2015年10月9日（金）20:00

「攻殻機動隊」25周年リレーインタビュー神山健治監督後編スタッフを説得し続けた6年間

(C)士郎正宗･Production I.G／講談社･攻殻機動隊製作委員会

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神山健治監督へのインタビュー後編。「S.A.C.」シリーズを作り続けるのには並々ならぬ苦労があった。2本のテレビシリーズと長編を制作した約6年間、スタッフのモチベーションを維持するために腐心したエピソードを聞いた。

神山監督にとってテレビシリーズ初監督の「S.A.C.」。安定したクオリティの作品を作るためには、「継続して参加してくれるスタッフ」の存在が不可欠だったという。

「長く見てもらえる作品を作るためには、長く付き合ってくれるスタッフが重要なんです。1回だけやってくれる人は多いんですよ。『攻殻』ならすごいことができるんじゃないかとか、この話数だけ好きにやりたいといった人はいるんだけれど、それだと特定の話数だけすごく話題になったねというものになりかねない。僕が目指したシリーズとしては、デコボコしたものになるのがいちばん駄目だと思ったんです。脚本作りのときに話した“リアリティの飛翔高度”を守ることも難しくなってしまいますしね。スタッフに、そういったことを理解してもらうのには時間がかかりました」

「スタッフを説得し続けること」が、監督として一番大変な作業だったと神山監督は振り返る。

「邦画の世界では、黒澤明監督が率いる黒澤組というものがあって、いつもすごいレベルだったという話が出ますよね。でも、黒澤組というのはあくまで良い作品を作りつづけた結果としての副産物であって、先に黒澤組があるわけではない。これはテレビシリーズを作っていく難しさにも通じる話で、『S.A.C.』を作りながら痛感したところです」

「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」場面カット

(C)士郎正宗･Production I.G／講談社･攻殻機動隊製作委員会

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「2nd GIG」の制作は、「S.A.C.」の1話と2話のアフレコ・ダビングが終わったものを関係者にみせた段階で決まった。好評を得ての早々の決定だったが、制作陣には更なるプレッシャーにもなったという。

「『S.A.C.』の脚本が最終回近くまでできていて、制作はまさにこれからというところでした。登山でいうとまだベースキャンプにも行っていなくて、これから荷物をパッキングして現地に行く飛行機に乗ろうかぐらいの段階ですかね。『さあ、これから山を登り切るんだ！』と思ったら、いきなり倍の高さの山だと言われるようなもので、そうするとみんなの心が折れるわけです。当然、続けてやるのは嫌だという人もでてきて……」

違うスタッフで作るという選択肢もあったが、神山監督は「S.A.C.」の制作陣で作りきりたいと思い、継続して制作することが決定。その理由のひとつは「一回でも休んでしまうと無理だ」と思ったからだった。また「2nd GIG」では、疲弊した脚本チームに対する石川光久社長の配慮から、押井守監督も脚本会議に参加することになった。そこにも複雑な思いがあったそうだ。

「押井監督が入られたのは『イノセンス』の制作が落ち着いた時期だったからというのもあったと思います。それ自体は有り難いことなんですが、気持ち的にはつらい部分もありました。『S.A.C.』の脚本開発で、メンバーの間にある程度のチームワークができあがっていたこともありますし、最初は当てにもされていなかった自分たちが、作品をここまで持ち上げてきたんだという自負もありましたから。脚本メンバーには、『押井さんに挑戦するつもりでやりましょう』と伝えて、『S.A.C.』の制作と並行して『2nd GIG』の脚本開発に入っていきました。こういう時こそ、誰かが腹に力をいれて『一緒に登ろう』と言い続けなければならないんですよね。『2nd GIG』が決まったときが、いちばん大変だったかもしれません」