2024年3月19日(火)22:00
「同級生」BL漫画アニメーション化の歴史とその魅力 アニメーション作家と研究者がトーク【第2回新潟国際アニメーション映画祭】
新潟市で開催中の「第2回新潟国際アニメーション映画祭」で、中村明日美子氏の同名人気ボーイズラブ漫画を原作とし、A-1 Picturesの制作、中村章子監督によりアニメーション映画化した「同級生」(2016)が3月18日上映され、同作ファンを公言するアニメーション作家の矢野ほなみ氏と横浜国立大学大学院教授の須川亜紀子氏が本作の魅力を存分に語った。
2人の男子高校生のもどかしくも純粋な恋を描き、原作もアニメーションも多くのファンを持つ本作。まず、須川教授が研究者の立場からBLアニメーションの歴史をこうまとめる。
「いわゆるBLと呼ばれるジャンルの作品がアニメーション化されることがどういった意味を持つのか、歴史的な外観を説明すると、BL作品、漫画、小説には長い古い歴史があり、昔は少年愛、やおいと呼ばれたりしていました。同性愛、男性同士の恋愛を描くことは、少しタブー視されていた期間が長かった。まず、アニメーション化されたときはOVAといってビデオを買う形や、それから有料ケーブルテレビ、お金を払わないと見られませんでした。80年代から大ヒットした『絶愛-1989』もOVA、そしてBL小説を原作としたアニメーションで1992年の『間の楔』(あいのくさび)がOVAでリリースされて絶大な人気を誇りました。それから2000年代に入って、コメディチックな「グラビテーション」がWOWOWで放映され、2002年にはラノベのベストセラーになっていた『炎の蜃気楼』がアニメ化されて、それがキッズステーションで放映されてというような形で、徐々にアニメ化される作品が増えてきました」
しかし、2000年代前半まで有料ケーブルテレビやOVAでアニメーション化されても、BLアニメーションは知る人ぞ知るという存在で、一般に見られない状況が続いた。そして、2006年にゲーム原作の「学園ヘヴン」がアニメ化され、全国放送ではないが地上波放送されたことで、須川教授は変化を感じたという。
「その後、2008年から15年、非常に長いスパンで『純情ロマンチカ』というやはり漫画原作のベストセラーがアニメーション化され、徐々にBL作品のテレビアニメーション化が珍しくなくなってきた時代に入ります。その頃、BL作品の劇場アニメ映画も出てきて、2014年に『劇場版 世界一初恋 ~横澤隆史の場合~』という『純情ロマンチカ』と同じ中村春菊先生の作品が公開されました。劇場公開ということは、ある程度(興収によって製作費を)回収できるということ。それが見込まれていないと劇場版を作れないので、BL作品が劇場アニメ映画になったというのは、重大な事件だった。その流れを受けて、この『同級生』は、2016年にいきなり劇場アニメ映画として登場した」と解説し、漫画原作があり、テレビアニメにならないものが突如劇場版として登場したのは、「おそらく監督の熱意と、それからファンの方の希望、期待が背景にあったのではないか?」と推測する。そして、「同級生」は「監督ははじめ、スタッフさんも非常に女性が多い」と特徴を挙げる。
アニメーション作家の矢野ほなみ氏(右)と横浜国立大学大学院教授の須川亜紀子氏
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矢野氏は「BL漫画は詳しくないのですが、『同級生』原作は読んでいて、劇場公開作品になってすごく驚きましたし、この作品は原作の通りというか、原作の雰囲気をそのまま保った劇場版アニメーション」とコメント。そして、なぜ原作の雰囲気を保てるのか? を映像として見た際に“余白の使い方”に着目し、作り手の観点からその具体例を語る。
「原作の画面の構成と一緒ですが、すごく余白があって、なおかつ後から余白を埋めるように、丁寧にゆっくり恋が育まれていくのが、漫画と映画の両方でなされている」「例えば、雨のシーンは、空を真っ白にして描くっていうのもすごい。漫画でのこの余白感は映像ではどうするんだろう? と考えながら見ると潔い。でもそれでいてものすごく詰まっている。そこに驚くのと、作画はもちろん、キャラクターデザインが線が丸っこい感じでそれが動画になるとコミカルになる。本当に原作の中村先生の世界観が映像として結実している。画面としての余白と物語としての余白の2点がある」
作画について須川教授は、「非常に繊細な線が実現していて、それから何とも言えぬ水彩画のような背景。それが心象風景を表したり、微妙な色合いのグラデーションがかかった薄さが、セリフ以外で気持ちが伝わる」と感想を述べ、「漫画の方は基本白黒なので、背景を白くするとコマの広さが強調される。アニメはある程度色が付くので、白がより際立つ効果がある。また、空間と構図を考えると、漫画もそうですけれども、主人公たちのキャラクターがフレームアウト、見見切れている画面もあり、それでもセリフが続いていたりとか。アニメーションでそういう構図を作るのは、勇気がいったと思う。フレームを使った余白も巧妙だと思った」と、矢野氏が指摘した余白の使い方についての印象を述べる。
(C)中村明日美子/茜新社・アニプレックス
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また、クイアニメーションと呼ばれる性的マイノリティをテーマにしたアニメーションを研究している矢野氏は、「ボーイズラブという要素が薄まっているとか、ファンタジー化されていることを感じなくて、葛藤もすごく軽やかに乗り越え、2人の関係性の中で作られていくストーリーテリングが素晴らしい」「2人の関係性がしっかり描かれているので、2人のその後も想像できる。一方で男性同士だからこそある葛藤なども目をそらさずに、向き合う、そういった部分にも励まされる。(観客に)これは自分たちの映画だ、という見られ方をされたのではないか」と感想を語る。
須川教授は、登場人物の視点の変化、ガジェットの使い方、風景の流れる様子などにも言及しながら、ストーリーテリングについては「単にBLって言ってしまっていいのか……そういう思いもあります。高校時代にちょっと気になる相手がいて、どうやってその気持ちを伝えればいいんだろうとか、言いたくても言えないっていうことは、多分異性愛でも、誰でも経験できるようなところだと思う。だからBLファンじゃなくても、この作品にピュアに入れる、そこも魅力」と分析する。
そのほか、「コミュニケーションの仕方が衝撃的だった。言わないことによって、気持ちが伝わる。声優さんが非常に気を付けて演じてらっしゃるのでは」と独特のセリフ回しの魅力を須川教授が挙げると、矢野氏は「音楽や音、歌を聴けるのがすごく嬉しい」とアニメーションならではの効果に言及、余韻を持たせるラストに関しても、原作と劇場版の両方から発見がある素敵な作品であると須川教授、矢野氏それぞれが強調していた。
第2回新潟国際アニメーション映画祭は3月20日まで開催、チケットは絶賛発売中。公式サイトでのクレジットカード決済、または上映会場にて現金でも購入可能(※一部例外もあり)。チケット販売、プログラム、会場など詳細は公式HP、SNSで随時告知する。
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