2022年12月24日(土)20:00
【編集Gのサブカル本棚】第21回 私と「エヴァンゲリオン」
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旧「エヴァ」こと「新世紀エヴァンゲリオン」が、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」で完結して25年が経つ。今思うとアニメを見だすのも、映像の構造に興味をもったのも、今につながるアニメ関連の編集・執筆の仕事をするのも、すべて「エヴァ」がきっかけだった。
「QJ」庵野監督インタビュー
「エヴァ」の放送がスタートした1995年、筆者は地方の大学1年生で文芸研究部と漫画研究会を兼部していた。漫研部員の大半が「エヴァ」を見ていて、部室ではその話でもちきりだった。漫画とゲームが好きで漫研に入った筆者は数少ない未視聴組だったが、部員宅で1話だけリアルタイムに見る機会があった。けれど、エヴァが活躍しない渋い話数の第拾参話「使徒、侵入」だったからか当時はまったくピンとこず、最終回をめぐる賛否両論の盛り上がりも蚊帳の外状態だった。
そんな筆者が「エヴァ」を見ようと思ったのは、「サルでも描けるまんが教室」以来ずっとファンだった竹熊健太郎氏がカルチャー雑誌の「Quick Japan」(以下「QJ」)で行った庵野秀明監督のロングインタビューを読んだからだった。「エヴァ」の最終回を見た竹熊氏が「QJ」で取り上げるべきだと編集長の赤田祐一氏に提案し、「説得 エホバの証人と輸血拒否事件」などで知られるノンフィクションライターの大泉実成氏とふたりで庵野監督に取材を敢行。「QJ」の複数号に掲載され、のちに2冊の書籍にもなった。
このインタビューがすこぶる面白く、インタビューをより楽しむために作品も見ようと漫研の先輩に録画したビデオを借りた。当時、自己啓発セミナーのようだと言われた最終回もアニメの素養がなかったからか素直に楽しめ、樋口真嗣監督が絵コンテを担当した「アスカ、来日」「瞬間、心、重ねて」が特に面白かった記憶がある。その後、庵野監督の前作「ふしぎの海のナディア」のビデオも貸してもらい、樋口監督が手がけた「島編」を見て驚いた。言葉を選ばずに言うと“作画崩壊”ギリギリの酷い映像なのに最高に面白い。そのことを大学に8年ぐらいいる漫研の主みたいな先輩(特撮ファン)に話すと、「ハッハッハ、ヒグチはエンタメのなんたるかを分かっているからな!」と高笑いしながら「究極超人あ~る」の鳥坂先輩のようにレクチャーしてくれた。「QJ」のインタビューを頼りに、初期GAINAX作品の「王立宇宙軍 オネアミスの翼」「トップをねらえ! GunBuster」なども見て即席アニメファンになったが、ここまでだったら庵野監督ファン、GAINAXファンで留まっていたと思う。
その後、別の先輩が自分は使わないからとLD(レーザーディスク)のデッキを譲ってくれた。当時ブルーレイはもちろんDVDも存在せず、映像ファンは直径30センチの盤面の表裏にデータが記録されたLDを購入していた。譲ってもらったパイオニアのLDデッキは最新式で、表裏を自動でひっくり返してくれるタイプだった。それで何かソフトを買おうとなんとなく「エヴァ」のLDを買ったのが、今の仕事につながる分岐点になった。
「エヴァ」LD購入が分岐点
あなたは映像を見るとき、映像がカットの連続でできていることを意識しているだろうか。それまでの筆者は、まったく意識していなかった。映像は単独の1カット1カットを編集でつなげてできていて、だからこそ「カメラを止めるな!」のような1カット撮影の作品が大変な手間と工夫をこらして作られていることも分かる。この文章も文字の羅列だとは感じずに自然と読まれているはずだが、それと同じように「エヴァ」以前の筆者は映像の構造をまったく意識せず、ただ見ていただけだった。
「エヴァ」の1、2話が収録されたLDの1巻を購入し、せっかく買ったのだからと何度も見返した。そこで初めて映像はカットのつながりでできていることに気づくことができ、映像の見方が変わった。「演出」という概念を知り、カットのつながりや構図を意識して見るようになり、映像を語るための言葉が少しずつ分かるようになっていった。
例えば第弐拾弐話「せめて、人間らしく」では、アスカとレイがエレベーターでふたりきりになったシーンで約50秒間、環境音のみでほぼ画面が静止したまま沈黙が続く。現実にもありそうな気まずさ全開の緊張感あふれる演出だが、筆者はこのシーンを見てアニメは多くの場面で「止まっている」こと、あえて止めることで緊張が生まれることを知った。「エヴァ」は映像の感度が鈍い筆者のような人間でも演出をしていることに気づけるぐらい、明快でソリッドな演出が施されていたのだ(もちろん見巧者にしか分からない繊細な演出も多かった)。同作に絵コンテで参加した佐藤順一監督(ペンネーム「甚目喜一」で参加)は、LDの解説書「エヴァ友の会」収録のインタビューで、「『エヴァ』の演出は評価すべきポイントがはっきりしている。批評が苦手な人でも批評できるように作ってある」と語っていた。
「アニメスタイル」に感銘
「QJ」の記事をきっかけに庵野監督の他のインタビューを探すなかで、再び面白い記事に出合った。アニメ専門誌「アニメスタイル」創刊号(第1号)収録のロングインタビュー「アニメとは情報である」は目を開かれる発言ばかりだった。「観る人にどう情報を与えていくかをコントロールする」「最低限の作業で最大限の効果っていうのは、演出サイドが一番考えなきゃいけない事」など庵野監督の言葉で創作の秘密が明かされ、「基本的にアニメって穴の空いた船」「沈む前に港に着けるか」という、今ではよく語られる過酷なアニメ制作の実態についても率直に語られていた。「QJ」とは違うベクトルで、こんなに面白いインタビューがあるのだと感銘をうけ、アニメのメイキングの奥深さを知ることができた。
「アニメスタイル」は編集プロダクションのスタジオ雄が編集(※現在は出版社「スタイル」が編集)、庵野監督インタビューは同誌編集長の小黒祐一郎氏が担当。小黒氏が代表を務めるスタジオ雄は、旧「エヴァ」LD・ビデオのジャケットや解説書、劇場版パンフレットの編集などを手がけていた。大学卒業後、出版社2社の勤務を経て無職だった筆者は、臨時の手伝いを募集していた同社で縁あって働きはじめ、現在の職場に移るまで約12年半お世話になった。大学時代に「エヴァ」を見ていなければ、アニメに関わる仕事をしていなかったと思う。(「大阪保険医雑誌」22年8・9月合併号掲載/一部改稿)
編集Gのサブカル本棚
[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。
作品情報
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西暦2015年。第3新東京市に、さまざまな特殊能力を持つ"使徒"が襲来した。主人公・碇シンジは、人類が"使徒"に対抗する唯一の手段である人型決戦兵器エヴァンゲリオンの操縦者に抜擢されてしまう。今...
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