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特集・コラム 2025年5月6日(火)19:00

【編集Gのサブカル本棚】第48回 「オーイ!とんぼ」のエバーグリーンな魅力

(C)かわさき健・古沢優/オーイ!とんぼ製作委員会

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毎週楽しみに見ていたゴルフアニメ「オーイ!とんぼ」の第2期が、1月4日の放送で最終回をむかえた。2024年4~6月放送の第1期、同年10月~25年1月放送の第2期、通算全26話(2話分は総集編なため実質全24話)。放送中にじわじわと作品の良さが広まり、第1期の放送中にタレントの伊集院光氏が自身のラジオ番組でお勧めのアニメとして挙げたことが話題にもなった。筆者のアニメ関係の知り合いにもファンが多く、同作のファンであることをSNSで発信しているアニメファンも多かった印象だ。

ゴルフ専門誌の漫画が原作

オーイ!とんぼ」は、「週刊ゴルフダイジェスト」で10年以上連載中で単行本が50巻を超える漫画が原作(原作:かわさき健、作画:古沢優)。ゴルフ専門誌の漫画を土曜朝帯の枠でアニメ化するとは渋いなと思い、放送開始時はいつもの新番組チェックの流れで1話だけ見るつもりだった。
 主人公は、人口の少ない離島で育った中学3年生の少女・大井とんぼ。幼い頃に両親を亡くして祖父に引きとられた彼女は、父の形見である3番アイアンのみを使って、島の自然をいかしたゴルフコースで自己流にゴルフの腕をみがいていた。そこに、ある理由でプロゴルファーの資格をはく奪された中年男性・五十嵐一賀(愛称イガイガ)が職を求めて逃げるように島にやってくる。自由奔放で天才的なとんぼのゴルフに驚愕したイガイガは、彼女と交流しながら島の外へ連れ出して競技ゴルフを体験させたいと思うようになる。
 大枠だけ見ると、男性に愛好者が多い趣味を少女に体験させる、深夜アニメによくある作品に思えるが、社会人が主要読者であろうゴルフ専門誌の漫画ならではの大人のドラマがベースにあって老若男女を楽しませるエバーグリーンな魅力に満ちている。ゴルフ専門誌の読者を満足させ続けた漫画だけあって、とんぼのゴルフがいかに型破りであるかがイガイガのセリフで解説されるが、それらは分からなくてもまったく問題ない。両親を亡くしたときに親戚から厄介者扱いされた辛い過去から一生島を出ないと決めているとんぼ。仕事も家族もなくしてどん底状態のイガイガ。そんな2人がゴルフを通して時にぶつかり合いながらも心の距離を縮め、ともに新たな一歩を踏み出そうとする。そうした過程が、島の自然とそこで生きる優しい島民たちに見守られながらじっくりと描かれる。
 劇画タッチの原作漫画の絵を、アニメ版では子どもでも見られるルックに落としこみ、イガイガがプロゴルファーの資格をはく奪された理由もマイルドなものに変更。原作漫画を読むとアニメ版は端折っている箇所が多くあることが分かるが、それでもとんぼが島を出ることを自ら決意するまでに第1期まるまる全13話をかけている。
 第2期では舞台を熊本に移し、とんぼが初めて競技ゴルフの世界にふれる「九州女子選手権編」が展開される。プロを目指して厳しい練習を積んできた同年代の少女3人との戦いを通して、とんぼのゴルフが異質であることがさらに際立ち、とんぼ自身も競うゴルフのなかで「外せない1打」の重みに気づく。ライバルの少女3人もそれぞれの覚悟や背負うものがあり、サブキャラクター個々のドラマにも胸打たれるものがある。ゴルフの道具や球の打ち方などの蘊蓄は、ゴルフ未経験者の筆者にはちんぷんかんぷんだったが、アニメ版を見ることで、競技ゴルフにおける1打の重みや選手間の駆け引き、紳士のスポーツと言われるゴルフで自分を律することなどは十分に理解できた。

力強い王道の物語

とんぼやイガイガ、ライバルの少女たちだけでなく、とんぼが居候する一家でレッスンプロをなりわいにする長男がイップスに苦しんでプロを断念した過去をもつなど、「オーイ!とんぼ」の登場人物には夢を諦めたり何かを失ったりしたキャラクターが多い。人生の機微を感じさせるほろ苦い描写も多く、浪花節的に感じる人もいるかもしれないが、ストレートで力強い王道のストーリーは、今のテレビアニメのなかでは貴重なもののように感じた。第1期と第2期の終盤にはそれぞれ大きな盛り上がりが用意されていて、特に第2期のラストであるキャラクターが懺悔するシーンには大きく心を動かされた。
 舞台のモデルになった島やゴルフ場をロケハンし、ゴルフのシーンでは3DCGを使うなど巧みに映像化されているが、最近のテレビアニメのなかで突出して映像のカロリーが高いわけではない。それでも見る人の心をつかみ、キャストの好演も相まってキャラクターに愛着をもたせ、物語の展開に一喜一憂させる。言葉にすると当たり前のことではあるが、胸にじんわりくる良い作品を久しぶりに見たという実感があった。ゴルフ愛好者の間では有名だった隠れた名作を、おそらくビジネスとしては未知数ななかアニメ化し、その素晴らしさによって原作ともども作品が広がっていく。理想的なアニメ化のかたちで、アニメ化プロジェクトは一端ここまでのようだが、ぜひ第3期以降も製作してもらいたいと期待している。そのためにも、未見の方にはひとりでも多く「オーイ!とんぼ」を見ていただきたい。

ベクトルの違う女子ゴルフ物

オーイ!とんぼ」を監督したのはアニメ「ポケットモンスター」シリーズなどで知られるアニメスタジオOLM(オー・エル・エム)の社員演出家で、「ベイブレード」シリーズなどを手がけてきた韓国出身のオ ジング(오진구)氏。オ ジング監督のX(Twitter)では作品の裏話のほか、2人の娘の父としての日常も投稿されていた。同作の放送時、オ ジング監督の次女はとんぼと同じ中学3年生、監督はイガイガと同い年だったそうで、父と娘のような関係になっていくとんぼとイガイガの自然体な感じがよく出ていたのは、そうした偶然も作用したのかなと思う。
 そんなオ ジング監督が「オーイ!とんぼ」を手がけるにあたり、イメージが上書きされないよう最後まで見ないようにしていたと投稿していたのが、テレビアニメ「BIRDIE WING(バーディーウイング)–Golf Girls’ Story–」(2022~23年放送)だった。こちらはオリジナル作品だが、「オーイ!とんぼ」と同じ女子ゴルフが題材。賭けゴルフで生活費を稼ぐスラム街の少女イヴ、大企業の令嬢でゴルフ界のサラブレットと呼ばれる天鷲葵、タイプの異なる2人の天才女性ゴルファーの勝負を軸に、クセの強いサブキャラクターが続々と登場しながら荒唐無稽ギリギリのストーリーが展開される。ある年代以上の方か藤子不二雄A氏のファンの方には、女性版の「プロゴルファー猿」と言えばどんなテイストの作品か分かっていただけるはずだ。「オーイ!とんぼ」とベクトルは違うが、キャラの立ちっぷりと、とにかく先を見たくなる物語の面白さは共通で、放送当時こちらも毎週楽しみに見ていた。
 今年1~3月に放送されたオリジナルテレビアニメ「空色ユーティリティ」も女子ゴルフが題材だ。自分が特別になれる何かを探していた女子高生がゴルフの楽しみをいちから知っていく姿をゆったり描く深夜アニメらしい1作で、シンプルな線で描かれたキャラクターによるアニメーションが眼福な作品だ。(「大阪保険医雑誌」25年2月号掲載/一部改稿)

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

作品情報

オーイ!とんぼ

オーイ!とんぼ 10

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