2019年6月7日(金)18:00
今石洋之×コヤマシゲト×若林広海×舛本和也「プロメア」座談会 色味でCGと作画の親和性を高める (2)
(C) TRIGGER・中島かずき/XFLAG
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――次は若林さんにうかがいます。「プロメア」ではクリエイティブディレクターとクレジットされていますが、「キルラキル」ではクリエイティブオフィサー、「トップをねらえ2!」(2004)では特殊効果、「パンスト」ではシナリオも書かれていて……実は若林さんはちょっと謎の人という印象があるのですが……。
若林:一応、会社的な肩書きは宣伝ということになっているんですけどね(笑)。
――そうなんですか?
一同:(笑)。
コヤマ:そう言われると、さらに混乱しますよね(笑)。
若林:TRIGGERでは宣伝部の部長と、企画まわりのプロデューサー的な役割を兼業している感じなんですが、基本的には自社作品の宣伝をするのが本業です。特殊効果の仕事は、GAINAXに制作として入ったとき、鶴巻(和哉)さんに自ら直談判して「特殊効果をやりたいんでやってもいいですか!」と話したら「やってみなよ」と言ってもらえたので、後半3本に参加させてもらいました。
「グレンラガン」では設定制作として、今石さん、錦織(敦史)さん、吉成(曜)さんたちとコミュニケーションをとっていくなかで、「このアイデア面白くないですか?」みたいな感じでアイデアを出していた流れで、僕が原案を出させてもらった「パンスト」みたいな企画が実現するなど貴重な経験させてもらい、今にいたっている感じです(笑)。
――若林さんは、今石さん、コヤマさんの3人で「GEEKBOAT(ギークボート)」という企画ユニットを組まれていて、「プロメア」ではアートディレクションとしてクレジットされています。このユニットは、アメコミやアメリカントイが好きだという共通点があるそうですね。
若林:いや、共通点は後付けですね。もともと共通の趣味があるからということで組んでいるわけではなく、ずっと一緒に作品をつくっていて「このデザインいいよね」「こういう映画いいよね」と話をしていくなかで共通認識が増えていき、結果として、好きなものが被ることが増えていっただけです。……外部の人に僕の仕事を説明するのは難しいですね(笑)。
今石:どう言うと分かりやすいんでしょうね。「プロメア」では、選曲を若林と一緒にやっているんですよ。澤野(弘之)さんの曲を、どのシーン(やカット)にどれだけかけるかという仕事です。もちろん音響監督のえびな(やすのり)さんとも話はしますが、僕と若林のほうでプランを考えていました。
これには伏線があって、ひとつ前の「宇宙パトロールルル子」(2016)のときには音楽まわりを全部彼に丸投げしたんですよ。本来、監督が判断するべきことを僕は判断せずに、全部若林に判断させるっていう(笑)。それこそ主題歌のアーティスト選出や折衝までお願いしています。
若林:その時も、「ルル子」の音楽関係やらせて欲しいとは言ったんですが、まさか主題歌のアーティストさんを見つけてくるとこからとは思わなかった(笑)
――すごいですね(笑)。
若林:そういう流れで、「プロメア」では「Mライン」と呼ばれる、各シーンにどんな音楽をあてるか決める作業を今石さんと一緒にやらせてもらっています。それが個人的には最も大きな作業のひとつで、あとはデザインまわりですね。
「プロメア」では、今石さん、コヤマさんたちとデザイン会議のようなものを何年もやってきているんですよ。これは「グレンラガン」から「キルラキル」にいたるまでずっと同じ流れでやってきていて、そのなかでお2人のデザインがどんどん先鋭化していくのを、例えば「今の若いアニメファンにはこういう見え方のほうがいい」とか「キャラをもっとイケメンにしてしてくれ!」みたいなことまで、思ったことは隠さず常にぶつけていました。
――今のお話を聞くと、漫画でいうところの担当編集者のような役割ですね。
今石:ああ、近いかもしれません。
コヤマ:担当編集者の役割を、舛本さんと分けている感じですかね。作品の外側の部分で、「今あなたたち、ちょっと遅いですよ」というのは舛本さんに言ってもらって(笑)、遅いかどうかは別として「中身がマズイですよ」という話を若(※若林さん)がするっていう。そうやって両側からつついてもらう感じですね。
――なるほど。若林さんと舛本さんの役割をあわせて、漫画の担当編集者になると。
コヤマ:プリプロが終わって現場の実作業がはじまっても、僕が手いっぱいなときには「若のほうで塗っといて」みたいなこともやってもらっています(笑)。それぐらい若の作業は多岐にわたっていて、制作や宣伝の仕事からもあぶれちゃってるし、プロデューサーというのもまたちょっと違うんですよね。だから、毎回役職は謎な感じになってしまっているという。
今石:“究極のなんでも屋”なんですよね。
――若林さんの謎が少し解けました。作品の話に戻りますが、「プロメア」の絵コンテは今石監督のほかに8人の方がクレジットされていますよね。取材の資料として絵コンテを拝見しましたが、描く方のタッチがそれぞれ違っていて面白かったです。どうして、このような分担になったのでしょうか。
今石:初期の頃、ラフコンテムービーをつくっていた時期があったんですよ。そのときにはほぼひとりでラフのコンテを切っていて、これからクリンナップしようとなったら、その時点で時間切れになりまして(笑)。
クリンナップする時間も全部使ってしまったので、とにかくいろいろな人に手伝ってもらいました。ただ、ラフコンテのつもりで描いているから細かなカット割がゆるかったり、繋がりや合わせができていなかったりしたので、そこをフォローしていただける、きちんと絵コンテを描ける人にお願いしています。
――今石さんが最初にラフコンテで描いたものを、その他の方々が調整しながら清書している感じなのですね。それをアニメーターさんに渡して、作画に入るという。
今石:基本的には、そういうスタイルでした。ただ、描く人の個性によってだいぶ変わってもいて、例えば吉成さんが描いたパートは急に画面の説得力があがるんですよ。小物とかもしっかり計算された画面レイアウトをつくってもらえるので、実はけっこう変わっているところもあります。とはいえ、基本のラインは全部自分でつくっていました。
――スタッフの名前がでてくるアバン部分の絵コンテには、作中にでてくる、四画、三角、丸についてのコンセプトがメモ書きされていたのも興味深かったです(※編注)。色だけでなく、かたちについても決め事をつくられていたのですね。
編注:アバンタイトルには、三角、四角、丸の幾何学模様がグラフィカルに登場する。絵コンテには、「三角は炎、自由、感情、暴走の象徴」「四角は氷、束縛、理性、管理の象徴」「丸は融合、調和、安定、理想の象徴」との注釈がされている。
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今石:そういう手がかりがないと、どんどん普通になっていってしまうんですよね。三角や四角のモチーフのことは正直ストーリーにはそんなに関係なくて、映像をつくるさいのルールや設定の仕方として、そういうものがあると僕らはつくりやすいんですよ。「絵の物語」ともいうべきものがあって、それは本編のストーリーともキャラクターとも関係なく進んでいて、「さっきまで三角だったやつが四角になって丸になった」みたいなことは、それはそれで絵のストーリーだと思っているんです。
コヤマ:今石さんの作品はデザインのロジックをちゃんと固めてからやるから、すごくやりやすいんですよ。「パンスト」なんかもそういうふうにつくっていて、絵についてもきちんとルールを決めてつくっています。GAINAXの頃から上の世代の方たちもそれを徹底されていて、パロディをするときも何かしらの理由や法則が全部あるんですよね。それはもうお客さんには分からないレベルだとしても、敬意をもってきっちりと筋を通すという。今石さんも、そのやり方をずっと踏襲してつくってきていると思います。
僕らデザインするほうも、そうした手がかりがあるほうが有り難いんですよね。例えばロボットのデザインをするとして、「かっこいいロボット」みたいな漠然としたオーダーだと2年ぐらい……いや、2年どころじゃないな、たぶん何年でもデザインをいじり続けられてしまうんですよ(笑)。
――(笑)。
コヤマ:「今いちばんかっこいいもの」を求め続けますから、ずっと描き続けてしまうと思うんですよね。だけど、「四角がモチーフ」みたいな縛りが決められることで、デザインだけでなく、「美術はこういうルール」「色はこういうルール」とおのずとどんどん道が狭まっていって、そうするとそこに最適解が必ず発生していきます。そして、ルールが決まったうえで、そのど真ん中でいくのか、少しずらしていくのが美しいのか、といったことが決められるんです。
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