2022年11月26日(土)19:00
【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第45回 2022年秋の作画祭り?(「ぼっち・ざ・ろっく!」を中心に)
(C) はまじあき/芳文社・アニプレックス
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2022年の10月クールは作画マニアにとってはなんだかとんでもないことになっているんではなかろか。私は作画に関しては典型的な「下手の横好き」ってやつで、テクニカルな解析をゴリゴリにできる「マニア」ではないのですが、それでも今期のテレビアニメで、同時多発的に何かとんでもないことが起きているのはわかる。
個々の作品をそれぞれに掘り下げることは後年でも比較的やりやすいが、同時代の作品として並べて俯瞰することができるのは、今の時代を生きている人だけ……ではないものの、後追いの人たちにはなかなかそうした、横の視点を持つのは難しいはず(1982年生まれの私は、アニメライターとしてものを考えるとき、そこでなかなか苦労してきました、ははは)。というわけで、いささか乱暴にではあるものの、4作品ほど注目のものを並べて雑感を記しておこうかと。
まず「ぼっち・ざ・ろっく!」。「まんがタイムきらら」系列誌で連載されているバンドもの4コマのアニメ化といえば、どうしたって先行する「けいおん!」を連想せずにはおれないわけで、作り手の側がどれくらい意識しているかはさておき(あんまりしていない気がする)、見る方としては鮮烈なアニメ体験を期待してしまう。制作体制が「ワンダーエッグ・プライオリティ」「その着せ替え人形は恋をする」の流れにあるし。そんな身勝手な期待に存分に応えてくれる内容だ。
美少女キャラクターの表現においては、日本のアニメが長年かけて洗練させてきた様式美的な手描き作画の魅力が堪能でき、そこにしばしばハッとするような、実写「的」な日常芝居が混ざる(たとえば、2話のライブハウスでバイトをする一連のシーンで、モップがけをするカットの作画とか)。
作品の見せ場である演奏シーンでは専任のスタッフを立て、モーションキャプチャーを活用しつつ、適切な調整を加えて、あくまで「作画」としての魅力を組み立てている。密度が高いメカ作画が要求されるアニメに近い制作体制といいますか。ちなみに曲もいい。実にいい。
そこにさらに、まるで「ポプテピピック」のようなインディーアニメ的なパートや、実写パートまでが挟まり、映像の幅を広げている。
この「ぼっち・ざ・ろっく!」を真ん中において、左に「Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-」と「ヤマノススメ Next Summit」があり、右に「チェンソーマン」がある……というような見取り図が、なんとなく私の頭の中にはある。
基本影なしのシンプルでシルエット重視なキャラクターデザインで、手描き作画ならではの柔らかい表現のおもしろさを追求しているように見える「Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-」。毎回ハッとするような気の利いた構図やキャラクターのポージングがあり、ダイナミックな動きも堪能できる。たとえば5話で本格的に登場する幸希心が披露するパルクール(というか、忍者アクション)とか。
主人公のせるふちゃんが電ノコみたいな危ない道具を扱っているのにドギツいドジっ子で、いつか致命的な大怪我しそうでヒヤヒヤしちゃうのだけは困ったもんだけど……とかいうのは余談。
「ヤマノススメ」はもはやいうまでもないだろう。もう4期だし。超乱暴なことをいえば、そもそも「ヤマノススメ」がコツコツと耕してくれた土地に実った果実が、今期の一連の作画アニメという気がしなくもない。監督とキャラクターデザインを筆頭に腕利きのスタッフが、演出に関する感度も高い若いアニメーターの力を存分に活かして制作体制を構築してきた。ただただ楽しい美少女アニメでありながら、同時に映像表現として研ぎ澄まされた、エッジな表現が飛び出す。相変わらずすさまじい。眼福だ。
「チェンソーマン」は、ここまで挙げてきたタイトルに強く見られる、洗練されたアニメの様式美を極力排除した、実写的アプローチのなかで作画の新しいおもしろさを模索しているように感じられる。原作のジャンクな味わいとはいささか異なる地点を目指しているようで、ゴリゴリの原作ファン(私だ)は見ていていささか戸惑ってしまうところもあるのだが、ここで何か、圧倒的な「事件」(強調しておきたいが、「事故」ではない)が起きているのはわかる。いまのところ1話を除いて、毎話のエンディングにエッジの立ったクリエイターを起用し、近年の先鋭的なアニメMVムーブメントを取り込んでいるようなところがあるのも、注目に値する(……なんで妙に偉そうな文体なの?)。
今回名前を挙げた4作品は、参加しているアニメーターが重複していたり、そうでなくても相互にスタッフ間で交流があったりするようで、そこもまたおもしろい。「点」だけではなく、「線」や「面」で捉えることができそうで、そういう場所には熱気が宿る。ここから何か、さらに大きなムーブメントが生まれていくのか、いや、すでに生まれているのか? 今後も注視していきたいものです。
……あっ。超絶作画アニメの「モブサイコ100 lll」が漏れてた! 「SPY×FAMILY」の2クール目も丁寧でいいよなあ。メカ作画という意味では「機動戦士ガンダム 水星の魔女」だって……ああっ、もう、ホントに今期、贅沢すぎだよ!!
前Qの「いいアニメを見に行こう」
[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ) 1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。
作品情報
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“ぼっちちゃん”こと後藤ひとりは、会話の頭に必ず「あっ」って付けてしまう極度の人見知りで陰キャな少女。そんな自分でも輝けそうなバンド活動に憧れギターを始めるも友達がいないため、一人で毎日6時間ギ...
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