2019年6月7日(金)18:00
今石洋之×コヤマシゲト×若林広海×舛本和也「プロメア」座談会 色味でCGと作画の親和性を高める (3)
(C) TRIGGER・中島かずき/XFLAG
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――「プロメア」は、オープニング後にいきなりラストバトルの勢いでアクションが繰り広げられるところに驚かされます。ガロとリオの戦いも、最初のバトルで決着をつけちゃいますよね。普通だったら、軽くつばぜりあって、そのあとにもう一度出会うみたいな展開になると思います。
コヤマ:そうなんですよねえ。
若林:そこは相当意識しましたよね。
今石:うん。
――ロングPVでも明かされていますが、ガロとリオの戦いが決着することで、キャラデザインからして裏がありそうなクレイが裏ボスだろうなと、かなり最初のほうで分かってしまいました。
今石:(苦笑)。テレビシリーズでもそうなんですけど、ストーリーの都合によって途中で終わるのが苦手というか、「もういくとこまでいっちゃえば?」と思うほうなんですよね。そのあとのことは、あとで考えればいいかなと(笑)。
――ガロみたいな考え方ですね(笑)。
今石:中島(かずき)さんの脚本も、「見たいところは、とにかく見せてしまおう」なんですよね。いちばん気持ちのいいところはドンッと先に出してしまって、そのあとに説明がはじまるっていう。なので、アクションもそうしたつくり方になるんです。
――アクションも1カットで、ビルから飛び降りたメカがそのまま窓ガラスを破って中に飛び込んでいくようなハリウッド映画ばりのゴージャスなものが多かった印象です。
今石:そのようなカメラワークができることが、「プロメア」のようにCGをふんだんに使えることのいちばんの利点ですね。床下にいってまた屋上にいくみたいなカメラ位置を変えていくことは作画ではまず無理ですから。ハリウッド映画などを見ているとカメラは自由自在に動いていて、「これをアニメでやれたら」とは考えますけど、とても描きたいとは思えないですし、「手で描くのは無理!」とまず考えてしまいます。そうした部分が今回CGで実現できていて、そういう意味ではコンテで遠慮なく描きすぎている部分があるんですよね。いつもやれないことをだいぶ盛り付けてしまったなと思います(笑)。
――炎を代表とする「プロメア」のエフェクトは、どんなふうにつくられているのでしょうか。
今石:エフェクトに関しては、わりとCGありきでつくっているんですよ。炎のエフェクトなんかは、3Dで表現するために半年から1年かけてテストし続けていて。
――半年から1年かけてですか。
今石:それでやっと今のかたちになりました。でも、作業していくうちにだんだん作画でやる割合が増えてきて(笑)、作画用にエフェクトの設定をつくり直してもいるんですよね。なので、CGありきでつくったエフェクトを途中から作画におきかえる作業もしています。
そもそも作画にしても遜色ないよう情報を削ぎ落とすための3Dで、そのかたちでフィックスしているから大丈夫だろうと思ってやったことではあるんですけどね。ただ、エフェクトの描き方にこんなに縛りをもうけたことはなくて、「パンスト」のときよりもだいぶ厳しくなってしまいました。一(いち)アニメーターとしてはエフェクトにキャラ表があるっていうのは、かなりヒドいことだよなって思うんですが(苦笑)。
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――弾けた作画で活躍されてきた今石監督ならではのジレンマですね。
今石:エフェクトこそアニメーターが自由にできる場所なのに、そこで「この形以外描かないでください」と言って縛るのかと。アニメーターとしての自分としては、そこはすごく葛藤がありました。
――本来3DCGで描くために設計しているから、手描きの方にもそれにあわせて描かれているわけですね。ということは、エフェクトは手で描かれているところもかなりあるのですね。
今石:CGと手描きが、いろいろと入り混じっています。気づかれなかったのなら、それはもう「よかった!」っていう(笑)。
――日々の作業のなかで、今石監督はどんなところにいちばん時間をさかれていたのでしょうか。
今石:今回でいえば、作画のほうはいつもより見ていないんですよ。作画はTRIGGER内でがっつりやることが分かっていましたので、そこはもういつもの面子にお任せしています。とはいえ、さっきお話したようにエフェクトの縛りなんかはあるわけですけど、そこも社内でやってもらえれば大丈夫だろうと。そのぶんサンジゲンさんとのやりとりや、コヤマさんと一緒に色をコントロールすることなど、「プロメア」ならではの作業にいちばん自分の時間を使っていたと思います。
――ラッシュ時のコヤマさんとの色チェックは、どんなふうにされていたのでしょうか。
コヤマ:今石監督が話されたエフェクトの縛りや色塗りのルールは、僕は一緒にやってきているから完全に頭の中に入っているんですが、これって何年も経てつくられてきたものなので、なかなか他のスタッフに共有しづらいところがあるんですよね。設定化できるものはしているんですけど、例えば「このピンクの色味は、(RGBの)Rがちょっと強いです」とか、そういうレベルの話になると……。
――すごい次元の話ですね……。
今石:誰も分からないですよね(笑)。
コヤマ:もはや、それが分かるのは僕と今石さんしかいなくて、今石さんは色の数値をいじっている人ではないから「なんか前に見たのと違う気がする」という言い方で教えてくれるんですよ。それを僕が見て「ああ、ここは間違えてますね」と言って直すという。
――その段階でコヤマさんが色を直すことを許される環境にあるのも、なかなかすごいことですよね。
コヤマ:そういうワガママを、色彩設計の垣田(由紀子)さんが背中を守ってくれていた、というのも大きかったと思いますね。
――美術について、もう一度話を聞かせてください。美術監督の久保さんのお名前がでましたが、「プロメア」の美術を手がけている「でほぎゃらりー」は、スタジオジブリの美術部門の流れをくむ手描きの継承をうたう美術会社ですよね。
今石:そうですね。
――このルックで、なぜ手描きの美術会社なのだろうと思いました。
舛本:美術は最初からでほぎゃらりーさんにお願いしたかったのですが、そこで運がよかったのは久保さんと出会えたことでした。久保さんはお若い方ですが、こちらからお願いして最初に出していただいたものがすごくよくて、ここにいるみんなが気に入ったことが大きかったです。
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若林:美術のデザイン的な方向性は、エンディングロールにも「ヴィジュアルデベロップメント」としてクレジットされていますが、まず海外のコンセプトアーティストたちと今石さん、コヤマさんがベースとなる美術のスタイルをつくりこんでいて。その後、美術としてどの会社に描いてもらおうとなったときに、舛本がでほぎゃらりーさんに相談しにいったという流れです。
そのときに久保さんが、普段はリアルな絵を描く方なのに、実は「プロメア」のようなデザイン的な画面に興味をもっていたから「ぜひやりたい」という話をされて。そこから美術のデザイン会議を毎週行っていきました。久保さんのいつもの描き方だとリアルに描いてしまうところを、このぐらい情報を落としてほしいと今石さんとコヤマさんがその場で絵を描きあっていくかたちで、半年から1年ぐらいやりとりを続けています。美術監督までやられている方で、これまでとまったく違ったスタンスに賛同してくださる方はなかなかいないはずですが、そこは久保さんの人間力(にんげんりょく)の高さに助けられました。久保さんのようなリアルなものもデザイン的なものも描けてしまう素晴らしいクリエイターの方に担当していただいたからこそ今回の美術が成立していると思います。
コヤマ:これこそ今石作品の醍醐味な気がするんですよね。野球選手を連れてきてプロレスをやるみたいな――。
一同:(笑)。
コヤマ:ジャイアント馬場さんみたいなものじゃないですか(笑)。もともと野球選手だったけど、プロレスをやらせたらまた違ったスター性が発揮されたという。勝手な言いようですが僕からは久保さんがそんなふうに見えます。
――なるほど。
コヤマ:細かくやりとりをしながら、我々のやり方に根気よくつきあってくださいました。海外のアーティストが描いたイメージボードや僕からお話した色の狙いも、ものすごい勢いで吸収して、どんどん理想値に近づいていくというか。久保さんの絵があがってくるのは毎回すごく楽しみでした。
若林:普通のアニメの制作工程だと、美術があがってくるごとに演出家や監督が各カットにあわせて絵をチェックすることがわりとあって、その段階で「もっとこうしてほしい」とリテイクがでることも多いんですよ。「プロメア」では初期にデザインをつめきったことによって、美術が上がってきた時点でもう100点なんですよね。あとはもう「100点を150点にしよう」みたいなリテイクしか発生しなくて現場的には大変助かりました。
――すみません。そろそろ時間が迫ってきまして、舛本さんからTRIGGER初の長編をつくられての総括的なお話と、最後に今石監督から一言いただいて締めたいと思います。
舛本:TRIGGERとしては、今石さんの2時間オリジナル作品をつくるのは会社的にも大きな目標のひとつでしたので、それが実現できたのは本当にありがたいことだと思っています。ご協力いただいた関係者の皆さんには、「本当にありがとうございます」と感謝の言葉しかないです。そしてもちろん、さきほど話にでた美術監督の久保さん、コヤマさんをふくめ、いろいろなスタッフの方々のご協力とご尽力があってのことなのは言うまでもありません。
TRIGGER設立から8年ちょっと経ちますが、社内で育ったクリエイターも多くいて、「プロメア」で力を発揮してもらえたことも大きいです。設立当初ではここまでつくりきれなかったはずで、そういう意味ではTRIGGER自体の成長だったり、若いアニメーターたちの成長だったり、これまでの技量や実力の積み重ねのうえでできあがったものだと感じています。「プロメア」は、TRIGGERの集大成となる作品だと僕は思っています。
――最後に今石監督からお願いします。
今石:僕は完成間近になってからずっと、「初見の気持ちが分からない」状態が続いてまして……(笑)。
――(笑)。
今石:でも、最初に言ってもらったように一回見ただけでは処理しきれないぐらいの情報量があるとは思います。そういう意味では、2回でも3回でも4回でも見てもらえるとうれしいです。今回お話したように「絵のストーリー」という目線で見てもらってもいいですし、デザインやエフェクトの形状だけを追っかけてみるとどう見えるかとか、背景ばかりを見てもいいと思います。またアクションは各カットが短いので1回見ただけでは分からないところがたくさんあるはずで、探せばいろいろな発見があるんじゃないかと。……でもまあ、そんな作り手のこだわりとかは考えずに頭をからっぽにしてただ、楽しんでもらえればそれが一番かなあ、と思います(笑)。
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