スマートフォン用ページはこちら
ホーム > ニュース総合 > 特集・コラム > 編集Gのサブカル本棚 > 【編集Gのサブカル本棚】第42回 ガンプラの進化の素晴らしさと「市場の歪み」

特集・コラム 2024年10月14日(月)19:00

【編集Gのサブカル本棚】第42回 ガンプラの進化の素晴らしさと「市場の歪み」

イメージを拡大

今年に入ってからガンダムのプラモデル(略称「ガンプラ」)づくりにハマっている。きっかけは、2021年の発売時に話題になった初心者向けのガンプラ「ENTRY GRADE 1/144 RX-78-2 ガンダム」。随分前に買ったのをずっと放置していて、正月に重い腰をあげて組み立ててみたら、今のガンプラってこんなに進化しているのかと驚いた。

にわかプラモファンに

「初めてガンプラに触れる人、久しぶりにガンプラを組む人、ガンプラをこよなく愛する人、全ユーザーにお届けする新感覚の組み立てが体験できる」という謳い文句にまったく嘘はない。昔のガンプラには必須だった接着剤は不要で、各パーツに白、赤、青、黄の基調カラーがすでについているため塗装の必要もない。手でパーツを折りはずすことができるためニッパーもなくていい。74個あるパーツを小1時間かけて組みあげれば、「ガンダム」と聞けばよく知らない人でも思いうかべるであろう、もっとも有名なロボット(モビルスーツ)が完成する。
 技術の粋を集めた精巧なつくりで価格はなんと税込み770円――と通販番組めいたことを言いたくなってしまうぐらいの感動があり、こんなに進化しているのならば他のガンプラもつくってみようと気になるものをこつこつ買いだしたら、あっという間に10個以上になってしまった。ロボットアニメとホビー系にくわしいライターのKさんからは、「何体もつくるなら、ちょっと高いですがアルティメットニッパーを使うと快適ですよ」と教えてもらい、訳あり品を4000円ほどで入手。プラモデルを毎月数万円ぶん買って、そのほとんどを積んでいるという仕事関係の方からは、ガンプラ40周年記念として発売された「PG UNLEASHED 1/60 RX-78-2 ガンダム」(税込み2万7500円)は凄いと勧められ、価格にひるみながらもガンプラの最高峰のひとつであるならと思い切って購入。「装甲騎兵ボトムズ」や「新世紀エヴァンゲリオン」のプラモデルにも手をだしてしまい、ホビー系の情報も定期的にネットで収集するなど、にわかプラモファンになった。
 最初に紹介したENTRY GRADEのガンダムは本当にお勧めで、「ガンダム」がお好きな方は騙されたと思って、ちょっとした工作気分で体験してみてほしい。できることならこのコラムを読んで興味をもった方すべてにプレゼントしたいぐらいで、実際「ガンダム」ファンの同僚に半ば無理やり進呈するという布教活動をするぐらい素晴らしい商品だった。

ホビーの視点でアニメを観る

ガンプラに興味をもってから、少しだけアニメの見方が変わり、ホビーの視点からも見られるようになったのは収穫だった。このアニメはプラモデルが発売されるのだろうかと気にかかり、「仮面ライダー」や「プリキュア」シリーズなどで、ホビーの情報から物語の先の展開が情報解禁されるようなことが、「ガンダム」シリーズの場合にもあることが実感として分かるようになった。今年1月に封切られて大ヒットした劇場アニメ「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」が、公開前までどんなモビルスーツが登場するかを周到に伏せていたのは、ある意味それが詳細なストーリー以上に重要な情報であることが理解できたし、公開後その情報を早々にオープンにする必要があったのは、映画の盛り上がりにあわせてプラモデルを売らなければならなかったからだということもよく分かった。

転売と中古市場

現状、通販サイトや量販店でお目当てのガンプラをすぐに購入することは難しい。入荷しても即売り切れてしまうことが多く、転売目的で買われて高値で取り引きされるケースが多発している。プラモデルという性質上、中古でも実質新品と変わらず、「ガンダム」のプラモデルは他のタイトルと違って極端に値下がりすることもない。ここ半年ぐらい都内の量販店に足を運んだり通販サイトでチェックしたりして、ふだんの売り場の光景が「一部の商品が置いていない」ではなく「一部の商品しか置いていない」状況であることが分かった。店頭にはまったく商品がないのに、個人取引のネットサービスで欲しい商品名を検索すると、定価の数倍の価格で多数出品されている。必要とされている人にいきわたらず、転売用の商材として組織的に買い占められているケースもあるようだ。
 4~6月に放送されたテレビアニメ「変人のサラダボウル」の5話では、転売の問題が具体名を絶妙にぼかしながらユーモラスに描かれていた。世のため人のためになる仕事だとそそのかされて転売組織で買い子のアルバイトをしたキャラクターは、転売とはメーカーやユーザーなど、あらゆる人々にとって害悪な行為なのだと強く諭される。この作品の場合、異世界からやってきて日本の転売事情をまったく知らない人物として描かれているからギャグとして成立しているが、現実でもこれぐらい悪意のないままナチュラルに転売に手を染めている人は多いのかもしれないと思った。
 投資や経済に関する著書が多い橘玲氏の本には、「市場の歪み」というフレーズがよくでてくる。株式市場では、相場より安い株は市場原理で必ず相場の価格に近付くため、そうした市場の歪みをいち早く見つけることが、個別株で短期的に儲けるひとつの方法なのだそうだ(個人でそれを行い続けるのは至難の技であるとも書かれている)。この話をプラモデルの転売問題にあてはめると、需要に供給が追いついていないのは大前提として、そもそもプラモデルの定価がその価値よりも安いから転売が成立しているという考え方もできる。良心的な定価の数倍で転売されても、欲しい人はそれだけの価値があると感じるからつい買ってしまう。転売屋は市場の歪みをつき、その価値を最大化することで利益を得る。それゆえ道義的には大いに非難されるべき行為であるものの根本的な解決は現状では難しく、転売屋から買う行為をふくめて転売には加担しないのがいちばんなのだろう。ただ、転売と一般的な中古売買に明確な線引きは難しく、中古市場で取り引きされることで物が時代を越えて残っていく良い側面もある。漫画を中心に扱う古書店グループ「まんだらけ」の公式サイトには「時を司る集団」という言葉がかかげられ、同社の創業者・会長である古川益三氏の文章から採られている。セカンダリー・マーケットがもつ社会的意義をよくあらわした良い言葉だと思う。
 ガンプラの転売状況は関係者の努力によって改善しつつあるようで、新旧のアイテムが定期的に再販売され、転売しても割に合わないであろう商品が多く見られるようになってきた。筆者が強くお勧めする770円のガンプラも、ある程度の時間をかけて量販店のおもちゃ売り場やネットショップをチェックすれば定価以下で買うことができる。(「大阪保険医雑誌」24年7月号掲載/一部改稿)

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

作品情報

変人のサラダボウル

変人のサラダボウル 17

貧乏探偵、鏑矢惣助が尾行中に出逢ったのは、魔術を操る異世界の皇女サラだった。なし崩し的にサラとの同居生活を始める惣助だが、サラはあっという間に現代日本に馴染んでいく。一方、サラに続いて転移してき...

2024春アニメ 作品情報TOP イベント一覧

特集コラム・注目情報