということ。それは不可視なものだけれど確実に存在していて、犯罪でも同じことがおきていくのではないか。『Chain Reaction(チェーンリアクション)』とか色々な候補が出たなかで、今のタイトルに落ち着きました。タイトルは、中学生でもわかる単語だけで構成することにもこだわっていましたね」
押井監督の劇場2作と「S.A.C.」の大きな違いは、タチコマの存在の有無だ。士郎氏からの提案で新しいキャラクターとして登場することになったが、制作的にはI.G社内で3DCGのチームが育っていたことも大きかった。
「今聞くと驚かれるかもしれませんが、『イノセンス』の時、押井監督はキャラクターの3D化にあまり積極的ではなかったんですよね。当時、押井監督は『神山と俺はすみ分けをして、お前は3Dにいけばいいんじゃないか。少なくとも自分が監督をしているうちはキャラは作画でいく』という言い方をよくされていました。実際、『イノセンス』では背景やメカに多く3Dが使われていて、キャラクターの方にという意識はそれほどなかったと思います。制作状況的に『S.A.C.』は作画の負担が大きくなりそうで、しかも押井監督サイドは3Dチームを使わないということだったので、少しでも負担を軽減させるために、3Dと手描きのハイブリッドにしていこうと思ったんです」
「S.A.C.」は、I.Gのテレビシリーズで初のフルデジタル制作だった。タチコマだけでなく、作中に登場する自動車やヘリコプターなども3DCGで制作されている。初めての試みで大変なこともあったが「背に腹は変えられない」心境だったという。
「もし駄目だったら、作画の補助ツールになればいいという発想でした。3Dで大きなモーションだけ作って、その上から作画でなぞればいいと考えていたぐらいで。結果的には、タチコマには現在オレンジ代表の井野元(英二)さんが初期の段階から入っていただいたりもして、作画の戦力が足りない部分をだいぶ補完してもらえました。3DCG絡みでの試みでいうと、『S.A.C.』で最初に投入したのが3Dを使ったモブシステムです。画面の遠くを歩いている人は3Dでいいんじゃないかという発想で、使い勝手としてはすごく戦力になったツールでした」
タチコマは場を和ませるコメディリリーフとしてだけでなく、作劇上も大きな役割を果たしている。「S.A.C.」および続編「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」(以下「2nd GIG」)の終盤で彼らがみせる行動に胸打たれた人も多いはずだ。
「タチコマは、『攻殻S.A.C.』がもっているテーマを体現したキャラクターだと思うんです。士郎先生から提案をいただいたときから、単なるマスコットキャラではなく、メインキャラクターと対等の存在にできないかなと考えていました。AIであるタチコマたちが人間に近づいていく一方、電脳化した人間がネットワークにアクセスすることで人間性のようなものを失っていく。そうした対比を描けるんじゃないかなと思っていました」
作品情報
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西暦2030年、情報ネットワーク化が進む中、犯罪の芽を探し出しこれを除去する攻性の組織が設立された。内務省直属の独立部隊、公安9課。通称「攻殻機動隊」である。彼らの役割は、深刻な電脳犯罪への対処...
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