2018年3月27日(火)19:00
【前Qの「いいアニメを見に行こう」】第2回 おっさん、「宇宙よりも遠い場所」に感動
(C) YORIMOI
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「宇宙(そら)よりも遠い場所」がクライマックスを迎えている。放映は残すところ最終話のみ。2018年1月クールは「ポプテピピック」という変化球……いや、もはや〈魔球〉と呼ぶのがふさわしいようなタイトルがアニメ界を席巻したシーズンだったが、本作はある意味で、その対極にあるような一作だ。
オーソドックスに質の高い映像表現、登場人物たちの心情を丁寧に描いたドラマで魅せるド直球。毎週毎週、厳しい目つきで打席に立った視聴者のバットを豪快に叩き折り、涙腺という名のミットに突き刺さり、心の球場に爽やかな泣き声を響かせてくれた。
……なんじゃい、この比喩は。恥ずかしくて軽く死ねますね。
ひとことで言えば「全俺が泣いた」という感じです。印象的なシーン、演出が多々ありました。3話のラスト、結月のホテルの部屋を3人が尋ねて来るところの流れ。3人にとっては何気ない行動なんですけど、長く芸能生活を送ってきて、友達をつくることのできなかった結月にしてみれば、初めて同年代の子たちが自分のつくった心の壁を乗り越えて来てくれた瞬間だったわけですね。グッと来ますね。4話の「うるかにしてください」のところもよかったですよ。「うるさい」と言いかけたのを、他の3人より年下の結月は気を遣って「静かにしてください」と言い換えようとする。その結果として生まれた変な言葉。それに対してキマリたちがツッコミを入れるまでにちょっと間ができる。そのタイミングの絶妙さ。脚本と演出の合わせ技で生まれた良シーンでしょう。6話の報瀬と日向がお互いに気を遣い合ってしまう流れもいい。無神経さから諍いが生じるのではなく、お互いに物事をよく考えるタイプだから起こってしまうすれ違い。凡庸な作品だったら、鈍感な方が繊細な方の気持ちに気づくまででドラマを作ってしまうでしょう。そういうことをしない作品なんですね、このアニメ。で、ここの展開があるから11話で報瀬が日向を大切な友達だと宣言するシーンが際立つんですよ。なんて素晴らしいシリーズ構成。そしてこうした細やかな感情の積み重ねが何より映えるところといえば、12話のラストのメールで……って、このへんにしときましょっか。完全に識者のコラムじゃないですね、これ。ただの高ぶったオタのダベリ。まあ、そういうコラムなんでお許しくだされ。
あ、キャラクター愛に関しては、発売中の「電撃萌王」の連載コラムで書いてますんでよろしくお願いします(唐突に宣伝)。
それにしても今作、「女子高生が南極を目指す」という目標の設定が絶妙だと思うんです。文化祭でライブや演劇を成功させるよりは大変でしょう。それまで大した実績のない学校が、部活の全国大会で優勝するのと比べるのは……ちょっと判定が難しい。宇宙人や未来人や異次元人に会うことに比べれば、現実味がある。手が届きそうで、届かなそう。
「中二病」だとか「意識高い」だとか、勘違いした人を揶揄する言葉がカジュアルに使われる昨今です。まあ、その手の言葉で呼ばれる人たちには実際にかなりキツいタイプもいて(「まだ東京で消耗してるの?」だの「自分の頭で考えよう」だの……)、どっちかというと僕もそうした人をせせら笑うタイプではあるのですが、なんでもかんでもそれで済ませていいものではないわけですよ。デカいことをやろうとしないやつには、デカいことはできないっすからね。
「女子高生が南極を目指す」というのは、そうした大きな夢を諦めないことの大切さを説得力を持って描くにあたって、いい按配だなと思う次第。
中二病に罹らないことには、見ることのできない景色がある。本作に感動した方におかれましては、いつか「ざまあみろ!」と叫ぶ日を信じて、心折れることなく目標に向かって邁進していただきたいと切に願うわけです。若い人はもちろん、そうでない人であっても。
……って、あれ、こんなおっさんくさい結論でいいのかしら。いいか。事実、おっさんですしね。ははは。
……軽く死ねますね(2回目)。
前Qの「いいアニメを見に行こう」
[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ) 1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。
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