2019年5月20日(月)19:00
【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第17回 毎日通いたい定食屋のような「RobiHachi」
(C)馬谷たいが/株式会社ドンツー
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高松信司監督の作品は癒やし。見るとホッとする。放映中の「RobiHachi」もそう。やっぱり、ホッとする。落ち着く。
仕事柄、日々、大量のアニメを視聴している。自分の好みに合うものばかりではない。中には、時代の感覚を捉えたくて、少々我慢しながら触れるような作品もある(……なんだか偉そうな物言いだな~)。当然ながら、気は休まらない。また、おもしろい作品であっても、見ると疲弊するものがある。感情が激しく乱高下させられるもの、画面内に詰め込まれた情報密度が高いもの、作画や演出を集中して読み解く必要があるもの……などなど。刺激的で、素晴らしいけれど、受け止めるにはエネルギーを要する。豪勢なご馳走を食べるときには、胃腸の調子を整えておかないとツラい。そんな感じ。
さて「RobiHachi」。「東海道中膝栗毛」を宇宙SFテイストに翻案した設定をベースにした、バディ(相棒)もののロードムービーだ。ダメ中年のロビーとカタブツのハッチの組み合わせは、「TIGER&BUNNY」の虎徹とバーナビーをちょっと思い出したりも。つまりは萌え(断言)。こういう2人がワチャワチャしてるの、尊い。
閑話休題。古典の設定を下敷きにした作品のよいところは、見取り図が明瞭なことだ。「ああ、とにかく2人組が珍道中を繰り広げて目的地に向かうのね」とだけ理解すれば、話の展開を最低限は理解できる。難しい設定を知らなくていい。すんなり目的地に着いたら話が終わってしまうから、行く先々でアクシデントが起こる。アクシデントは土地々々の風物にちなんでおり、ゲストキャラクターも土地柄に即したもの。火星であればタコ型の宇宙人がおり、冥王星は寂れた観光地(惑星じゃなくなったから……)で物悲しいマスコットキャラがおり、水の星なら半魚人がおり、イメージに混乱がない。
だが、わずかな一捻りが加えてある。たとえば、主役の2人、ロビーとハッチが乗り込む宇宙船・ナガヤボイジャーに、なぜか搭載されている合体ロボ・ヒザクリガー。タコ型の宇宙人は正体を隠しており、冥王星には……これは説明すると野暮だな。まあ、目的地である宇宙の彼方・イセカンダルにちなんだひとネタがある。こういうのが重要だ。わかりやすい、でも、安易ではない。「おっ! 気が利いてるねぇ!」と感じさせる一工夫。ごはんに味噌汁、サラダ、主菜に漬物が添えられたシンプルで庶民的な定食だけど、味噌汁の具は家ではなかなか試さないようなサムシング。親しみの湧くものと、驚きのちょうどいい塩梅。毎日通いたい、飽きない日替わり定食の感じ。衝撃的な創作料理のように騒がれはしないが、ある意味、そうしたものよりもこのバランスを作り上げるのは難しい。まさに職人芸だ。
高松監督の作品には、いつもそのバランスがある。「スクールランブル」にしろ、「銀魂」にしろ、「男子高校生の日常」にしろ、「イクシオン サーガ DT」にしろ、今作の企画に繋がった「美男高校地球防衛部」シリーズにしろ、そう。昨今、テレビアニメは全体として、高級フレンチや満漢全席を目指す傾向があるように思う。または逆に、軽めのファストフードのような作品も増えた。どちらもいいところ、悪いところがあるが、ともあれそんな状況では、良心的な定食屋のありがたみが沁みる。毎クール……とまでは贅沢を言わないが、半年に1本くらいは、こういう作品があってほしい。そんなことを願う、いろんな意味でヘルシー志向な、最近のワタクシであった。
ゲストヒロインも、一癖あるデザインだけど、みんなかわいい。亜人ちゃん萌えの人は特に要チェックだ。こんなところも気が利いている。
では、また次回。
前Qの「いいアニメを見に行こう」
[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ) 1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。
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