2019年1月1日(火)12:00
新春アニメプロデューサー放談 KADOKAWA・田中翔氏×東宝・吉澤隆氏(前編)アニメ村でおきつつある“明治維新” (2)
――製作本数の多さと、その弊害が表にでつつあることも2018年のトピックのひとつだと思います。そのあたりについてはどう思われますか。
田中:そろそろ減らさざるをえないタームがきているように思います。多少無理やりなことをしてでも、そうした選択肢をとらざるをえないというか。
吉澤:そうですね。
田中:正直なところ、体力的に生きるか死ぬかぐらいのところまできているような……ここまでくると制作会社やメーカーのヒットポイント勝負みたいな感じですよね。そんなチキンレースのような状態が今年も続いていく気がします。
吉澤:国内だけでなく、海外の動向も大きいですよね。今はカントリーリスクみたいな部分も大きくあって、そこは僕らのコントロール外のところじゃないですか。ゲームでは規制が入って海外で発売できなくなったケースがありましたが、アニメでも近いことがおきることは十分考えられると思います。
田中:今まで仲良くやってきたのに、一方的に交流を絶たれるかもしれないという恐ろしさはありますね。そうしたところも含め、今はいろいろなところで構造改革が大きく求められている、ついにやってきた過渡期なのかもしれません。
吉澤:最初に、「翔さんのモチベーションを知りたい」と聞いたじゃないですか。というのも、自分でアニメの企画を立てていざ放送がはじまると、「また同じことをやっているのでは」と感じることが多いんですよ。誰かが決めた20数分×12本や24本の枠でこれまでと同じようなことをやっている気がして、自分としてはそうした枠を壊したいのですが。
田中:僕はプロデュース会社を立ち上げたいとか制作会社にいきたいとか思ったことがなくて、会社のなかで気ままにアニメをつくっているのが好きなんですよ。それがモチベーションといえばモチベーションですかね。そして、会社から評価されなくなったら用済みなわけです(笑)。
吉澤:僕と翔さんは同い年でアラフォーにさしかかっていますが、そろそろ次の世代のアニメプロデューサーが台頭してくる頃ですよね。
田中:そうですね。現役のプロデューサーとして、一線でそこそこものをつくっていけるのは長くてもあと3~4年が限界かなと思っています。
吉澤:どんな業界でも、プロデューサー35歳限界説みたいなことがよく言われますよね。今の流行りをどんなにキャッチアップしているつもりでも、感覚がずれていくっていう。ある年齢までは、なんのロジックもないのに今は何がいけそうか分かるような時期があったと思うんですけれど。
――記事をつくっていて私も同じように感じることがあります。
田中:「アニメのメーカーPになるためにはどうすればいいですか」という質問を受けたとき、シンプルに「メーカーに入ればいいと思います」と答えるんですが、新入社員からPとして働ける環境に行けることは稀でして。たまにまったくの別業種からくる方もいますが、だいたいはアニメ業界や近しい業界で仕事をしていた人が、早くても20代半ば、もしくは20代後半あたりからアシスタントPとして入ってくるケースが多く、そこから5年くらいかけてPへと成長していくわけです。
つまりアシスタントPをしながら、2~3年後にかたちになるであろうテレビアニメの企画を仕込むと、だいたい30歳前後で1本目のプロデューサーをやることになる。その後は、1本目をやっている間に次の作品を仕込むというように、30から35歳ぐらいの間にやってみたいことを少しずつかたちにし始めることになります。その年代になんとなくインスピレーションで決めたことって、不思議と世の中と合致することが多いんですよね。
それが35、36歳ぐらいまで続いて、ふと冷静になってみると、「あれ? 俺の考えていることが世の中にマッチしなくなってきた」と思うようになる瞬間がやってくるんです。自分としてはよく分からなくて面白くないと思っていたアニメが、Amazonのランキングで上位に入っているみたいなことが頻繁におきてきて(笑)。
吉澤:ありますよね(笑)。
田中:そうしたとき、世の中のニーズや情報から外れていって、それまで蓄積したノウハウや知識ばかりにとらわれてしまっている自分に気づくんです。過去の蓄積を一度忘れて、どこかでフラットにならなければと思うようになるのが我々の年代だと思います。
――その意味でいうと、昨年放送された2本のオリジナルは、どういうスタンスでつくられていたのでしょうか。
田中:「宇宙よりも遠い場所」と「多田くんは恋をしない」は、素直につくってみたというのが大きいです。何も考えずフラットにつくったらアニメファンの方々にどう受け入れられて、どのようなビジネスになっていくのか見たかったといいますか。
どちらの企画もKADOKAWA以外では実現できなかったタイトルだと思います。広くマーチャンダイジング(商品化)ができるような作品でもないですし、「海外で誰が見るの?」なんてこともまわりからはよく言われました。ありがたいことに、どちらも事業的には黒字になったのでよかったのですけれど(編注:取材後、「宇宙よりも遠い場所」が、「ニューヨーク・タイムズ」の2018年ベストテレビ番組の海外部門10作品のひとつに選ばれた)。
――さきほど「ゾンビランドサガ」が話題にあがりましたが、見ているほうも「どうしてこの企画がとおったんだろう」と思うぐらい突拍子のないもののほうが面白がる傾向があるのかなと思います。
吉澤:鉄板のタイトルがなくなってきたのかもしれませんね。ダークホースが売れるようになってきて、「けものフレンズ」や「おそ松さん」もそのひとつだったと思いますが、新たな発明や新味を求めているのかなと。
ウェルメイドな作品をつくって、「いい作品だったね」とつくる側が満足するだけだと、今はなかなか引っかからないのかもしれません。設定でも演出でもなんでもいいので新しいものがないと……。これは僕の先輩たちもずっと言い続けていることですが、かといって新しさのベクトルを間違えると、それはそれで困ったことになってしまうんですけれど(笑)。
田中:新春放談ですのでこんな話題もほうりこんでしまいますが、去年知り合いの家でVRのAV(アダルトビデオ)をみんなで見たんですよ。「360°○○」とかいろいろ見ていったら、ここには夢の世界が広がっているなと思ったんですけど……。
一同:(笑)。
田中:そのときAV業界の企画力はすごいなとあらためて思ったんですよ。「女優が綺麗だったら売れるでしょう」みたいなところだけには頼らず、シチュエーション勝ちの状況をつくったり、すぐに廃れることをいとわない時事ネタをとりいれたり、つねに売れるものをつくり続けようとする企画力は我々も見習ったほうがいいのではないかと、みんなでAVを見ながら考えました(笑)。
吉澤:AV業界の人たちは映像で商売することについて、僕らの歴史より長いはずですよね。僕らが今直面している悩みみたいなものをすでに経験していて、だからこそ、いろいろなアイデアをだす若いディレクターが多いのかもしれません。
田中:ありとあらゆる要素を貪欲に使って、世の中で流行った事象をいち早くとりいれていきますよね。「君の縄」とか(笑)。あのフレキシブルさと瞬発力は、どの業界も見習うべきだと思います。
吉澤:アニメはAVほどのスピード感ではなかなかつくれないので、あそこまで身軽につくっていくのはなかなか難しいかもしれないですけどね。むしろアニメの場合は企画をきちんと煮詰められず、つくること自体が目的になってしまうことが多いのではないかと思うことがあります。
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