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インタビュー 2017年11月1日(水)20:30

「ヤマノススメ おもいでプレゼント」山本裕介監督に聞く 3人の原画マンで“丁寧に”作った理由 (2)

(C) しろ/アース・スター エンターテイメント/『ヤマノススメ』製作委員会

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――「ヤマノススメ セカンドシーズン」放送終了から3年ぶりに、OVA「おもいでプレゼント」が制作されることになりました。どのような経緯で決まったのでしょうか。

山本:このシリーズは細く長く作っていこうというのがプロデューサーサイドの考えで、第3期もいずれ動くだろうという話はありました。実は第3期へのつなぎとして1分アニメをやろうという話もあったんです。飯能の観光案内もかねて、実写とちびキャラのあおいちゃんたちを合成した帯番組のようなものです。そうこうしていたら、キャラクターデザインの松尾(祐輔)さんのスケジュールが急に空くことになり、だったら今がチャンスだから、何かまとまったものを作ろうよという話になったんです。そこからOVAの話が一気に現実化して、どんな話にするか、脚本のふでやす(かずゆき)さん、葛西社長、松尾さん、制作の大友(寿也)くんたちとミーティングをはじめました。

――そんな事情があったのですか。「ヤマノススメ」シリーズにおける松尾さんの存在は相当大きいのですね。

山本:もちろんです。特に今回のOVAに関しては、まず松尾さんがどんなものを描きたいかということを尊重してお話作りを進めました。キャラデザとしての松尾さんは常に流行りのアニメに対してアンテナを張っていて、「今はこういうキャラが受けるんじゃないか」ということをちゃんと計算してデザインを起こされているように思います。それに総作監としての仕事ぶりも優秀です。テレビシリーズは、ともすれば総作監がカットを抱えこんでしまって、肝心のスケジュールがガタガタになるケースが多いのですが、松尾さんのキャラクターのまとめ方(修正の仕方)は、ものすごく手ぎわがいいんです。各原画マンの個性をうまく生かしつつ、なおかつ「ヤマノススメ」の世界観から外れないようにリードしていくやり方なんです。それだと各原画マンのモチベーションも保たれつつ、作業工程としても円滑に進んでいくんですね。さらに今回のOVAを見ればお分かりのように、原画マンとしても超一流ですからね。

寒々しい様子が伝わってくるロケハン写真。他のスタッフはスタンダードな写真、山本監督は魚眼レンズという分担で撮り、魚眼レンズの構図は作品の絵作りに大きく生かされている

寒々しい様子が伝わってくるロケハン写真。他のスタッフはスタンダードな写真、山本監督は魚眼レンズという分担で撮り、魚眼レンズの構図は作品の絵作りに大きく生かされている

(C) しろ/アース・スター エンターテイメント/『ヤマノススメ』製作委員会

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――OVA「ヤマノススメ おもいでプレゼント」を2部構成にして、どちらも山を登らないエピソードにしたのは、なぜでしょうか。

山本:日常的な話にしてキャラを掘り下げようという狙いもありましたが、ぶっちゃけて言うと、企画が正式に決まったのが去年の冬だったので山の取材ができなかったんです。

――ああ、なるほど。

山本:取材時期は、OVAでも出てくるお寺の手水鉢に薄氷が張っているぐらいの季節でした。2部構成にした経緯は良く覚えていないのですが、とにかくそのうちの1本は松尾さんひとりに作画してもらう前提でお話作りをしたのは間違いありません。

――前半のエピソードが松尾さんのひとり原画だったことは、あとでうかがおうと思っていました。脚本段階からそうしたプランだったのですね。

山本:はい。で、松尾さんに「何を描きたいですか」とお聞きしたら、「ここなが描きたい」と(笑)。「ヤマノススメ セカンドシーズン」でも、ここなが夏の飯能を歩く話がありましたが(20合目「ここなの飯能大冒険」)、ああいう話にしようと決まりました。もう1本の話は「ひなたのお父さんの話をやったら面白いのではないか」という意見から、ひなた中心の話とすることが決まりました。最初にひなたありきではなく、ひなたのお父さん発だったんですね、なぜか(笑)。最終的にはあおいもほどよく絡めて、オーソドックスな「ヤマノススメ」のエピソードにまとまったと思います。

――どちらのエピソードも、原作に似た話があるのでしょうか。

山本:完全なオリジナルですね。原作者のしろさんにお断りをいれて、アニメオリジナルの話にさせていただきました。

――どちらもキャラクターのバックボーンに関わる話ですが、原作者の方と話し合いなどはされたのでしょうか。

山本:直接会って打ち合わせはしてませんが、「こんなあらすじにします」という案をお渡しして、設定のすり合わせをして進めていきました。OVAと第3期の制作が決まった時には、いっしょにご飯を食べてお話ししたりもしましたよ。

――第1期の頃から、そうなのでしょうか。

山本:そうですね。しろさんからシリーズ構成に関して「これはやめてください」と言われたことは一切ないです。「この山は、この時期あまり景色がよくないですよ」とか、山の道具の使い方などのアドバイスはたくさんいただいていますが。アニメの現場に対してものすごく理解のある方で、とてもありがたく思っています。

山本監督による前半絵コンテ。イベント上映実施劇場では、ここで紹介した絵コンテなどを収録した「絵コンテ・原画集」が付属する、ブルーレイ劇場先行限定版(数量限定)が発売中

山本監督による前半絵コンテ。イベント上映実施劇場では、ここで紹介した絵コンテなどを収録した「絵コンテ・原画集」が付属する、ブルーレイ劇場先行限定版(数量限定)が発売中

(C) しろ/アース・スター エンターテイメント/『ヤマノススメ』製作委員会

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――OVA前半の「Present1 夏 ここなの8/31」は、ふわっとしたエピソードですが、非常に挑戦的な作りだと思いました。ここなが飯能周辺をぶらつくだけの話を、静かなトーンとレイアウトの巧みさだけで見せていって、エンディングでひとり原画だと分かって、そこでも驚きました。最初から、ああいうトーンのものでいこうと思われたのでしょうか。

山本:僕がああいう話を作りたくて、特に狙ってああなったわけではないんです。さきほども話したように、松尾さんがここなの話を希望して、脚本のふでやすさんからプロットが上がって、僕をふくめた他の人間のアイデアが加わり、シナリオが完成するじゃないですか。そのシナリオを元に僕の感覚で絵コンテを描いていったら、自然とああなったということです。「挑戦」と感じてもらえるのもうれしくはありますが、むしろ僕自身は作業の合間に時々「これって面白いのかな?」と思いながら作っていたところがありまして……(笑)。

――(笑)。

山本:現場のみんなに「これ面白いですか?」と確認しながら作っていました。

――ここなを好きな方には、最高のエピソードだと思います。

山本:そうですね。でも、「ヤマノススメ」シリーズをはじめて見る方が見たら「なんじゃこれ」って絶対なるでしょうし、シリーズのファンの中にも、ここなが苦手な方もまれにいますから。ちょうど第1期を作っていた時と同じような不安が常にありましたね。そもそも、他ならぬスマイラル・アニメーションの後藤(裕)プロデューサーも、「この話どこが面白いんだ?」と言ってましたからね(笑)。

――ええっ、そうなんですか。

山本:このまま進めて大丈夫なのかと心配していたようでした。その時は監督の責務として、「大丈夫です。ちゃんと面白くなりますから」と言うしかなかったんですが(笑)。でも、そんな後藤さんもアフレコでセリフが入っていくのを見て「面白い!」と安心してくれたみたいです。「ヤマノススメ」の名物プロデューサーですからね、後藤さん(笑)。

――オチまでうかがって、なんとか記事にできそうだと思いました。

山本:ぜひ記事にしてください(笑)。ただ、あのときの後藤さんの指摘は、あながち的外れでもなかったんじゃないかとも思います。これがテレビだったら僕も、誰が見ても面白いと思えるつくりを徹底しますから。今回はそうした制約が無意識のうちにゆるくなっていたのか……そこも含めて、OVAならではのつくりなのかもしれません。だから、今回はいつにもまして、どんな反応があるか楽しみなんです。ある意味、本当に自分たちの好きなものを作っていますので。そこで、「面白い」と言ってもらえれば素直にうれしいですし、「つまらない」と言われても、今後の参考になりますし。

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ヤマノススメ おもいでプレゼント

ヤマノススメ おもいでプレゼント 13

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