2025年3月3日(月)18:30
押井守監督「イノセンス」続編は“条件付き”でイエス 大塚明夫「在りし日の田中敦子のことを思い出していただけたら」
2004年の公開から20周年を記念し、4Kリマスター版が劇場公開されている「イノセンス」の公開20周年記念トークイベントが3月2日、東京・TOHOシネマズ新宿で行われ、主人公バトー役の声優・大塚明夫と押井守監督が出席した。
SFアニメーションの金字塔的作品「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」(以下「攻殻」)とその続編「イノセンス」の劇場公開を記念して行われた本トークイベント。20周年を祝福する貴重な場ということで、この日のチケットは即完売。満席の会場を見渡した大塚は「こんなにたくさんの方が20年前の作品に集まっていただいているということに胸がいっぱいになります」と感慨深い様子を見せた。
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「20年前の作品ということで、この20年間何をやっていたんだろうと。いろいろやっていたハズなのに何も思い出せない。きっとこの作品で死ぬ思いをしていたんで、記憶が飛んでしまったのかもしれない」と切り出した押井監督が「今日初めて観る方は?」と質問するとパラパラと手があがる。少なくとも半分以上の観客が一度は鑑賞しているということで、「きっとこの作品をスクリーンで観た人は『攻殻』よりも極端に少ないと思います。当たらなかったからね」と自虐的に語って会場を笑わせると、「今日は大きなスクリーンで堪能していただければ」と呼びかけた。
この日は、直前まで上映されていた「攻殻」から続けて本作を鑑賞するという観客の姿も見受けられた。そのことを踏まえて「いきなり『イノセンス』からだと何だか分からない、という人もいるかもしれない」と笑った大塚は、「僕も当時、この役をどう演じたらいいんだろうと思って押井さんに質問したら、『簡単ですよ。バトーの恋の物語です』と。そうだったのかと思ったらあっという間に映画のつくりが見えてきた。それを楽しむためには『攻殻』でのバトーのさみしい気持ちを引きずったまま『イノセンス』をご覧になるといいかなと思います」とアドバイス。さらに「今日ご覧になっていない方は『攻殻』を思い出していただいて。在りし日の(『攻殻』の主人公・草薙素子役の声優)田中敦子のことを思い出していただけたら」と故人を偲んだ。
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そんな「イノセンス」の企画については「『攻殻』から4、5年たった後だったと思うけど、(Production I.Gの)石川というプロデューサーに呼び出されて。当時アニメもやってなくて、辞めちゃおうかなと思っていた時期だったんですけど、『今(アニメ業界に)戻ってこないともう誰もあんたと一緒にやってくれる人がいなくなるよ、いい加減あきらめてスタジオに戻れ』と言われて。自分もアニメをつくるのはつらいけど、嫌いじゃないし自分に合っているなと思ったんで、企画を3本出した。そのうちのひとつがこれでした」と説明。「やはり『攻殻』は自分の中で終わっていないんですよ。あの後の素子をもうちょっと観たいという気持ちもあったし、残されたバトーの思いを引きずってみたかった、だから脚本も自分の中では抵抗もなくすんなりと。2週間くらいでできた」と述懐。そんな「イノセンス」のオファーを受けた大塚は「もううれしくて。心臓が止まるかと思いました」と喜んでいたという。
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この日のトークでは「続編をやりたい?」といった質問もぶつけられ、それにはふたりとも「イエス」と返答。「条件付きですけどね」と前置きした押井監督は、「実際3作目をやりかけたこともあるけど、諸事情があって形にならなかった。ただやり残したことがひとつだけあるんで、その話がやれるんだったらやりたい」と続編にも“条件付きで”意欲的な様子。その言葉に大塚が「ご来場の皆さまにも押井さんからの熱い思いがダイレクトに届いたと思うので。皆さんもそれぞれの地元で続編が観たい、という宣教師のような使命感を持って日々を生きていただきたい」と観客をあおると、会場に大きな拍手が鳴り響いた。
草薙素子役の田中敦子さんは、2024年8月20日に逝去。そんな田中さんとの思い出を「『攻殻』の時って僕もまだ声優をはじめて間もない頃で。音響監督の若林(和弘)さんとよく仕事をさせていただいていたんですけど『素子役がいないんだよね』という話になったんで、『うちにひとりいるよ』と田中敦子氏を推してみたんですけど、見事オーディションに通りました。そんなことを考えると『攻殻』という作品を通して一緒に年をとってきたんだなという感じがある」と大塚が語ると、押井監督も「僕は個人的に敦子さんと話をしたことがなかった。いつも(録音ブースの)ガラス越し。廊下ですれ違ってもそれは田中敦子という女性であって、マイクの前に立った瞬間から素子という感じだった。先ほど続編は“条件付きで”という話をしたけど、素子をどうするんだということもある。2作目と同じように魂だけの存在というわけにもいかないし、だとしたら声ナシで……それもいいかもしれないけど。ただそれはあくまで仮定の話だからね」と思いをめぐらせている様子だった。
興味深い話が続々と飛び出したこの日だが、この日はサイン入りグッズが当たるじゃんけん大会も実施。押井監督も「じゃんけんは強いんですよ」ということで参戦。押井監督とじゃんけんをするという貴重な機会に観客も大盛り上がりで、20周年を華々しく盛り上げた。
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